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BFT-039「足踏みも大事」



 夢を、見ていた。

 そう、夢に違いない。


 でなければ、もう一度村が焼かれるなんてところ、見たいはずもない!


「僕だって、前のままの僕じゃあ!」


 夢だとわかっていても、逃げることはしなかった。

 持っているはずのない剣を、襲撃者であるドラゴンに向けて、構える。


 家よりも大きな、巨体。

 その姿は、たぶん実際に村を襲った相手とは違うと思う。

 こんな正面から、見ることは出来なかったのだから。


 僕をそのまま飲み込めそうなほどに開いた口元から、炎が飛び出した。

 そうしてあっさりと、僕はそれに飲み込まれる。


「マスター!」


「っ!」


 声にならない叫び声をあげたところで、目が覚めた。

 僕の顔に抱き付いているのは、カレジアだ。

 ラヴィもまた、すぐ目の前で僕を見ている。


「嫌な夢を見たよ。ごめんね」


「別に主様が謝ることじゃないわよ。うなされてたから、起こすかどうか迷ってたのだけど」


 体を起こせば、じっとした汗の具合が気持ち悪い。

 真冬で、外は雪だらけだというのに……。


 すっきりしない頭を振り、着替えようとした時だ。

 なぜか、カレジアとラヴィがにこにことしながら、タオルと木桶を手に持ってきた。


「マスター、たまにはお背中拭かせてください」


「そうよ。今日はお休みにしたんだし、ゆっくりしましょ?」


 そうなのだ。19層に無事にたどり着いた僕たち。

 次からは19層から挑めるということで、準備の時間をとったのだ。

 19層と言えば、以前天塔の罠にかかって20層まで飛ばされ、命からがら帰ってきた時に通った場所だ。


 あの時は、炎竜の牙の人たちが一緒だったから、何がなんだかという間に通り過ぎてしまった。

 何が出て来たかも、正直あんまり覚えていない。


「たまにはいいかな? でも、ちょっと恥ずかしいな」


「いいじゃない。その……私たち、人間じゃないんだもの」


 言いながら、自分では言いにくかったんだろう。

 少し寂しそうなラヴィの表情が気になって、僕はわざと勢いよく上を脱いだ。 

 わって感じてカレジアとラヴィが自分の顔を隠すのが見える。


(ふふっ、やっぱり2人とも、普通の女の子みたいだな)


 普通の女の子には、自分の体を拭かせないだろうというどこからかのつっこみは無視し、木桶に水を産み出した。

 源は、手に入れたばかりの属性石だ。


「魔法も使えるようになるなんて、その剣と属性石の相性がとてもいいのかしら?」


「不思議ですよねえ。ラヴィも、私も力を感じるんです」


 あの時、ベリルから譲られる形で手に入れた属性石の色は、青。

 無事に持ち帰り、ギルドでこっそり見せたところ、驚かれた。

 やはり、使えるなら自分で使った方がいいだろうとのことだった。


 プロミ婆ちゃんの店で、磨くための道具を買って磨き、剣の穴に収めたところで力が発揮され始めた。

 1つは、僕の中にある魔力との連動。

 明らかに、新しい力だよと言わんばかりに感じる物があったのだ。


 その力は、水。

 森で試した限りでは、局地的に雨のように降らせることも出来た。

 戦闘では、圧縮した水の槍というところかな?


 たかが水と侮りそうになったけど、既にいろいろ工夫しているラヴィからの助言で、別のやり方を試した。

 薄くした水の刃を打ちだしたり、細く細くすることで岩にも穴が開いたりしたのだ。


「でも今は、水がどこでも出せる便利な力よね」


「ついでにラヴィが手加減して炎を産めば、ぬるま湯の出来上がりです!」


 2人の言うように、水と火の魔法を手に入れたことで、僕たちの生活環境は激変したと言っていい。

 もちろん、薪を燃やすようにずっと火を出すわけにもいかないのだけど。

 冬でも、あまり外に出ずに過ごせるのはとても便利だ。


「じゃあ両手をあげてくださいね」


 言われ、その通りにするとカレジアとラヴィがタオルを持って僕の回りに浮かぶ。

 ちょうど2人の羽根の動きが、若干の風になって心地よい。

 そのまま、自分じゃ不可能な角度で体を拭かれるのは、なんだか不思議な気分だった。


「ふぅ。主様、少し大きくなったんじゃない?」


「そうかな? まあ、鍛えられてるとは思うけど」


 村にいたときより、力がついてるのは間違いない。

 畑仕事とは別の意味で、ほぼ毎日体を酷使してるわけだからね。

 今の僕なら、体力だけなら村一番かもしれない。


 比べる相手のいない、もの悲しいたとえ話だけども。


「また暗いお顔になってますよ?」


「あっ、ごめんね」


 そうだ。何を落ち込んでいるというのか?

 村は焼かれてしまったけれど、村の人たちはあきらめていない。

 少しずつ、元の場所に村を作ろうという動きが確かにあるのをこの前知ったのだ。


 僕だけが、考えてるわけじゃないってことを、知ったのだ。

 そのことがなんだか嬉しくて、思わず手持ちのお金を全部元村長に送ろうとして、2人に止められた。


 ちゃんと計画を立てて、定期的に送れるようにならないとだめだと、諭されたのだ。

 ベリルにも相談したら、その通りだと言われた。


「ゆっくり休んだら、しっかり稼がないとな」


「そうですよ。お城が建つぐらい、どーんと稼ぎましょう」


「それいいわね! どんどん宝箱も開けないと!」


 そんな、大事にしたい時間はゆっくりと過ぎていく。

 そのうちに、僕の体を拭き終わった2人が木桶を片付け始めた。


「そういえば、妖精たちは水浴びをしたりはしないの?」


「……しますよ」


 なぜか、カレジアに口ごもられた。

 何か秘密でもあるのかと思い、ラヴィを見ると、こちらも顔を赤くしていた。


「主様、妖精には男がいないの。なんでかわかる?」


「どうだろう? 考えたこともなかった」


 それが、理由よ、なんて言われてしまう。

 結局、明確な答えは教えてくれないままだった。


 あまり突っ込んで聞くことも出来ず、不思議に思いながらもそのまま流され、休日が過ぎていったのだった。



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