BFT-043「明日への翼」
Dランク探索者証。
Eランクのそれより、なんだか少し豪華になったような気がしないでもない。
でも、多分気のせいだ。ギルドに持って行って、ちょっと何かしたら貰えたからね。
「天塔に登らなくてよかったのかなあ」
「いいんじゃねえの? 受付の姉ちゃんも、いきなり上層に挑むのはやめておいた方がいって言ってくれたしよ」
そんな風に答えながらも、僕もベリルも、多分普通の人ではありえない速さで進んでいる。
すぐ上を、カレジアたち3人は飛んでついてきてる状態。
今、僕たちはクリスタリアを出て、休日を過ごしている。
普段、人が通らないようで向かう先も、進む道も雪だらけ。
そこを僕は、贅沢に魔法を使って切り開いていた。
使う魔法は火、ではなく水。
「しっかし、上手い使い方だな」
「相手が雪だから通用するけどね。怪物相手はこうもいかないよ」
言いながら、両手を広げて大きなテーブルほどに展開した水魔法を、さらに三角形のようにして維持する。
魔力は消耗し続けるけど、板状に水がずっと動いてる感じ。
その状態で進めば、変な音を立てながら、雪原を切り開いていけるのだ。
(これで重い状態だったら厳しいけどね)
普段通る人がいないからこその荒業だ。
「マスター! 見えてきましたよ!」
「キラキラしてるわ!」
そんな声を元気の源にして、さらに進む。
すると、周囲の森の様子も変わってきた。
「っと、これがそうかあ……」
「凍結湖……まんまだな」
せっかくの休みなのに、寒い中を出て来た理由がこれだ。
大きな、大きな湖。それが全面凍り付いている。
理由は、左側に見える山脈からの吹き下ろす風のせいらしい。
足を止めれば、今も時折、風が吹いてくる。
「野営の場所を作らないとだね」
「あの辺がちょうどいいな」
ちょうど風に対して壁になるように、丘がある。
もしかしたら、ここを利用する人たちが切り開いたのかもしれない。
たき火をするために雪をどかすと、それらしい炭の跡が出て来たから間違いないね。
さすがにこんな寒さの中だと、怪物たちもほとんどいない。
みんな、それぞれの住む場所に閉じこもってるみたいだ。
「じゃあ、さっそく遊ぶか」
「わざわざ遠出をして、遊ぶ。普段できないことですわね。懐かしい」
5人で駆け出した先は、凍り付いた湖。
なんでも、例年僕の腕ぐらいの深さまで凍り付いているらしい。
そんな場所でやることは、氷滑りだ。
本当は専用の道具があると良いらしいのだけど、何回もやるわけじゃないから今回は魔法で代用。
水を氷にして、靴の裏に刃を落としたなまくらみたいなのをくっつける。
恐る恐る足を前に出し、湖の上にのった。
「お? おお?」
「主様、良い感じよ」
あんまり力はいらない、むしろ力を入れるとすぐバランスを崩しそうだ。
しっかりと作ったから、氷の刃も壊れる気配はない。
無理にひねったりしなきゃ、大丈夫そうだ。
「こりゃいいな」
ベリルも気に入ったみたいで、アイシャと一緒に滑り出した。
僕も楽しむべく滑り出すのだけど……。
「あっ、2人ともちょっとずるくない?」
「いいんですよー。飛べるのも力の内です」
「そうよそうよ」
何かといえば、カレジアとラヴィは半分浮くような感じでまさに氷上を滑っているのだ。
早く曲がったと思えば、飛んでくるくると回転。
その動きを見てる限り、どうも妖精の中ではよくある遊びの様だった。
(そういえば、アイシャも懐かしいとか呟いてたっけ)
気を取り直して、僕も滑ることにした。
慣れてくると、これが楽しい。
普段できないような動き、早さで滑る。
何も邪魔するものがない湖上をひらすらに。
「主様、両腕をあげて!」
「こう? わっ!」
「そーれー!」
しばらく滑っていると、2人が近づいて来たかと思うとそんなことを言われた。
言われるままに手をあげると、ぐんっと勢いがつく。
2人が、僕の腕に捕まりながら飛び始めたのだ。
いつもなら、持ち上げるのは難しい2人の飛翔。
でも、凍り付いた湖上であればそれは十分な勢いとなった。
一気に加速し、空を飛んでいるかのような気分になる。
真っ白で、太陽の光も反射して空と湖上が区別つかなくなっていく。
冷たい風も気にならないほどの、綺麗な光景だった。
「どこまでも、行けそうだ」
「そうよ。私たちなら、きっと」
「どこまでも、行けます!」
ちらりとみれば、アイシャもベリルと向かい合うような形で彼の両手を前で掴んでいる。
そのまま後ろ向きに飛んでいるのだから器用な物だ。
しばらく、そんな時間が過ぎていった。
とても楽しくて、とても嬉しくて。
もっと一緒にいたい、一緒に楽しみたいと思った。
そう、一緒に飛びたいと。
(魔法で炎とかを飛ばすことが出来るなら……)
考えながら、魔力を練る。
魔力撃だって、魔力を何かの形にしてるんだ。
だったら……。
「!? マスター?」
「主様……」
驚きの声が、すぐそばに聞こえた。
僕には見えないけれど、考えた通りなら背中に魔力の羽根がある。
そこから魔力を下に向けて押し出すようにして放てば……飛んだ!
少しの間だけ、カレジアとラヴィを下に見ることができた。
まだまだ制御なんてあってないような新魔法。
だから、バランスを崩してそのまま湖上に転がってしまう。
「いてててて……」
「ばっか、何やってんだよブライト」
呆れたようなベリルの声。でもその顔には笑みがあった。
僕も、湖が割れたりしてないのを確認して立ち上がる。
「どうやるんだ?」
「天井に頭ぶつけるかもよ?」
笑いながら、彼にも教えようとするけど、一応岸に戻ってからにする。
万一、倒れ込んで割れてもいけないからね。
そうして、新しい魔法を開発、練習しつつ、僕たちの冬休みは過ぎていくのだった。




