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BFT-040「一歩先は闇」


 天塔は、命を賭けることになる場所。

 誰しもが、そこに死神の刃があることを意識する場所。


 わかってはいても、慣れてくるとそれが薄れてきてしまっていたのを感じていた。


「僕たちはただ、運がよかっただけ……だよね」


「そういうこったな」


 やや薄暗い天塔の通路に、僕たちは佇んでいた。

 足元には、大怪我を負い、息絶えてしまった探索者。

 さっきまで生きていたけれど、どうしようもない状況だった。


 もう少し骸骨たちで稼ごうと、19層へと富んだ僕たちは逆に18層へと降りていたのだ。

 不思議なことに、上から降りるときにはボスがいない。

 また戻ろうとすると、いるのだ。


 いくつかの骸骨たちとの戦いを終え、今日は一度戻ろうかという時に戦いの音が聞こえた。

 様子を伺いに行った僕たちが目撃したのは、たくさんの骸骨に囲まれ、手遅れな探索者と妖精だった。


「ねえ、どうするの?」


「契約はされてますから……どうしましょう」


 どうにか骸骨たちの気を引き、倒したけれども手遅れ。

 力尽きた探索者は、もうすぐ天塔に飲まれるだろう。


 残ったのは、自身も怪我だらけで、生き残ってしまった妖精1人。

 彼女の怪我はなんとかなりそうだけど、なんとかなったとしてどうするのかという問題がある。

 妖精の再契約は、あくまで失われたか別れた妖精の代わりの妖精とするものだからだ。


 別の誰かと妖精側が契約するという話は、聞いたことがない。

 僕のような、2人同時というのが例外なのだ。


「契約者さん、お願いがあります」


「あまりいい話じゃなさそうだけど……聞くだけは聞くよ」


 言いながら、僕も大体の予想はついている。

 カレジアたちから以前、聞いたんだ。

 こっちに来ている妖精は、あくまで妖精の世界にいる本体とは別だって。


 だからこそ、同じ姿、同じような妖精が世の中に存在する……らしい。

 つまり、こちらにいる妖精が例え死んでしまっても、それはこちらだけの問題、なのだ。


「向こうに送り返していただけませんか?」


「おい、それは」


「ベリル、わかってるよ」


 あまりいい話にならないだろうことは、怪我の様子を見ていたカレジアたちの様子からもわかる。

 今も、すがるような、どうしようもないとわかっているような、何とも言えない表情だ。

 こんな時に、敵がやってきたらと考えるけど、運が良いのか悪いのか、何も来ない。


「優しい、契約者でした」


「そっか。僕もそうあれるように頑張るよ」


 つぶやきながら、妖精の体がほのかに光る。

 カレジアやラヴィが言っていたように、彼女たちの服は魔力から何度でも直せる。

 それは体も一緒で、魔力さえ供給されていれば手足も生えるのだ。


 逆に言えば、供給が断たれた状態で消費すると、維持できない。

 他にも、外部からの攻撃の類で、人の体以上に危ない目にあうのだ。


「運が良ければ、あちらで」


 最後に、こちらの3人の妖精を見て、彼女は僕の前に自らの体を、突き出した。

 やりたくはない、やりたくはないけど本人が死んでしまっては、契約の解除が出来ないのだからしょうがない。

 覚悟を決めて、彼女の胸元に手のひらを向け、魔力を練り……そっと彼女の核となる部分を破壊した。


 砂が崩れるように、妖精の姿が消えていく。

 最後は、笑顔だったように見えた。


「生きよう」


 一言に、全てを込めて。


 今日は戦いを続ける気にならず、そのまま19層から帰ることにした。

 降りてきた時にはいなかった、骸骨王とその取り巻き。

 この前と同じ姿、同じ脅威。


 あるいは、相手にとってみれば僕たちとは初対面かもしれないね。

 でも、そんなことはどうでもよかった。


「帰ろっか……」


 余力を考えない全力攻撃。

 まずは取り巻きを吹き飛ばし、その隙に僕とベリルが一気に踏み込む。

 さらに呼び出される相手をカレジアとアイシャが相手をし、僕とベリルは骸骨王へ。


 いつもなら、残りの時間を討伐に使うために残してある魔力も全部込めた。

 その一撃は、構えた盾ごと、骸骨王のコア付近にぶつかり、仕留めることになる。


 王冠の魔晶はほとんど使い込まれ、宝箱が出なかったことにほっとしたような、残念なような。

 めぼしい回収物もなく、ほぼ無言でポータルに飛び込んだ。


「背負ってきた方がよかったかな?」


「どうだろうな。墓もどうするってことにもなる。探索者用のカードだけは持ち帰ったけどな」


「主様、今日は低層で流すか、買い物にしましょ」


 そんな提案に頷き、買い物で過ごすことに決めた。

 ずっと無言のアイシャは、どこか不安そう。

 僕はさりげなくベリルに近づき、肩に手を回して囁いた。


「僕たちが一緒じゃないほうが話せることもあるでしょ? 別れて行動しよう」


「……助かる」


 人のことは言えないけれど、アイシャもベリルへ、ただの妖精と契約者の感情以外の物を抱いてるように感じていた。

 それは、僕とカレジア、ラヴィにも言えるからどちらかというと僕たちのためでもあるんだけども。


 買い込むものを分担するという名目で、ベリルたちとは別れて町を行く。

 適当に保存食や、ポーションをちまちまと補充。

 町の広場まで来たところで、珍しく大道芸人が来ているのが見えた。


「器用なもんだね……僕には無理かな?」


「マスターなら出来ますよ。真剣にやれば、きっと」


「そうね。きっとそうよ」


 芸への発言のように聞こえて、そうではないような言葉のやり取り。

 見れば、周囲には何人もの探索者。

 妖精がいる人もいれば、いない人も。


 ただ、妖精だけというのは……ない。


 考えてみれば、随分と一方的な話だなと改めて思うのだ。


「主様、妖精の世界に伝わるおとぎ話があるの。最初の妖精は、人間だったっていう話。偉大な戦士の妻だった女が、あるいは家族だった女が、死後も共にいたいと願ったんだって」


「ですから、都合がいいではなく、そう願っているから応える、だそうですよ」


 僕を慰めるために言っているのか、本当の事なのか。

 どちらでも、いいのかなって思いながら、その日を過ごした。



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