BFT-044「つながりの秘密」
「新しい階層は、どうですか?」
「今のところは、順調ですよ」
ギルドでの買取を終えた僕と、受付さんとの会話だ。
一見、事務的に見えて意外と受付の人たちは探索者をよく見ている。
この人は、そろそろ危ないななんてのもわかる……らしい。
「妖精との契約解除からの再契約のお金は、このぐらいの階層からじゃないと貯めるのは現実的じゃないんですよ」
「みたいですね……なんでなんでしょう」
布袋に入ったお金の重さも、天塔に登り始めたころとは全く違う。
最初は銅貨ばかりだったけれど、今は銀貨、そしてたまに金貨が混じる。
天塔を擁する国が発行しているお金らしいけど、どんな国なんだろうね?
「私たちもわからないんですよね。あっちの部屋にその儀式を行うものがあるんですが、一定量のお金を入れないと動かないんですよ」
ちなみに、他の国の硬貨、あるいは同等量の金属でもいいらしい。
かといって、銀塊をいれたりした例はあまりないんだとか。
まあ、そりゃそうか……。
「ブライトさん、妖精に変化があったら一度こちらに来てくださいね。妖精のランクもギルドが認定できますから」
「わかりました。でも、どんな変化があるんですか?」
肝心な部分を聞いておかないと、変化がわからない。
そう考えた僕だけど……。
「妖精によって違いはあるんですが、大体は共通してます。それはですね……」
受付さんから聞けた内容は、そういうものなのか?と疑問ばかり浮かぶ物だった。
「どうしたの、主様。悩み事?」
「ううん、大丈夫」
天塔の攻略を再開した僕たち。
いよいよ19層の強ゴブリンと呼べそうな相手との戦いを始めた。
最初は数匹倒しては戻り、また準備を整えてという生活。
元々は、ソロでも来ることがあるらしいから僕たち自身の力は足りてない可能性はあると思ったのだ。
「マスター、ポーションの消耗が少し激しいですかね?」
「俺もそう思うぜ。かすり傷だと思っても、案外深い」
「毒も怖いですし……今回のもそういう相手でしたわ」
剣を振り抜いたままの姿勢で、止まっていたらしい。
心配そうなラヴィに答えつつ、倒したばかりのゴブリンたちを見る。
筋肉質な体、下層より丈夫そうな武具。
何より、動きが段違いだ。
それに頭もよさそうで、作戦めいた動きを感じる。
「戦い方を少し考えようか。ちょっと気になることがあるんだ」
「わかった。余裕があるうちに、色々試そうぜ」
僕が考えたのは、相手を倒すための攻撃じゃなく、妨害するための戦い方。
例えば、助けを呼びにくくなる、とかね。
「いたっ! 炎よっ!」
さっそく出会ったゴブリンに、大したダメージにならないだろう炎の魔法をラヴィと一緒にぶつける。
これは、顔とかを焼くことで叫びにくくさせるのを狙ったのだ。
声は出るが、僕が聞く限りはただの喚き声だ。
「へっ、動きが鈍いぜ!」
「何か命令を出してたんでしょうか……行きます!」
それでも一定の効果は得られたと思う。
連携のような動きは減り、ゴブリンの集団攻撃、からゴブリンたちの攻撃、になったというか。
なんにせよ、倒すだけじゃない攻撃もあるってことだ。
「お次はこれだっ!」
次の集団に繰り出したのは、頭ほどの大きさの水球。
雪原でやったように、水の魔法は場所も指定できる。
攻撃を回避しながら、僕はとあるゴブリンの頭を指定した。
「これは……主様、怪物相手でもちょっとえぐくない?」
「奇遇だね。僕もそう思うよ」
「勝てば英雄、とは申しますけれど……」
結局、そのゴブリンは息が出来なくなったみたいで途中で倒れた。
その拍子に、魔法の範囲から出たからせき込むのを見、慌ててとどめをさすことになったわけ。
(野盗相手ぐらいにしか機会はないだろうけど、対人だとすごいことになりそうだな……)
そんな感想を抱きながら、色んな戦い方を試していく。
結局、怪物を訳がわからないもの、怪物でしかないと考えるとどこかでコケるんじゃないかということだった。
考える頭のある、相手も頭を使うだろうという前提で動くと、世界が違って見えて来た。
「妖精を求めるわけだ……一人じゃやっていけねえってことか」
「僕、天塔に登るのはソロが多いって聞いてたけど、下層はってことだったんだね」
ますます、天塔という物を考えてしまう僕だったが、他にも気になることがあった。
それは、ゴブリンたちの剥ぎ取りをしてくれているカレジアたちの姿だ。
いつもと変わらないように見えて、決定的な違いがあった。
「カレジア、ラヴィ。汗、拭きなよ」
「え? ありがとうございます!」
「こんなのも準備してたの?」
本人たちは、気にしていなさそうだけど……僕は内心、どきどきしていた。
ギルドの受付から聞いた話。
妖精に人間らしさが出てくると、その分ランクが上がる傾向にあるっていう話。
例えば、フレアさんと一緒にいる妖精ぐらいのランクになると、ほとんど人間と変わらないらしい。
お腹がすいたり、汗をかいたり、あるいは、怪我をすると血のようなものが出たり。
「ブライト様。2人は」
「うん。アイシャもそろそろなんじゃない?」
契約した時期は多少違うけど、同じように怪物を倒して、天塔を登っている。
恐らく、3人とも同じぐらいの経験は積んでいるし、魔力の容量も増えているんだと思う。
でも、人間らしくなることが妖精の格を上げるってどういうことなんだろうか?
「俺はアイシャとの契約を解除する気はない。それでいいんだろ?」
「たぶんね。そういうことだと思うよ」
妖精との契約、そして再契約に必要な多額の金額。
そこに僕は、出来るだけ一緒に生きてほしいという願いを感じた。
それは、もしかしたら昔……人間と妖精の間にあった、物語なのかもしれない。