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BFT-053「飛んで登れ」



「そりゃあ、天塔の罠だな。このぐらいの階層になると、たまにそういう箱があるんだよ」


「天塔が、考えて罠を配置している……?」


 開けた宝箱による、怪物の大量召喚を乗り越えた僕たち。

 21層に行くことはせず、階段で体力の回復を待って下層から戻ることにした。

 僕たちの疲弊した様子に、話しかけてきたのは顔なじみの先輩探索者だったのだ。


 油断からひどい目にあった、と告げた僕に、自分も経験があると先輩は教えてくれたのだ。


「だろうって話だけどな。時折、天塔から怪物が零れ落ちてくるのは知ってるよな? あれも、誰かがそうなる罠を踏んだんじゃないかって話もある。1月で起きる時もあれば、三月半年と何もない時もあるんだ」


「それは踏みたくない罠だなあ。回避策はあるのか?」


「なくはない。単純な話で、開けなきゃいい」


 身もふたもないとは、この事だ。

 確かに、手を付けなければ罠は無い。

 宝箱自体が、それを狙ってるというのならまさに、じゃないかな。


 問題は、それが出来るなら苦労していないということかな?


「そう微妙な顔をするなよ。わかってる。宝箱を放置出来るほど儲けてる必要があるよな。けどな、大事なことだ。生き残れば、次がある。今回みたいなやつの時に、下手に逃げれば誰かに見られてすぐ噂になるからな。そんなことをしたくないのは間違いないんだよ」


「なるほど……そばに同業者がいることも十分あり得るんだ……」


 今さら、そのことを痛感する。

 あの時は、実際に巻き込まないように必死だったけど、あの罠が僕をめがけてくるようなものじゃなかったら?

 最初から、誰でもいいからと襲い掛かる状態だったら?


 考えるほど、危なかったと言える。

 反省材料たっぷりだ。


「鍵開けを覚えるだけじゃ駄目か。なんか中身を探る方法がありゃいいんだが」


「噂じゃ、全部の罠を無効化して開けることが出来る鍵があるって話だ。成長する魔道具って噂もあるんだがな」


「鍵……鍵、かぁ」


 それ以上話すことはなさそうなので、お礼を言ってその場を離れる。

 ちなみに、カレジアたちには先に家に戻ってもらっている。

 というわけで、男二人でギルドにいるというわけだ。


「今回みたいなやつは除くとして、そろそろ貯金というか、それぞれのためのお金のことは考えたほうがいいのかな?」


「だな。どこまでいったらやろうって決めるのも難しい。そうそう、ブライトの借りてる隣も空いたらしいから俺が借りることにするよ」


 それはいい知らせだ。お隣さんってやつだ。

 組んでいるからには、普段から一緒にいられる方が話が早い。

 買い出しだって、1回で済むからね。


「俺んとこは、店ですむけどブライトの方は大変だな。村ごとなんだろ?」


「うーん。実は、村自体は復興が始まってるみたいなんだよね。クリスタリアに働きに来ている知り合いが、そう言ってた」


 露店で食料などを買い込みつつ、家へ。

 その道すがらの話だった。


 そう、村は焼かれてしまったのだけど、人も家も全滅という訳じゃなかった。

 生き残りは、近くの村や街に移動し、そこで生活をしている。

 誰も行き倒れなかったらしいというのが、すごい幸運なことは今ならわかる。


 復興と言っても、全員が全員村に戻ることはないだろうけど……。

 故郷が、そこにあるのなら僕は何かしたいと思っている。


「自警団みたいなのが、作れるといいな。もちろん筆頭はブライトでよ? ドラゴンが来てもズバっとさ」


「うん。そうなれるようには強くなりたいけどね!」


 そのためには、ワーウルフたちぐらいは楽に倒せるようにならないと、だ。

 これには急ぎの道はなくって、とにかく怪物たちを多く倒すしかないように感じている。

 怪物を倒すことで、僕たちに吸収されるあの力は……魔力とは何かが違う。


 生き物としての、立ち位置が変化している、無理やりいうとこんな感じだ。


「ドラゴンを倒せる人間は、人間って言えるんだろうか?」


「さあな。気にしてたら強くなれねえよ。ブライトのあこがれの相手たちだってその理屈で言えば、人間やめてることになるぜ?」


 こればっかりは、ベリルの言う通りだった。

 深く考えすぎないようにして、気を取り直したところで家についた。


「ただいまー」


「お帰りなさい、主様! ご飯出来てるわよ」


 家を覗き込めば、カレジアとアイシャが食器を運んでいるところだった。

 なんだか、実家に帰って来たかのような安心感がそこにある。

 無言でベリルと頷きあい、微笑む。


 怪我はともかく、どこか疲れた僕たち。

 だからと言って何もしてないのは落ち着かなくて……。

 結局、ベリルたちと一緒にだべりながら、雑魚寝することにした。


 そして、夢も見ないほどにぐっすりと、起きた時には既に外は明るかったのだ。


「とりあえず、隣借りてくるわ」


「うん。いってらっしゃい」


 ベリルと、彼についていくアイシャを見送り、僕は僕で探索の準備だ。

 今日は登らないけど、いつでもいいようにってやつだね。


 主武装の剣はそのままでいいとして、道具の類の補充がいる。

 ふと、鍵開けを練習する機材を見て思い出す。

 どんな箱でも、開ける鍵。


「僕も僕で、微妙に人間らしくないよなあ」


 朝食後の片付けをしているカレジアたちを見ながら、自分の胸元からお腹付近に手をやる。

 そこに沈み込んだ、両親の遺した古ぼけた鍵。

 僕の中の、正しくは僕の何かの殻を開くことが出来る鍵。


 念じていけば、鍵が出てくるのだから、笑うしかない。

 血に濡れた様子もなく、少し暖かいから僕の体温でかな?

 深く考えたくはないけど、鍵は前見たときと同じような……んん?


「形が少し違う……綺麗になってる」


 ぞくっとした。まさか、まさかだろう。

 現に、練習用の鍵穴に入れようとしても入らない。

 でも、本物相手にしか効果がないとしたら?


 そんな、階段を飛んで登るようなことが、本当に?


「駄目でも、損はしないよね……」


 次に天塔に登った時、試してみたいことが増えた朝だった。



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