表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/85

BFT-045「進化の階段」


 僕はその時、畑を荒らす害獣のような気分だった。


 目の前に、食べ物がある。

 でも、罠かもしれない……そんな光景。


「久しぶりに見たな……どうする?」


「どうしようか……」


 強ゴブリンたちを相手にする19層、怪我もしながらも、経験を積んでいく僕たち。

 日によって戦い方を考え、より怪我の少ない方法や、戦いやすい方法を考える日々だ。


 そんなとある日、地形の変わった天塔の中で、財宝の間への扉を見つけた。

 恐らくはそうだろうという程度だけど、周囲は土壁の洞窟状なのに、明らかに扉となればそれ以外にない。


「嫌な感じはしないわね。でも、何かいると思うわ」


「私もです」


「同意ですわ。撤退っていうのとは違うようですけれども」


 ひとまず、明らかにやばそうという雰囲気はないみたいだ。

 もっとも、そういうのがわかるかどうかと言われると、微妙なところ。

 だって、入ってダメだったら戻ってきてないだけだからね。


 色々なことを天秤にかけ、今回は……踏み込むことにした。


「行こう。その代わり、何かいたらとにかく全力だ」


 少しだけ、それもどうかと思うけれど扉を開くのはベリルたちに任せた。

 その間に、僕はひたすら魔力を集中し始める。

 剣と、指輪の石をくっつけるようにし、属性攻撃を行うためだ。


 今回は、馴染のある白光の煌めきを使う。

 扉の片方をベリルが、もう片方を妖精3人がつかみ、扉が開いていく。


「……いたっ!」


 いつか見たように、天井の高い部屋。

 岩山をくりぬいたような、不思議な場所だ。

 ここからでも、何個も宝箱が設置されてるのが見える。


 そして、一番奥に大きな影!


「白光の……煌めき!」


 射線上に宝箱があったら、それも斬ってしまう勢いで突入しながら剣を振り抜いた。

 太陽を直接見るかのような光の刃が飛んでいき……あれは!


「何か構えてる。反撃に備えて!」


「ちっ、デカブツが!」


 僕の攻撃を防いだ怪物は、鎧姿のオークだった。

 黒い石を削り出したような、彫刻めいた体。

 金属鎧に、兜、そして僕の攻撃を防いだ斧とも槍ともつかない武器。


(いや、何か光が……相手も魔力撃か何かを!?)


 ここからでも、嫌な感じのする黒い魔力の光が、刃付近に漂っていた。

 後ろで、扉の閉まる音がする。

 これで、あいつをどうにかするまで恐らくは、出られない。


 咆哮のようなものをあげ、鎧オークが刃をその場で振り下ろす。

 嫌な予感に従い、大きく回避すると地面をえぐるように突き進む黒い光。

 間違いない、これで相殺したんだ!


「あの技は僕が!」


「了解だ! やってやる!」


 今のところ、増援の様子はない。

 鎧オーク1匹で十分と天塔が判断しているのか、たまたまなのか。


 そんなことを考えてしまい、天塔にそんなことが出来るはずがないとも思いなおす。


「思ったより早いわね、もうっ!」


 前衛になりがちなカレジアとアイシャ、その2人の分もと上空で魔法を連打するラヴィ。

 しかし、今のところ有効打は少なそうである。

 鎧で受け止める時と、回避するときがあるから効いてない訳じゃあなさそうだ。


「また撃ってくる!? やらせないよっ!」


 相手の刃が黒く染まるのを見て、僕も剣に力を注いで属性攻撃を放つ。

 これから何回使うかわからないから、配分を考えての攻撃だけど今のところは問題ない。

 でも、5対1なのに、有利な気がしないのは問題だ。


「物理的な攻撃は厳しい……魔法の使い手が少ないのが痛手ですわね」


「そうはいってもなっ」


 実際問題としては、ラヴィだけじゃなく僕も魔法が使える。

 それに、カレジアとアイシャも全く使えない訳じゃない。

 ベリルだって、妖精と契約し、魔力撃が使えるぐらいには魔力があるのだ。


 悩みながらも、何度目かの攻防をこなす。

 何発かはラヴィの魔法が当たり、怪我は増えているようだけど動きは鈍らない。

 このままだと、うっかり一撃を貰ったらそこから崩れる。


「どうにかして……何か来るっ」


 鎧オークの周囲に、何かが揺らいだ。

 黒い靄が出て来たかと思うと、それは少し小さめのオークとなった。

 増援か、そう思った時……おもむろに鎧オークは自身の武器で他のオークたちを両断する。


「なっ! って……魔力を吸収してる!?」


 これ以上わかりやすいものは無い。

 そう言わんばかりに斬られたオークから鎧オークへと明らかに魔力が動いていた。

 そして、再び相手の刃に黒い魔力がまとわりつく。


 満足そうに武器を振るい、それを鎧オークは僕の方へと……来るっ!


「白光の煌めき!」


 放ちながら、足りない……そう感じた。

 事実、ぶつかり合った黒と白は、黒が優勢だった。

 じわりと、押される。


「マスター!」


「主様!」


 攻撃を中断し、僕の元に駆けつける2人。

 そんな暇があったらといいたいところだけど、それも無理そうだった。

 2人の攻撃を、何かの障壁みたいなのが弾くのが見えたからね。


「やらせないっ!」


 ラヴィが叫び、僕のそばで両手を突き出した。

 その手からは炎、ではなく単純な魔力による盾。

 僕の攻撃を覆うようにし、黒を押し返そうという訳だ。


「私も、少しでも!」


 カレジアも僕の腕をつかむようにして、力を放った。

 それは真っ白な光の中に、混ざり合う別の白だった。


 頑張っている2人の姿に、僕も負けていられないと思いなおす。

 余力が残るかは忘れて、全力だ。

 お腹に刺さったままの、不思議な鍵を心でひねる。


(父さん、母さん、力を貸して!)


 瞬間、僕の中から魔力があふれる。

 それは僕だけじゃなく、ほぼつながっていると言えるカレジアとラヴィにまで。

 前は、辛そうだった2人も今はそんな様子はない。


「私たちは、一緒にいるって決めたんです」


「ええ、そうよ。こんなところでっ!」


 叫ぶ2人は、光っていた。

 その背中に、体のあちこちに光が集まり、形を作る。

 羽根は大きいまま、より綺麗な物に。

 手足には、独特の光沢を放つ防具に。


「いっけえええ!!」


 手ごたえを感じた僕は、ベリルたちへの合図もかねて叫ぶ。

 それに応えるように白が黒を押し返した。


「アイシャ!」


「勿論ですわ」


 光に導かれるように、2人が飛び出す。

 それぞれが手にするのは、槍。


 ベリルはもちろん魔力撃だろう。

 そして、アイシャもまた、手にした体ごと光っていた。


 カレジアたちと同じような変化を伴う様子に、僕は自然と笑みを浮かべていた。


 攻撃をはじかれ、姿勢の崩れた鎧オーク。

 自信の表れか、そこを突けという天塔の考えなのか。

 防具のない喉元に、2人の槍が突き出され、沈み込んだ。


「……勝った、かな」


 光が収まった時、動いているのは僕たちだけになっていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ