BFT-036「希望の光と、疑惑の闇」
天塔17層、それが僕たちのいる場所。
地上を走るドラゴンパピーの出てくる階層。
その牙も、鱗も、良い値段で売ることの出来る場所だ。
最初は、妙にどきどきしながらの狩りだった。
色々な理由から、それも今日までなのかなと思う。
「18層、覗いてみるか」
「そうだね。下のゴーレムもそうだけど、同じのが多いと戦い方が偏っちゃう」
12層からは、しばらくは色々な相手が出てくる階層だった。
苦労する分、色々と工夫し、自分の力も上がったように思う。
でも、今の状況は力はついても、戦い方は広がらないなあと思う訳で。
「マスター、通路の先に3匹。今日は採取はもういいのよね? チャージでやるわ」
「私も、アイシャもやりましょう!」
「ええ、ご一緒させていただきますわ」
妖精3人の新しい力を得られたという点では、十分儲かったって感じではある。
膝上ぐらいしかない背丈の、妖精3人。
彼女たちは、自分たちの非力さを補う術を、手に入れたのだ。
「魔力圧縮……チャージ!」
どうも、一度妖精の世界に戻ったところで、他の妖精たちに教わったらしい。
これを使えるようになるのは、信頼の証と言っていたのが、妙に嬉しい。
古の言葉と共に、ラヴィの両手の中に魔力が集まり、どんどん強くなっていく。
顔を出したドラゴンパピーたちの中に、それが打ち出された。
赤く、宝石のように光るそれが相手のそばに着弾した時、炎が吹き荒れる。
爆音と、響く悲鳴。
力を凝縮させた一撃が、炎に強いはずの竜型の肌を焼き、大きな打撃となったことがわかる。
そして産まれた隙に、飛び出す2人の影。
カレジアとアイシャが、それぞれに武器を構え、突進したのだ。
その背中、そして羽根がうっすらと光っているのがここからでも見える。
2人が得た力は同じように見えて、結構違う。
「1人じゃ足りないのなら、たくさんの私を!」
「一撃が不足しているのであれば、終わるまでただひたすらに、参ります」
光が放たれると同時に、カレジアが増える。
正確には、半透明のカレジアがたくさん増えて、一気にドラゴンパピーに襲い掛かる。
魔力で出来た、分身体らしい。
対するアイシャは、繰り出す槍と、槍を持つ腕全体に靄のようなものがまとわりついている。
これが、一回槍を突き出すと、それを繰り返すように何度も何度も、短時間にひたすら突くのだ。
カレジアが、全方位から刺していく感じだとしたら、アイシャは向こう側まで突き抜けるために突く。
可愛らしくも恐ろしい、戦う美少女たちの力だ。
「はっ、負けてらんねえな」
「僕は、新しい属性石が手に入るといいんだけどねえ。ベリルは、同じ魔力撃でも威力が違うし」
言いながらも、全員が何かしら切り札的な一撃を手に入れたことに、僕は満足していた。
特別な何かがあるというのは、心の余裕を産むのだと思う。
奇襲に警戒しつつ、先へと進む。
そうして見つけた階段。18層への、道だ。
毎度のことながら、新しい階層への移動は緊張する。
どんな相手と出会うかが、やっぱり会ってみないとわからないからだ。
「じゃあいってきます」
「カレジア、気を付けてよ?」
こういう時、小柄で物陰に隠れやすい妖精たちが先行することが実は多い。
僕としては、危険な目に合わせたくはないのだけど……適材適所、なんて言われちゃあね。
実際、僕やベリルじゃ見つかるだろうなってのは間違いないし。
ゆっくりと登っていくカレジア。
彼女が小さいのもあるけれど、こうしてると随分先の方に行っているように見えるのが面白い。
しばらくして、階段の上にカレジアが消えた。
長いような短いような時間の末、小さな影がひょこっと姿を見せた時にはほっとしたものだ。
「上がってすぐには何も。石畳で、まるで建物の中の様です」
「建物の中の様って、天塔なんだからそのままよね」
「言いたいことはなんとなくわかったよ。じゃあ、ゆっくり行こうか」
前衛に僕とカレジア、後ろはベリル、真ん中にラヴィとアイシャ。
最近の僕たちの必勝陣形だ。
そのまま登っていった先には……。
「なるほど。こりゃあ、建物の中だ」
「そのようですわね。石畳もすごくきれいですわ。まるで、同じものをたくさん敷き詰めたよう」
僕も2人の言葉に頷くしかない。
外で言うレンガ、かな?みたいなやつがびっしりと使われている。
壁も、同じような物が積み上がり綺麗な物だ。
ただ、全体が薄汚れてコケがついていたり、隙間に埃なのか汚れなのかわからない物が詰まっている。
(まるで、何十年も放置されたみたいだ……)
なぜか壁にある灯りだけだと、少し薄暗い。
プロミ婆ちゃんのところで買った、魔晶を燃料に明るくなるランタンを腰に下げる。
敵に僕の場所がばれるのは問題だけど、片手がふさがるのはもっと大変だ。
そうして少しずつ進むと、何かがいたような跡がある。
こすったり、歩いたような跡。
「っと、何かいるね」
かすかに、僕たち以外の足音が聞こえた。
何か重なるような音も一緒だ……獣、じゃあなさそう。
「ゴブリンたちみたいなやつか?」
「かもね……うぇっ!?」
暗がりから顔を出した相手、それは骨だった。
虚ろな瞳の中に、魔力だろう光だけが宿る、人型の骸骨。
それが、手に手に武具を携え、防具で身を守っている状態だった。
半端に肉が残ってたり、なんてことがないだけマシだろうか?
変な匂いとかがあったら、戦いにくいもんなあ。
「まさか、天塔で息絶えた……」
「馬鹿ね、そんなことあるわけないでしょ……無いわよね?」
「わかりませんわね。天塔は謎だらけですもの……」
怯える様子の妖精3人に、僕とベリルも同じような気持ちだった。
出来ればまともには戦いたくはないけど……。
「天塔の中でのことだ。俺たち探索者が混乱するっていうのをわかって産み出してるかもしれん」
「確かに、それはありそうだね」
感想を言い合ってる間に、骸骨たちの姿が良く見える距離になっていた。
疑惑を産む戦いが、あっさりとはじまった。




