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BFT-035「同じ方向を向くことの大切さ」


 ちゃりんちゃりんと、積み重なる硬貨の音。

 プロミ婆ちゃんが、ゴーレムのコアにつけた価値の証だ。

 普段の相場はわからないけれど、何かでコアを覗き込みながらさらに追加ってことは……。


「良い状態だね。これなら調べられそうだよ」


「前より、早くて強くなってるゴーレムの正体が?」


 返事の代わりに、にやりという笑み。

 どこからか、僕たちが採ってきたのと似たようなコアが出てくる。

 見比べてみろってことかな?


「俺たちのほうが、だいぶ硬そうというか、なんだか艶が違うな」


「ここから見る限りでは、魔力差ははっきりしませんわね。お婆様、これは?」


 どこか冷静なアイシャと違い、カレジアとラヴィは宝石でも見るかのようにかぶりつきだ。

 こういうところにも、妖精の個性って出るみたいだね。


 僕も良く見比べてみるけど……んん? これ……。


「今回のは、魔晶とほとんどおんなじ? こっちは、まだ半分というか」


「良いところが見えてるじゃないか。天塔が、延々と怪物を産み出すのはお前さん達も良く知ってるだろう? 下層だとほとんどないんだけどね……上に行くほど、周期があるのさ。ボス以外の怪物も、強くなっている時期がね」


 思い浮かぶのは、ボスが前のボスを倒し、魔晶を取り込むことで強くなる現象。

 あれも、天塔の怪物が強くなるという点では同じ……道中、無視されるかどうかという違いがある。


 もしかして、もしかしてだけど……完全に放置すると、天塔は普段の相手も、ひたすら強くなる?

 いや、倒されたから対抗して強くなる? どっちだろう?


「坊主、あんたの考えてることは散々先達が考えてるさね。どちらも正解、これが今の結論さ。変化の兆候が、持ち込みから感じられたんでね。その分、高くなるから気張るんだよ」


「よくわかんないけど、注意して戦って、もっと稼げってことね!」


「私たちにも、マスターのようなスキルが欲しいですね……もっとお役に立ちたいです」


 自分はまだまだ、と言いたそうな2人だけど、僕にとってはそんなことはない。

 好きな角度、方向から動ける空飛ぶ存在が、どれだけ役に立つことか。

 ギルドでの時間の間に、他の探索者と雑談をしていればそのことがよくわかる。


(基本的に、みんな同じだからなあ……)


 前に1人いたら、その人を邪魔しないように戦うのが当たり前。

 でも、カレジアたちのように飛べるということは、ある程度それを無視できるわけで。


「プロミ婆ちゃん、魔力消費で飛べるような魔道具とかってあるもんなの?」


「……どうだろうね。あるはずがないとは言い切れないけども……少なくとも、ここで売りに出るほどは数はないはずだよ。城が建つんじゃないかい?」


 一般的ではないということは、そういうこと……か。

 火球が飛び出したり、風の刃をとかいうのは見たことがあるし、ここにも売っている。

 それでも、数をそろえるには高いから……うん、厳しいね。


 店に並んでいる魔道具を眺めつつ、そんなことを思いながら手を止めた。

 これらも、天塔での……宝箱からだ。


「ベリル、怪物が持ってたやつが魔道具だったって話、聞いたことある?」


「……いや? ねえな。恐らく、上層にいる人型の奴なら、可能性はあるだろうが、ほとんどは宝箱からじゃないのか?」


 やっぱり、ベリルも同じ認識だ。

 怪物を倒した時の宝箱、あるいは罠もありそうな財宝の間なんかでの遭遇。

 天塔以外での魔道具の扱いはわからないけど、少なくともクリスタリアではそういう扱いだ。


「中の怪物自体もどっちに有利なのかわからない変化をするし、なぜか物が入っている箱がある。やっぱり、天塔は人間を一番上まで誘ってるのかな?」


「どうだろうな。頂上についたら天塔が無くなりますってオチかもしれないぞ。もしそれがわかったら、絶対登らないだろうな。稼ぎがなくなっちまう」


 確かに、ベリルの言う通りなのだ。

 脅威がなくなれば、護衛というものが不要になるように……。

 天塔が無くなるとなれば、ここで暮らす人、天塔からの素材前提で働く人、地域が崩壊する。


「老いぼれが生きてるうちは、気にすることはないだろうよ。さ、休むなら帰って休みな」


「またね。プロミ婆ちゃん。次も生きててよ」


 そんな冗談を飛ばしながら、5人で家路につく。

 最近じゃ、帰り際に食料を買い込み、家で料理することが増えて来た。

 やっぱり、人間1人と妖精2人じゃ、作り甲斐がない量だからね。


 外の食堂で食べるのもいいけれど、家で一緒に食べるのはやっぱり、違うなあと思う。


「お前の親父さんたちさ、天塔に登ったって証拠はあるのか?」


「んー? どうだろう。そういう話はちらっと村の爺さんたちに聞いたことはあるんだよね」


 湯気を立て始めた鍋に、チーズを削って入れつつの会話。

 そろそろ、多少は踏み込めるぐらいの間柄になったかなって感じだ。


「ギルドには……ああ、名前も、姿も不明じゃ可能性がありすぎるか」


「そうなんだよね。少なくとも、本当の名前では登録がなかった。だから、生死不明ってやつさ」


 目標としては、両親を見つける、あるいは両親がいたことを確認するのが僕の中にある。

 でも、それが困難だということも……わかってはいるんだ。


 僕という子供を残して、天塔に向かうだけの理由がある、そう思いたい。

 ぼかしながらそう伝えると、ベリルも頷いてくれた。


「噂じゃ、上層にいくほど時間の流れも違う場所があるらしい。可能性はたくさんあるさ」


「ありがとう。ベリルは、一通り儲けたらお店を復興させるの?」


 今度はこちらの番。

 気になってたことを聞いてみると、一応頷かれた。


「その予定だ。ただ、いくら稼いでおけばいいかなんてわからないからな。仕送りはしてるけど、いくら儲けたらって決めてはいない。だから、出来るだけは一緒にいるさ」


「ふふふ。ご主人様には、素直さが足りませんわ。見届けたい、一緒にいたいと言えばいいんですよ? 私の時のように」


 突然のつっこみに、ベリルの顔が赤くなる。

 この反応は……うん、ベリルとアイシャにもなんだかいい思い出がありそうだ。


「私も主様と、そういう出会いがよかったなあ」


「そういえば……私とラヴィは、ゴブリンと一緒でしたもんね。ぎりぎりでしたし……」


 ついこの間のはずなのに、もう何年も2人といるような気がする。

 そして、今はさらに2人が増えて……。


 今のところは、村を復興させるだけの力もないし、両親の行方もわかってない。

 それは残念ではあるけれど、少しずつ、前に進めているような気がする。


「目指せ、ドラゴンスレイヤーだな」


「うん。よろしく頼むよ」


 料理の出来上がりと共に、交わした握手の事を忘れることはないだろうなと思った。



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