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BFT-033「願うのは明るい日々の生活」



 探索者は、いつだって生きるか死ぬかの瀬戸際にいる。

 僕も、他のみんなもだ。


 どれだけの力を得ても、自分の力が相手を殺せるように、相手の力は自分を殺せる。


 それ自体は、どこまでいっても変わらない。


「行ったぞ!」


「わかった!」


 叫ぶが早いか、岩陰からのそりと顔を出す大きなトカゲ。

 れっきとした竜型の怪物で、ドラゴンパピーとかいうらしい。


 飛べない、走るだけのドラゴン。

 その分、手足は強靭で、顎の力も半端ない。

 武器は元より、防具ごとかみ砕かれる探索者も少なからずいるようだった。


「お口がお留守よ!」


 僕を噛むべく、がぱっと開いた口元へ、火球。

 ラヴィの握った拳ほどの小ささの炎、それがドラゴンパピーの口元に飛び込んだ途端、破裂する。


 新しい魔法の使い方の1つ、威力圧縮とその開放。

 同じ魔力消費の魔法でも、こうしてやれば使い方も変わってくる。


「出来るだけ柔らかいところをっと」


 一撃必殺とは、敢えてならないように調整された魔法。

 そうして生き残ったドラゴンパピーの無防備な喉元へと長剣を振り抜き、首を落とす。


 地面に流れ落ちる赤い血も、もっと強い相手だったらいい素材になるらしい。

 油断なく剣を構えなおし、増援を警戒する。

 ドラゴンパピー自身もそうだけど、そうじゃない相手も怖いんだ。


 必要な個所を剥ぎ取り、少し離れるとソイツは現れる。

 物陰から染み出るように現れるのは、スライムの一種。


「マスター、いってきますね」


「気を付けてね。無理しなくてもいいから」


 一見すると、旨みのなさそうなスライムだけど、実はそうじゃない部分もある。

 溶かしきれなかったものが、巣に溜まっていくのだ。

 それは、ドラゴンパピーの鱗の中でも、質のいい部分。


 スライムの酸にも負けない強度のそれは、少量でも十分良いお金になるし、防具にも使える。

 慣れて来た探索者は、敢えてドラゴンパピーの肉を放置して、手分けしてスライムの巣をあさるんだとか。

 僕たちは、巣が小さい場合や、上の方にあった場合にもカレジアたちなら採取できるのが強み。


「5匹、終わったな」


「うん。なんとかね。牙を削り出した穂先、小剣、どっちもいい感じだ」


 この階層に以前、飛ばされてしまった時に感じていた妖精たちの戦力不足。

 特に前衛となるカレジア、アイシャの武器改善は急務だった。

 僕やベリルの防具と違って、妖精サイズ、しかも小さい彼女らの武器となればそう簡単にはいかない。


 結果、僕たちの持つ武器と連動してるっぽい武器を使いつつ、今現在、通用する武器も用意することにした。

 それが、怪物自体の素材から作った物だ。


「考えて見りゃ、怪物たちの持ってた武具も再利用するんだから、このぐらいは当然か」


「そうなんだよね。アイシャも調子は良さそうだね」


「はい、ブライト様。ドラゴンにはドラゴンを、ドラゴンの牙はドラゴンの皮を破るということのようですね」


 装備を武器防具共に更新したおかげで、僕たちは戦う場所を選べるようになった。

 ゴーレムたちのいる16層以外にも、こうして以前命の危機に出会った17層も。

 外から16層に飛び、そこからどっちかで稼ぐ日々。


 最初は、やっぱりぎりぎりで1匹2匹倒しただけで逃げかえることもあった。

 なんだか力業に近いような気もするけど、ドラゴンパピーを倒すことはいい経験になったようだ。

 確実に、力が付いてくるのがわかる。


「でもマスター、ギルドの方には注意されましたよね。急に階層をあげると、対応しきれなくなると」


「そりゃあ、普通の探索者は、そんなに魔法を連打できないものね」


 そう、僕たちがこうしていられる理由は、明らかに僕自身にある。

 白い闇の去り際の行動で、瀕死になった僕。

 よくわからないうちに、僕の中には力が眠っていたことがわかった。


 今のところ、制御は出来ているようで……実は怪しい部分がある。

 消費していかないと、溢れそうになることがわかったのだ。

 だから、こうして天塔で他の人の目がないところで消費してたりする。


「問題は、素材が確保できないぐらい確殺ってことだよなあ」


「頑張って制御を学ぶよ」


 ムズムズした感覚と共に、これまでのように属性攻撃を使ったら……光と共に、当たった部分がごっそりなくなっていた。

 うっかり誰かが射線上にいたら、とんでもないことになる。


 それを痛感した僕は、目下力の制御の練習中。

 数をこなしつつ、力をつけるために動きの遅いゴーレムはちょうどよかったりしたのだ。

 そうして、少しずつ制御できるようになったからこそ、ドラゴンパピーを相手にしている。


「このランクの探索者としては、破格の成果だとも言われておりますから……そろそろランクアップがあるのではないでしょうか」


「そうかもな。Dランクになりゃ、いっぱしの探索者扱いだ」


 そうしたら、外でカレジアたちを出していてもそうそう変な話はこない……らしい。

 もう1つの目標がはっきりした気分になって、疲れも少しどこかへ行ったような気がする。


「出来れば、あまり問題なく、明るい日々が続くと良いんだけどね」


「違いない。ただまあ、そのためにはまずは1つずつ頑張らないとな」


 そんなことを言うベリルと拳を合わせつつ、天塔の探索を再開する。

 そうして、追加で5匹のドラゴンパピーを倒したところで、宝箱。

 罠に気を付けつつ、中身を確保して……下層へと戻っていく。


 うん。新しい力に目覚めても、慌てず、無理せず、積み重ねよう。

 そんなことを、外の寒さに震えつつ考えるのだった。



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