BFT-038「大きなつづら?」
「先手必勝!!」
天塔18層、骸骨たちの出るフロアでのボス部屋。
立派な扉をベリルたちに開いてもらい、僕は一撃を放った。
間に何があろうと、全部切り裂くつもりの全力の一撃は、たくさんの骸骨を巻き込んでいく。
が、いよいよ目当ての相手というところでそらされた。
力同士がぶつかる、嫌な音。
振り切った刃を構えたまま、そちらを見れば明らかに体格の、いや……骨格の違う相手。
防具や装飾品、さらにはマントまで身に付けている相手だった。
「表情はないけど、何を言いたいかが良くわかるね」
「それがどうしたって顔してるな」
正直、通じたらいいかなぐらいの気持ちだった。
悔しい気持ちも、ないわけじゃあないけどね。
さっきの攻撃で、上手くコア付近が傷ついたらしい数体は崩れ落ちているのが見える。
ボス部屋は、一見するとお話に聞く王様の部屋みたいな場所だった。
一番奥には階段、その前には大きな椅子。古ぼけた絨毯みたいなものが敷かれている。
王様を守る、近衛って感じかな?
「マスター!」
「来るわよっ」
骸骨たちのボス、まあ骸骨王とでも呼ぼうか。
その号令に従うように、骸骨たちが迫ってくる。
彼らの装備も、外とはどうも違いそうだ。
「ほらほら、触ると燃えるわよ!」
「一本でも当たればっ!」
数は、僕たちの方が不利。
そんな状況でラヴィとカレジアの攻撃が光る。
炎を、壁のように横に伸ばしていくラヴィに、それを目くらましに魔力のこもった短剣を投げるカレジア。
何体かは動きを止め、その隙にコアが貫かれたようだ。
僕とベリル、それにアイシャは炎を抜けて来た相手担当だ。
「装備が豪華でも、同じ仕組みなら!」
「そこだっ!」
相手が骸骨である限り、判明した仕組みであるコアを潰すという手法で確実に倒せる。
実際、今の相手も着実にその数を減らすことができた。
少し炎が収まったところで、視線の先に骸骨王が見えた。
立派な大剣、鎧、そして頭にある王冠……何か光ってる!
「頭のあれ、魔晶!?」
体の一部以外が魔晶だっていうのは聞いたことがない。
でも、宝箱から魔晶の塊を見つけることはありえるから、ないわけじゃないんだろう。
問題は、怪物がそんな装備をどこから手に入れたかだ。
コボルトとかの人型が持ってる武具もそうだけど、天塔の中に怪物専門の鍛冶職人がいる?
たぶん、そうではない。なんとなくのカンだけど……。
恐らく、汚れ具合や痛んだ感じも含めて、最初からそう生まれ落ちたんだ。
「変な技を使われる前に……! 何っ!」
僕が駆けだすより早く、ベリルが前に飛び出て魔力を込めた槍を突き出す。
いつもなら、何らかの打撃を与えるそれが骸骨王に届くことはなかった。
骸骨王が、何かの仕草をしたところで、突然骸骨たちが床からあふれ出したのだ。
「盾になったっていうの? キリがないじゃない」
「かなりの出現速度に見えますわね……」
最初にいた骸骨たちは倒し終えたけど、また数が逆転してしまった。
骸骨王の周囲に、再び骸骨が出現したからだ。
復活……いや、これは。
「召喚? どこからか、ボスが召喚してるんだ」
そんな僕の言葉が聞こえたわけじゃないだろうけど、骸骨王が吠えるように剣を掲げ……。
見る間に、骸骨が増えた。中には重装備な感じの奴もいる。
時間をかけると、まずそうだ。
相手が有限だと思いたいけれど、どのぐらいの具合なのかはわからないからだ。
「まずは頭を一回切り飛ばす! よろしく!」
「おうよっ!」
叫びながら、思い切り剣を横に振るった。
放つのは、属性攻撃。
骸骨王自体にはあまり効いてなさそうだけど、周辺の骸骨は別だ。
骨たちがバラバラに砕け散るのが見え、そこを駆け抜ける。
骸骨自体はカレジアたちに任せて、僕とベリルで骸骨王へと向かった。
力を感じる瞳の光、あるはずのない肉体が幻視出来たように思えた。
そのことが、魔力の流れだと感じた時には、僕は相手の剣を受け流していた。
「っと。威力がある分、大ぶりだ!」
「おらよっ!」
骸骨王は立派な鎧を着ている。
だから、コアを直接どうこうするのはまだ早い。
まずは……召喚を断つ!
僕のすぐ横で、ベリルの魔力が高まるのを感じる。
槍に魔力を注ぎ、魔力撃を放つためだ。
その鋭さは、きっと骸骨王の鎧の上からでもいい威力になるに違いない。
だから、相手は防御を体に寄せた。
「下げたね? そこだっ!」
速度重視で、剣を振るう。
目指すのは、骸骨王の首。
乾いた音を立てて、骸骨王の首が空を舞った。
感情のわからない虚ろな瞳が、ぎょろりと自分の体の方を見た気がした。
「うぉ!? 首が無くてもすげえ動くぞ!」
「今すぐやるよ! ええいっ!」
僕の目的は、王冠の奪取だ。
すぐに体に戻ろうとする首というか、頭骨?を砕くようにして王冠を取り外す。
(うん、確かに魔晶か何かだこれ!)
幸いにも、呪われるみたいな感覚はなかった。
すぐに腰にさげている袋に放り込み、ベリルに合流する。
いつの間にか、頭は再生したのか元の状態。
「怒ってるっぽいな」
「だね。でも、骸骨召喚が無くなればこっちのもんだ!」
後は、カレジアたちと一緒に確実に削り切った。
本当は、防具もお金になるんだろうけど、その余裕はなかったのが残念だね。
その代わりに……。
「ボスでも出るんだな、箱」
「みたいだね。初めてだけど」
「私たちがすっぽり入っちゃいそうです」
僕の胸元ぐらいまである大きな宝箱が、突如出現したのだ。
下手すると、これでつぶれる人もいるんじゃないかと思う出現の仕方だった。
その分というべきか、鍵穴もすごく大きい。
試しに剣を突き入れると、それで鍵が壊れたのか、あっさり開いてしまった。
「なによ、拍子抜けね」
「楽なのはいいことですわ。……でも、中身はちょっと残念かもしれませんわね」
少し浮いている妖精たちには、箱の具合が見えているんだろうね。
僕も箱に近づくと……その気持ちがわかった。
なんていうか、ほぼカラ。
底の方にちょこっとだけ、金銀財宝ってとこかな? いや、十分なんだけどさ。
「ひとまずひっくり返して回収してっと……お、ブライト、これ良い奴じゃないか?」
「ほんとだ。属性石っぽい……青いね」
息を整える目的もあって、ボス部屋で待機している僕たち。
再出現の兆候があったら、すぐに上に駆け上がる予定だ。
「実際の鑑定をしてもらってからでもいいんだけどよ。俺は属性石を上手く使えねえ。金にするだけだ。だったら、そっちはブライトが使って、俺はその分多めに分けてもらうってのでどうだ?」
「僕はそれでいいよ。いいの? ベリルも同じような武器が手に入るかも」
こればっかりは運だからな、なんて断られた。
本人が良いなら、僕も異論はない。
隠れている残りの骸骨がいないかなんかを注意しながら、玉座っぽい椅子を通り過ぎる。
そのまま何事もなく、階段を上ることができた僕たち。
ついに、19層だ。
すぐにポータルを見つけた僕たちは、誰も反対しないまま、地上へと戻るのだった。