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BFT-029「人と、妖精と」


「生きてるって素晴らしい」


「突然だな? まあ、同意だが」


 心の底からのつぶやきに、呆れも混じっていそうなベリルの声。

 どうせ、同じ気持ちに違いないのに……なんて冗談を考えるぐらいの余裕はあった。


 無事に、地上へと戻ってこれたからだ。


「こういう場合、また登り直しなんですね」


「そのようですわね。仮にショートカットできたとしても、狙って上層に飛んで生き残るのは……困難でしょうけども」


「まあいいじゃない。主様、早く戻してちょうだい。家でゆっくりしたいじゃない?」


 こればっかりは、ラヴィの言う通りだ。

 正直、今にも座り込みたくてたまらない……でも、まだここじゃあね。

 天塔の外で、ほぼ安全とは言っても、他の人の目もある。


「ベリル、小さいけど家を借りてるんだ」


「いいのか?」


 そう答えられ、僕も今日組むことになったばかりの相手に、性急だったかなと考えた。

 だましだまされ、とは言うつもりもないけれど、探索者には1人1人事情がある。

 ベリルが戸惑うのも、無理はないのかな?


「そっちもさ、苦労してるでしょ。アイシャのそれで」


「……まあな。同じニガ草を飲んだ身、か」


 薬効はすごいけど、味がひどい、それがニガ草。

 同じ苦労をしてきた間柄を示す昔ながらの言葉だ。

 僕も頷いて、カレジアとラヴィを武具に戻して歩き出す。


 多少は拾ったドラゴンの素材は、腐る物でもないので明日から捌けばいいだろう。

 妖精3人が武具に戻り、静かになった状態で男二人、町を歩く。


「ブライト、強くなろうぜ」


「うん。もちろん。僕もさ、強くなりたい」


 ベリルが天塔に登って、最終的に何がしたいかまでは聞いていない。

 言いにくそうだったし、そこは僕が踏み込む領域でもないかなって考えたから。

 逆に、僕の目的もまだ彼には話していない。


 ただ1つ、確実なのは僕も彼も、天塔で生き残るだけの強さを欲しているということだ。


 帰り際、適当にまだ開いているお店で食料品を買い込み、家へ。

 長く住んでるわけじゃないのに、なんだかすごい安心する気がした。


「邪魔する。いい家だな、落ち着く」


「でしょう? 広すぎず、狭すぎずってね」


 言いながら、カレジアたちを呼び出した。

 ベリルもまた、槍に念じてアイシャを呼び出す。

 こうして並んでると……アイシャが長女って感じかな?


 と言っても、だ。


「アイシャも、小さい方なのね」


「本当です。私たちより拳1つ分ってところですか?」


「食費はかからないのがいいところですけれど……ご主人様の事を考えると、大きくなりたいところですわ」


 1人増えただけなのに、なんだかわいわいとした気配が大きくなった。

 そういえば、村でも女の人たちが集まると、いつまでも話してたっけな……うん。


 苦笑しながら、買って来た食材を適当に調理することにする。

 鍋でみんな煮込んで、とりあえず食べる感じでいいかなと思っていると、ベリルもすぐ横にやってきた。


「妖精は、呼び出すまで向こうで同胞と暮らしてるらしい。だから、呼び出されてる間はおしゃべりできないのが少し寂しいんだとか言ってたぞ」


「ああ、なるほど……」


 今のところ、人間と妖精の関係はあまり知らないと言ってもいい。

 どうして呼び出せて、契約が出来るのか。

 かなり一方的な呼びかけからの契約だったように思うけど……。


「よくわからないが、妖精たちにとって悪い事ばかりなら、とっくに問題になってるんじゃないか?」


「ま、それもそうだね。カレジア、ラヴィ。器ぐらいは用意してくれると助かるな」


 大きな声で言ったつもりはなかったけれど、ちょうど会話の隙間に飛んでいった言葉は劇的だった。

 真っ赤になって、2人が文字通り飛んでくる。

 少し遅れて、お客さんであるアイシャもだ。


「はい。妖精は人間と同じ食事じゃなくてもいいっていうけど、仲間だからね」


「においだけでも十分、気持ちが温まります。2人とも、いいご主人様ですね」


 なんだかくすぐったくなって、ごまかすようにテーブルへと向かった。

 そうして、5人になったことで少し狭く感じる部屋で食事。

 不思議と、3人よりもおいしい気がした。


「さてと、組むことは決まったが……俺から提案がある。1つは、防具の新調。もう1つは、妖精たちの強化だ。ブライトも知ってるだろう? 妖精も強くなる。強くなると、だ。でかくなっていくらしいんだ」


「そうなの? 強くなるのは知ってるけど、大きくなるのは……どうなんだろう?」


 不思議そうな顔になるベリルに、僕はカレジアとラヴィ、2人の頭に手を乗せる。

 しっかり計ってないけど……。


「2人ともさ、契約した時からほとんど変わってないんだよね」


「残念ながら、その通りなのです」


「ほんっと、先輩たちみたいに大きくなりたいのに!」


 落ち込むカレジアに、怒るラヴィ。

 性格が出ている2人だけど、そこが可愛かったりすると思う訳で。

 それはともかくとして、この感じだと……アイシャは大きくなったってことなのかな?


「何か条件があるんだな。アイシャ、知らないか?」


「人間と同じで、妖精にも個性がありますから……これだというのは存じません。ですけれど、人間らしい生活をする、というのは大事だと思いますわ」


 どういうことかと聞くと、妖精が変化するときは、こうしたいという気持ちが高まる時だから、だそう。

 つまりは、契約者と生活し、こうなりたいと願う時が多いほど、ということだ。


「えっと……じゃあ、町中でも外で過ごせるように早くならないといけないわね!」


「私、頑張ります!」


 妙にやる気になった2人。

 僕も、2人ともっと過ごせるのなら異論はない。

 ベリルの提案をどちらも受け入れる形で、これからの僕たちの動きが決まるのだった。



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