BFT-041「Dランク昇格試験」
僕の一撃は、静かに骸骨に沈み込んだ。
薪を断ち切るような音を立てて、肩付近の骨を斬り、そのままコアへと刃が届く。
こちらへと振り下ろそうとしていた腕が止まり、そのまま魔晶を残して崩れ去る。
「ふぅ……ラヴィ、今ので10体目かな?」
「ええ、そうね。主様、何かあった?」
自分の手のひらほどもある魔晶を、しっかり抱えて飛ぶラヴィ。
そんな姿も可愛らしいのだけど、今は真剣な表情が貼りついている。
「私も気になってました。マスター、戦い方が変わりましたよね?」
「特別変えたつもりはないんだけどね。しっかりと、前に出て、見て見ようかなって」
言いながら、同じ結論にいたったであろうベリルの背中を見る。
あちらも、別の骸骨を倒したところだ。
僕と違い、魔力回復に関しては普通らしい彼は、短い間でも深呼吸をして調子を整えているようだ。
(そう考えると、僕の回復量と速度はとんでもないな)
属性攻撃を連打しない限り、消耗を感じることも少なくなってきたのがその証拠だった。
そんな僕だけど、改めて自分の能力という物に注目したのだ。
正しくは、何が出来るのかを見直したってとこかな。
腕力はそうあるわけじゃなく、武器と言えばカレジアの呼び出せた剣、そして指輪。
防具は色々と揃えて来たけど、まだランク相応だ。
それ以外にといえば、魔法、魔力撃、そして属性攻撃だ。
他にも、魔力探知を含めたスキルたちをちゃんと考え、使おうということになったわけ。
「使い込むほど成長するって噂もあるが、下手に消耗するとそのまま帰ってこられなくなるからな。どうしたものかって思ってはいたんだ」
「ベリルたちと出会えて、幸運だったよ」
「それはこちらのセリフですわ。ブライト様」
そんなことを話しながらだけど、今日はいよいよ19層に本格的に踏み入ることになっている。
骸骨王を、何度かそうしたように安全第一で攻略し、階段を上る。
19層は、また洞窟のような土壁だらけの空間だ。
僕を先頭に、ゆっくりと進み始める。
「何かいる……」
まだ見えないけれど、感じる物があった。
気配としては大きくない……けど、これは?
「ゴブリン?」
それがカレジアの物か、ラヴィの物かはわからない。
角から顔を出したゴブリンらしき相手が、想像以上の速さで僕たちに迫ってきたからだ。
とっさに繰り出した剣と、ゴブリンの持つ粗末に見えるナイフとがぶつかり音を立てる。
「重っ!? なんだこのゴブリンっ!」
「こいつらっ!」
出会ったゴブリンらしき相手は2匹。
武器をぶつけあって、感じた。
これは、ゴブリンであってゴブリンじゃあないと!
なんとか避けたところに迫る相手の攻撃。
すぐそばを、想像以上の速度で武器が通り過ぎる。
「火球!」
自分への多少の余波は気にしていられなかった。
籠手をぶつけるような勢いで、腕から魔法を放つ。
見事に吹き飛ぶのが見えるけど、これで終わりではなかった。
「貫くっ!」
「あたってぇ!」
立ち上がろうとするゴブリンに向けて、ラヴィとカレジアの攻撃が突き刺さり、ようやく沈黙。
ベリルと相対していた方も、アイシャの援護を受けて仕留めたようだった。
わずかな時間の攻防だけど、ごっそり疲労したような気がした。
「なるほどな。違うというわけだ」
「先に下層で慣らしておいてよかった。朝一だったら、動けなかったかも」
本心からそうつぶやいた。
実際、まだ体が温まっていないうちだったら、最初の攻防で大怪我を負っていたに違いない。
それだけの攻撃で、ゴブリン自身もなんというか、筋肉質だった。
気のせいか、拾うことのできた魔晶も、これまでとは物が違うような気がする。
「ポータル近くで、ちょっと慣らしていこうか」
「そうすっか。これは、見た目に騙されないようにしないとな」
すぐ上の20層は、ワーウルフの出る階層だというのはわかっている。
でも、19層がこんなだって、思いもしなかった。
そういえば、前に生きてここから帰った時には……先輩たちは速攻で攻撃してたっけ。
「やられる前に、やれ、か」
「先手で終われば、それが一番よね」
なんとなく、攻略の糸口が見つかったような気がする。
息を整えた僕たちは、そのまま戦いを再開した。
やはり、相手に攻撃を許すとかなり危ない目にあうことがわかった。
たかがゴブリン、されどゴブリン。かなり、危険な相手だ。
「角に2、後ろから1」
「よし、アイシャ、後ろをやるぞ」
「魔法の準備、いいわよ」
まだ手探りな感じだけど、僕たちがとった手法は、出来るだけ先手を取ること。
同じ階層を探索する同業者が、近くにいないとも限らないのだけどそこは気配が違う。
ここは、ゴブリンの大きさが人の半分以下なのが幸いした。
要は、大きければ同業者で、小さければ敵なのだ。
「新顔だな? 生き残れよ!」
「僕たちもそのうち帰りますよ」
今度は、同業者がポータルにやってくるところだった。
彼らを見送り、僕たちも回収した魔晶と牙なんかを確認し、そろそろ戻ることにした。
前と同じポータルからの帰還なのに、なんだか違う気がするのが不思議だった。
その足でギルドにいき、魔晶を換金する。
「この魔晶……19層ですね。そろそろDランクの試験を受けて見ますか?」
「それは、ベリルとも一緒で大丈夫です?」
どこまでかはわからないけれど、しばらくはベリルと一緒に行動予定なのだ。
それに、彼もアイシャも十分強い……と思う。
「構いませんよ。量が倍になるだけですから」
そういってギルドの受付さんが差し出してきた羊皮紙には、いくつかの依頼が書かれている。
覗き込んだ僕の目に飛び込んできたのは、どこか不思議な依頼達だった。
「これは、冬だからですか?」
「そうなりますね。どうします? 季節が変わってから別のをやるという手もありますけど」
そう言われては、悩むしかない。
羊皮紙を借りて、近くのテーブルに移動した僕たちは、どの依頼を受けるか悩むのだった。