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BFT-003「少しずつ、違うことを」


 カレジアとラヴィ、2人の妖精との生活は色々な影響を与えてくれた。

 例えば、朝ちゃんと起きることができるようになった。


 そして、探索中に寂しいなと思うことも減ったりもしたのだ。


「止まって、2人とも。床の色が変わった……やっぱり、4層目からは違うみたいだ」


「本当ですね。さっきまでは茶色って感じでしたけど……岩って感じです」


「4層から6層は下より鉱石が採れるんだっけ? 儲けの予感ね!」


 ベテランに言わせれば、怪物が気付くだろう!と怒られるかもしれない。

 そのぐらい、彼女たちと一緒の探索はどこか騒がしい。


 もちろん、ちゃんとやる時はやるのだけど。


「まずは外へのポータルを探すよ」


「そこに飛び込めば、なぜか外に飛び出る不思議な泉……場所がたまに変わるんですよね?」


「らしいね。僕もまだ見たことがないんだ」


 ポータルがあるのは、今回の4層からだっていうし、次にあるのは7層だそうだ。

 3層ごとに様相が変わり、ある意味安全に外に逃げられる仕組みがある。

 天塔が神に作られて、何か目的があって人間を誘い込んでいるという噂も信ぴょう性を増すという物だ。


 当然、出てくる怪物も変化があるらしいことは聞いている。

 確か4層で出てくるのは……。


「グレイウルフ! 仲間が集まる前に仕留めるよ!」


「はいっ!」


「この距離ならっ」


 まずはラヴィによる火魔法。ここ2週間ほどの練習で、大きく変化した。

 最初は子供が投げるようなものだったけど、弓で矢を放つかのように飛んでいく。

 そりゃあ、まだ駆け出しが使うような弓矢みたいなものだけど。


 曲がり角から出て来た、荒い毛並みのグレイウルフ2頭。

 その片方に火の玉が迫り……残念ながら回避されてしまう。

 それでも、十分だ。


「このっ」


 僕も大きい方じゃないけれど、それでもグレイウルフと比べれば体格は上だ。

 そのまま走り込んだのじゃ、なかなか戦えない。

 姿勢を低くし、駆け出してそのまま剣を振るう。


 身をひねって回避するより早く、グレイウルフAの体に僕の剣が食い込み、切断する。

 その横を飛ぶカレジアが向かう先は、もう一頭。

 続けて放たれた火の玉を回避して、姿勢が崩れたところにすべり込み、喉元を手にした剣で突きあげた。


 カレジアの使う剣は、彼女自身が生み出しているらしくすぐに消えていく。

 剣のあった場所からは、血が噴き出し、相手は倒れる。


「上手く行きました! やっぱりお腹とか喉元は柔らかいですね」


「さすがね、カレジア。でも、失敗したら危ないから気を付けないと」


 ラヴィの言うように、グレイウルフは2人にとっては大きな存在だ。

 上手く倒せたからいいけれど、回避されたら今度はこちらが大ピンチ。


 もっと連携をして、安全に倒していかないといけないだろうと感じる。


「焦らずいこう。4層からは、宝箱も出るらしいしね」


 自分で言っておきながら、何だろうなって思う。


 宝箱……文字通りの物だ。

 ゴブリンと、天塔自身から採取できるものだけが主な3層までと違い、4層からは箱が出る。

 名前の通り、何かが入っているわけだけど……仕組みが謎だ。


 僕が2人を見つけたような、財宝の間とは違うらしい。

 結局、同じ場所にいったけど財宝の間にはたどり着けなかったしってそれはそれとして。


 箱の中身は、ゴミみたいなものからそこそこの物まで。

 あたりはずれがあるれけど、ただグレイウルフの毛皮なんかを集めるよりは実入りはいいらしい。


(上手く見つかって、中身が手に入れば、だけどね)


 1人じゃなく、3人になった僕たちは、まだ弱い。

 まだ歩き方を覚えたってとこぐらいだろうか?


 事前に調べた話だと、この階層だと出て来ても3頭なんだとか。

 と、ここで安心してはいけないのだ。

 生きて帰ってきた人の話では、最大3頭、なのだから。


「何か音が……うっ」


 天塔は広い。そして、登る探索者は数多い。

 戻ってこない探索者もまた、それなりにいる。


 ポータルを探して歩く僕達の先、普通の曲がり角の向こうで何か音が響いていた。

 そうっと覗いて、後悔する。


 地面に倒れた何かを、グレイウルフたちが食べていた。

 突き出した棒のようなものは、手首から先が無くなった……人の腕だ。


 同じように覗き込み、青ざめている2人を抱きかかえつつゆっくりと後退。

 しばらくはこっちには行かない方がいいなと思いつつ、別の道へ。


 実入りも多くなったようだけど、危険度も増したような感じを受けつつ、探索を続ける。


「マスター、いざとなったら私たちを置いて行ってくださいね」


「まあ、そうよね。妖精は人間じゃないから、そうして」


「そうならないようにするよ、絶対」


 剣を握ったままの右手に少し力がこもる。

 開いた左手で、胸元にぶら下げたソレを服の上から握りこんだ。

 両親が残した、どこの物ともわからない古ぼけた鍵。

 価値はなさそうだけど、手放せないんだよね。


(お金をためて、防具も買わないとな)


「? 何か感じる……もしかして! 主様、こっちよ!」


 叫ぶや否や、ラヴィはぐんっと加速して飛んでいった。

 階段のように積みあがる岩たちの上に、ぽっかりと穴。

 カレジアと一緒にそこへ上ると……穴の向こうに、不思議な色のそれを見つけた。


 ちょっとした広間のようになっている空間のど真ん中に、泉はあった。

 勇気さえあれば、飲むことも出来そうだけど、今回は止めておこう。


「これに飛び込むの? 怖くない?」


「想像とは違いましたね……」


 僕も、何か扉のようなものかと思っていた。

 でも、明らかに色以外は普通の泉だ。

 どこからか湧きたって、どこかに流れている不思議な泉。


「これでポータルじゃないってことはないと思うから、少し狩りをして戻ろうか」


 長く頑張るのは、ポータルのことを確かめてからでいい。

 そう結論付けた僕は、この場所を中心に周囲を探索し、グレイウルフをもう少し狩ることにした。


 そろそろ戻ろうかという時に、突然宝箱が出てきたのには驚いた。

 何もなかった場所に、ドンって出てくるんだもん。


 気を付けながら、鍵の無いそれを開けると、中身はお金だった。

 なんでこんな場所にお金が?とは思いつつ、回収してポータルに飛び込むことに。


 独特の浮遊感、そして目を開いたときには……外にいた。


「外だ……」


「ふわあ……」


「うう、なんだかふわふわする」


 1層の出口とはそう離れていない場所に出て来た僕たち。

 驚きながらも、戦利品の清算のために町に戻るのだった。


 

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