BFT-051「手札は多い方がいい」
「火槍……ファランクス!」
ラヴィの叫びと共に、何本もの炎の槍が空中に浮かび、ワーウルフに飛んでいく。
1本1本が、僕の腕程もあるそれは回避されそうになるが、ぐいっとその向きを変えた。
ワーウルフの悲鳴をかき消すように、炎のさく裂する音が響き渡る。
離れているここまで、熱せられた空気が熱風となって迫ってくるように感じる。
「毛皮とか欲しい時には、使わない方がいいわね」
「みたいだね。調子はどうかな?」
確認に行くまでもなく、焼き尽くした形になったワーウルフ。
その死体が崩れていくのを見ながら、ラヴィの状態を確認する。
今回は、新技の確認だ。
カレジアやラヴィたち妖精に、契約主から魔力が動くのは既に実感している。
であれば、魔法を使う時に2人で1つの魔法を使うようなことも出来るのではないか、と考えたのだ。
今回は、ラヴィを抱えるようにして、その小さな手を僕の手でつかむようにして行った。
「背中やお腹がぽかぽかして、力が尽きない感じだったわ。今回みたいに、わかってる相手とか、遠くを狙う時にはいいかも」
「前衛が戦ってるときは、あぶねえな。余波で燃えそうだ」
「少し、壁の色が変わっていますもの……相当な高温のようですわね」
冷静に分析と、その結果を告げてくれる2人。
となると残るカレジアはというと……ちょっとすねた感じだった。
「私はラヴィみたいに魔法が使えませんから……残念です」
「カレジアも何か出来ると思うんだけどね……探していこうか」
これは決して慰めという訳じゃなく、本当にそう思っている。
魔力供給をしっかりしていけば、彼女も属性攻撃が行えるだろうし、もっと違うことも。
そのためには、離れていても僕から彼女たちに魔力が動かせるスキルが必要だろう。
「俺たちからすると、贅沢な話だぞ? っと、次が来た。倒してからにしよう」
音を聞きつけたのか、通路の先からやってくる新手。
にしても、灯りらしきものがないのにある程度は見えるんだよなあ、天塔。
いつも不思議で、ありがたいことだけど……。
「っ! 武器持ちがいるっ!」
叫びながら、腰から丸盾を掴んで前に出る。
武器持ちとそうじゃないほう、どっちが先……武器だ!
振り下ろされる手斧らしきものを、なんとか丸盾でそらす。
人間相手なら、ここで次の攻撃のために動くんだろうけどワーウルフは一味違った。
首をひねり、大きく口を開いてきたのだ。
「火球!」
詠唱もなし、範囲も小さな魔法がその口の中にさく裂する。
数は2つ、僕とカレジア、両方の魔法だ。
肌を焼く熱さを感じながら、後方へと飛ぶ。
「おらおらぁ!」
「参ります!」
その隙というわけじゃないだろうけど、続けて襲い掛かってくる武器の無い方のワーウルフ。
こちらはベリルとアイシャが相手をしれくれるようだった。
構えなおした僕の視界に映るのは、新しい防具であるスケイルアーマーに身を包むカレジアとラヴィ。
鱗の量は、カレジアの方が上だ。
「行きますっ!」
口の中で魔法がさく裂した側は、まだ呻いている。
となれば、放っておく理由はない。
でたらめに振り回される手斧をなんとか回避していると、カレジアがちょうど後ろに回り込んだのが見えた。
そのまま突き刺すだろうけど、威力が足りるかどうか。
彼女もそれを感じていたんだと思う。
僕の目には、カレジアが魔法を使う時のように魔力を動かしたのが見えた。
いつかのように、ナイフを産み出して投げるのかと思いきや、構えたままの剣に力がそそがれるのがわかる。
(魔力撃!? いや、違う!?)
さすがに、ぶっつけ本番で試すことはしなかったようだ。
どちらかというと、魔力の塊で固定して、ブレ無いようにって感じかな?
そう思っている間に、手斧を持つ腕にカレジアの剣が突き刺さる。
まだ浅い、そう叫ぼうとした時だ。
「貫けぇ!」
可愛らしくも、力強い叫びと共に、カレジアの剣を包んでいた魔力が、針のように腕を突き抜けた。
何が起きたかわからないけど、まずはトドメ。
駆け寄り、ワーウルフの首をはねた。
「カレジア、大丈夫?」
「はい! マスターが魔法をいろんな場所から出すのを真似してみました。外が硬くても、中はそんなじゃないですよね」
驚いた。彼女は、自分でそこにたどり着いていたのだ。
確かに、僕もそのまま魔法を放つよりも口の中や、切り付けた中に放てばより効果的だと知っている。
それを近接でやるというのは、すごいことだ。
「うんうん。やっぱり、その鎧だと魔力を動かしやすい?」
「そうですねえ……たぶん?です」
まだ新しい装備に変わってすぐだから、はっきりとはわからないみたいだった。
でも、カレジアもラヴィも、アイシャもだけど魔力の運用が前より少し早いのを僕は感じ取っている。
これはベリルも同じだと思う。
「同じ威力なら、小さい方が色々便利だよな」
「そうなんだよねえ。奇襲には最適だよ」
これから、僕たちも彼女たちもまだまだ強くなる、というか強くなりたい。
そうなったとき、僕たちは対等でありたい、そう思うんだ。
増援を警戒しつつ、そんなことを思いながらワーウルフから素材を剥ぎ取る。
爪や牙は有用だし、今回は手斧なんて武器もあった。
「おい、なんだこれ。模型?」
「あっ、それ面白いんだよ。取れる部分の階層の地図になるんだ。帰ってから見よう」
手斧のほうは、そこそこ豪華だけど変な力は感じない。
ギルドか、プロミ婆ちゃんの店経由で売り払おう。
ワーウルフの倒れた場所に残された物は、久しぶりの天塔模型。
低い階層のは僕たちが使うことは無いだろうけど……うん。
「ワーウルフの中には、防具を身に付けてる奴もいるらしい」
「そうなの? 体格は人間と近いよねえ」
下手をすると、僕たちからしたら大人の探索者ぐらいの大きさなワーウルフもいる。
そんな相手が、武具を身に付けていると考えると……ちょっと怖い。
時間をかけない戦いが大事だと、改めて思うのだった。
その後はもう少しワーウルフの相手をして、帰ることにした。
もうそろそろ、進んでもよさそうだという手ごたえと共に。