BFT-050「意識した日」
妖精の武具は、独特の物だ。
特に武器は、呼び出せたものとほとんど同じものを使うとされている。
例えば、ベリルと一緒にいるアイシャなんかは、彼とほぼ同じ槍。
その大きさ、長さは別にして。
「うーん、少し色が変わったかな?」
「前より、豪華になったような。気のせいかしら?」
20層に顔を出し、怪物たちの強さに僕たちは武具、特に防具の更新を行うことにした。
その前にと、武具の点検を行っているのだ。
ベリルたちを家に招き、5人でそれぞれという感じ。
僕とラヴィの指環は、文字通り指環なので確認は簡単だ。
互いの石を突き合わせるようにして、見せ合っているとそんなことを感じた。
確か、元の色は……あれ、元の色なんだっけ?
今と同じ、赤だったような気がするけど……。
石のはまっている土台が、ラヴィの言うように少し豪華になってるような気がする。
「妖精の武具は成長するって噂がある。大体は、強いランクの妖精と契約するから気が付かないらしいぜ」
「そうなんだ? じゃあ、やっぱり違いが出てるのかな。カレジアは?」
「以前より、刃が鋭くなってるような気がしますし、一番はここです。マスターと同じ色の石が増えてます」
彼女が指さすように、僕の持つ物より小ぶりなカレジアの剣の柄付近にも、白と青の石がはまっている。
ということは、カレジアも属性攻撃が使えるんだろうか?
でも、試すのは少し怖い。というのも、妖精にとって魔力の枯渇は死活問題だからだ。
「ブライト様、もしお試しになるのでしたら、彼女に魔力を供給できる状態でやられたほうがよろしいかと」
僕の視線が、注がれている先を見たらしいアイシャの助言に頷くしかない。
さすがに実戦では、軽々とは試せないことだなあと思うのだ。
ともあれ、お互いに刃こぼれはないことを確認した。
聞けば、ベリルたちの槍もそうだという。
「これって、結構すごいことだよね?」
「だろうな。いくらそんなに硬くない相手と言っても、こうして使い込んでいけば研ぎの1つにでも出すもんだ。それがないってなると……」
探索者に限らず、何かと戦う人間にとって、消耗しない武器がどれだけありがたいか。
そのことを、今さらながらに感じた僕だった。
(道理で、町中に武器を扱ってるところがあまりないわけだ)
補助用か、妖精武器を手に入れるまでのつなぎってことなんだろう。
それも、天塔の中で拾ったりできるから、職人が少ないのも納得だ。
前から、町中の職人たちがほとんど防具に偏っているのが不思議だったけど、謎が解けた。
「主様たちの防具はお店に行くとして、私たちのは……お婆様のとこかしら」
3人とも、少し|(拳1個分もない)だけ大きくなったけど、そのぐらいだ。
まだ、動く人形っていう方が正しいぐらい。
最近、温かさを感じるから、ドキッとする機会が増えたけどね。
3人の防具には、ドラゴンパピーの素材を主に使うことにした。
軽いし、その上で魔力も通しやすそうだ。
素材をしまってある箱から、ドラゴンパピーの物を一通り袋に詰め直し、家を出る。
「大雪の日が、減って来たか?」
「かなあ? まだまだ寒いけどねえ」
確かに、前よりは雪の片付けに駆り出されることも減ったような気がする。
まだ町の外に出ると、うずたかく降り積もってはいるのだけど。
町をうろつくのは、天塔に行き来する探索者ぐらいな中、プロミ婆ちゃんの店はいつも通りだった。
誰が片づけをしてるかわからないけど、出入りが出来るぐらいには片付いている。
いつもお世話になってるからと、中に入る前に雪かきをし、通れる場所を広げておいた。
「なかなか入ってこないと思ったら、タダ働きは感心しないね」
「いつも婆ちゃんには助けてもらってるし、その貸しから引いておいてよ」
元探索者というのは嘘じゃないらしく、扉は閉まっていたのに外の動きがなんとなくわかったらしい。
いつも通りに、元気そうなプロミ婆ちゃんの声を聞いて、自然と頬が緩む。
普段なら、買取や店内を見て回るところだけど、今回は少し違う。
買取と同じように、布袋をカウンターに置くけれど、話はここからだ。
「婆ちゃん、3人にこれで防具を頼みたいんだけど」
「どれどれ……なるほどねえ。鉄……は重いね。銀はもっと重い。革鎧を、竜鱗で覆った方がいいね。縫い針が特殊だからちょいと値が張るよ。こんなもんだ」
「一括でいい?」
確かに、3人のサイズとして考えるとかなり割高だ。
破壊するための攻撃は容易だけど、防具に加工するための技術が高度なのは僕にも想像できる。
プロミ婆ちゃんが、それが出来るというのも驚きだけど……。
「稼ぐようになったね。間違いなく、いいことだ。お金の余裕は、生き方の余裕を産む。必要なら、金塊か何かに変えて、ギルドに預けときな。そうすれば、万一の時もどこそこに寄付をって遺言だって残しておける」
「まだそんなつもりはないぜ。でも、ありがとよ」
縁起でもない、と怒る気持ちもあれば、確かにそうだよねって気持ちもある。
僕たちは探索者だ。いつ、どうやって死んでしまうかは、わからないのだ。
例え、死にたくないと思っていても、というよりも死にたがりの探索者なんているはずもない。
「じゃあ採寸しようかねえ。3人とも、奥においで。覗くんじゃないよ、野郎ども」
「覗きませんよっ!」
思わず反論したけれど、思ったよりも大きな声になってしまった。
カレジアたちも驚いていて、僕も自分で自身の声に驚いてしまった。
なんだか恥ずかしくなりながら、彼女たちを送り出す。
その間、僕はベリルと店内を回っている。
なんだか、会話がない。
「……なあ、ブライト。こんなこと言うのもなんだが、俺はありだと思うぜ。大きくなったらさ」
「へ? そう……かな?」
答えながら彼の方を向けば、少し顔が赤い。
言いたいことがあるけれど、黙ってるみたいな。
この感じ、もしかしなくても……なるほど。
「どうする、フレアさんとこみたいな成長するのに、10年とかかかるってなったら」
「そこまで生き残ってれば、なんとでもなってるんじゃないか?」
確かに、彼の言う通りだった。
妖精が大きくなる、進化するには怪物と戦い続ける必要がある。
今のところ、他の方法は知らない。
となれば、10年も戦ってれば一財産どころじゃあないだろう。
そんな、彼女たちには言いにくい未来のことを語り合ってるうち、採寸が終わって3人が戻って来た。
出来上がりの日にちを聞いて、戻ることにした僕たち。
帰り道は、何故だかお互いに静かなままだった。