BFT-034「成長の証」
「ゴーレムの、コア?」
「ああ、そうさ。もし手に入るようなら、いくつか用意してもらいたいのさ」
いつものように、主な物はギルド経由で、端数やよくわからない物はプロミ婆ちゃんのお店に。
ギルドで売り払うには量が足りない鉱石なんかも、ここでは買い取っている。
なんでも、探索者の中には色んな実験をしたり、職人を兼任してる人もいるんだとか。
何か試す時には、このぐらいの量がちょうどいいってことらしい。
道理で、箱じゃなく小袋で小分けにして売ったりしてるわけだ。
中には、こんなものがあるの?ってなる時もあれば、正体を知ってびっくりすることも。
こんなに色々買い取って、赤字にならないんだろうか?といつも不思議だ。
そんなプロミ婆ちゃんからの、個人的な依頼だった。
「ブライト、コアだけ残す倒し方は知ってるのか?」
「いや、わかんないや。コアを潰すっていうんなら簡単に出来そうだけど」
答えつつも、自分でもそうだよなあと思う。
普段は、倒すことに集中するし、お金になるのはどちらかと言えばゴーレムの体自身なのだから。
出てき方によっては、ほぼ全身鉄鉱石だったなんてゴーレムの例もある。
「私、聞いたことありますよ、マスター」
「ええ、私もよ。主様なら……ベリルでもたぶん?」
助け舟は意外なところからやってきた。
楽しそうに、浮き上がりながら店内を散策していた妖精2人からだ。
アイシャも、頷いているから妖精ならではの知識なのかな?
「ご主人様、魔力撃ですわ。それにより、ゴーレムのコアと、手足の連携を切断する必要がありますの」
「そういうことか……確かにブライトや俺のアレなら……」
話を聞いて、むしろ今の僕よりベリルの方が向いてそうだなと思った。
うっかりすると、コアごと消し飛ばしそうだ。
「いい勉強じゃないか? やろうぜ」
「う、うん」
そのあたりは、短い付き合いだけどベリルには筒抜けだったみたい。
やる気満々で誘われては、僕も嫌とは言えなくなってしまった。
コアの取り扱い注意点なんかをプロミ婆ちゃんから聞き、そのまま天塔へと向かう。
ゴーレムの階層なら、焦るほどの状況にはならない。
「何体かで練習して、確保しようか」
「そうだな。にしてもだ……ゴーレムのコアなんか何に使うんだろうな?」
僕にも、その辺はわからない。
聞けば教えてくれそうだし、あんたたちにはまだ早いとか言われるかもしれないし。
ただ、わざわざ依頼されるということは、何かしらの需要があるってことで。
「わかんないけど、採れるようになっておくと便利かもね?」
「どうだろうな……」
そんなことを言い合いながら、最近馴染みとなった階層へとポータルで飛んでいく。
ふと思うことがある。
このポータルで、飛んでいく先は決まっている、決まっているんだ。
でも、その保証は誰がしてくれるんだろうと。
「ついたー! 主様?」
「え? あ、うん。やろうか」
いけない、天塔でぼんやりするのは危険だ。
気を引き締めて、剣に手をやりながら1歩前へ。
と、空気が動いた。
「っとぉ!?」
「ブライト!」
壁だと思っていたそれは、ゴーレムだった。
予想外の動きに、驚きながらも後ろへ飛ぶことができた。
さっきまで僕がいた場所をゴーレムの岩丸出しな拳が叩いた。
気のせいか……な? このゴーレム……速くない?
「みんな、気を付けて! 今日のゴーレムは一味違いそうだ!」
「上等! いつもの相手だと、なまりそうで怖かったんだ!」
最初の相手としては、状況が良くない。
あまり時間をかけず、次に備えるべきだと判断した。
「白光の……速いっ!」
いつものゴーレムが2ぐらいなら、6ぐらいの速さだ。
それでも、ゴーレムはゴーレムというべきだろうか。
僕の攻撃は射線から外れてしまったので不発になったけど、カレジアやラヴィのは直撃。
「崩れたから、ちょうどコアは潰せたわね」
「やっぱり、魔力が集まってる部分がコアなのですね」
頼もしくなってきた2人に頷きながら、ベリル、アイシャと共に次の相手を警戒する。
僕たちもこうだったんだ……普段ここにいる探索者が、出会ったことの無い変化だったとしたら?
頭をめぐる怖い想像を、ぶるぶると振って振り払う。
余計なことを考えている場合じゃ、ない。
「再生されるかもしれないが、まず手足を飛ばすところから始めようぜ」
「了解。手早く行こう」
今まで通りの速さなら、楽勝でしかないゴーレム相手の動き。
でも、今日のゴーレム相手には少しばかり、苦戦しそうだった。
当たれば、僕たちなんかはかなりのダメージ間違いない。
ゴーレムという相手は、本来はそのぐらいの相手なのだ。
「壁に2体、埋まってる!」
「ちぃ、見た目も進化してるってか!」
今までのゴーレムは、どちらかというとわかりやすい。
土壁なのに、岩で出来たゴーレムがいたり、逆だったり。
すぐにそうとわかる状態だった。
でも、今日は違う。強さも違うし、見た目にはわかりにくいのだ。
魔力探知をしっかり働かせて、ダメージにならない程度の魔力を周囲に飛ばして確認を試みた。
その結果が、見つかった2体ってことだ。
「ちょっとばかし速いだけじゃな!」
「よし、効いてる!」
嬉しいことに、耐久面では前のゴーレムとほぼ同じだったようだ。
僕と、ベリルの魔力を込めた攻撃は見事にゴーレムの四肢を砕くことに成功した。
そうして、カレジアたちの言う通りにコア周辺に何回もそれを叩き込み……コアを沈黙させる。
「これで再生はしなさそうだね」
「ただの石英の球に見えるけど……わかんねえなあ」
細かいことは、プロミ婆ちゃんに聞くことにしよう。
それからは、無心でゴーレムを相手に戦った。
ようやく予定数を確保し、戻りながら考えるのだ。
なんだか、僕たちの課題を見越して、依頼してくれたみたいだなって。
偶然ってあるんだなと思いながら、依頼を報告するべく、お店に向かうのだった。