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BFT-028「結ばれた手」


「じゃあこの荷物、貴方のだったんですね」


「自分で言っておいてなんだが、信じるんだな」


 呆れたように言われるけども、それが僕の性分なんだから仕方ない。

 第一、根拠の1つや2つはあるんだ。


 それは、僕と彼のすぐそばで横になっている彼の妖精。

 怪我をした彼女を、カレジアとラヴィが治療している。

 と言っても、ポーションを飲ませるぐらいだけど。


「金はいくらでも出すから、ありったけのポーションをくれっていうぐらい大事にしてるみたいですし」


「うっ、それはだな……」


 妖精が死んでしまった時にも、契約の解除にはお金がすごいかかる。

 それを考えると、いくらでもとは言いにくいはずなのだ。

 つまりは、失いたくないという気持ちが強いことがわかる。


「冗談はこれぐらいにして、なんとかポータルを探して脱出しないと」


「ああ、間違いない。たぶん、17か18層だと思うが……」


 上下どちらにするか、悩み始めたところで気が付いた。まだ自己紹介もしていない。

 今さらと言えば今さらだけど、名乗った上で得意武器の確認もする。


 彼の名はベリル、僕より2つ上だった。

 近くの町の、商家の出らしい。天塔に来た理由は、店がつぶれたからと……まあ、なかなか悲しい。

 得意武器は槍、前に出会った後に妖精の宿る槍を上手く拾ってそれを使っているんだとか。


「さすがに正面からは避けられまくってな。アイシャが囮になってくれてたんだが、さっきの奴に一撃貰っちまったんだ。俺だけじゃどうにもできなかった」


「あれは私が油断したからです。ベリルは何も悪くありませんわ」


 弱弱しいながらも、そう断言して妖精が起き上がった。

 どうやら、ポーションが効いてきたらしい。


 夜の闇をそのまま持ってきたような黒髪は、腰近くまで伸びている。

 妖精じゃなくて、どこかの侍女やお嬢様を連れて来たと言ったら信じられそうな感じだ。


「ブライト様。助けていただき、ありがとうございます。これでまた、ご主人様のために尽くせますもの」


「お礼は無事に戻ってからもらいますよ。ベリル、僕は火力的にはなんとか一撃で行けるスキルがある。けど、消耗は激しいんだ。探索も同時にだと回復が追いつかない」


「了解した。基本は俺とアイシャ、それにそっちの2人で隙を作って、ブライトがトドメ、でいいな」


 頷き、握手を交わして即席のパーティーを組んだ。

 人が増えれば、問題も増えるけど、良いことも増える。

 監視、警戒の目が増えるというのはそれだけで有利なのだ。


「行く先なんだけど、下がいいと思う。ここが18層だとしても、上に行くほど怪物は厄介なわけだし」


「同感だ。確か、ゴーレムメインの階層の次が竜型だったはず。行こう」


 急いで、慌てず、確実に。

 天塔に登るための探索者登録をした時、何度もギルドの人からはこう言われた。


 これに限らず、色んなことはその状況になってみないと実感がわかないもんだなと思うのだ。


 緊張から、飛び出しそうな心臓を気にしつつ、僕は僕の役目に注力する。

 魔力を温存し、少しでも回復させ、一撃を叩き込む。


「あった、階段だ。運がいいことに下側だぜ。ただまあ、ドラゴンもいるな……2匹」


「飛び込むのは危ないね……引っ張ろうか。カレジア、ラヴィ」


 近接しかできないらしいアイシャには、近くに来た時に頑張ってもらうことにしよう。

 どちらか一方だけ引っ張れればよし、最悪2匹同時でも、少しでも時間がずれればそれでいい。


 脇道に僕だけが残り、意識を集中する。

 こちらに気が付いたらしいドラゴンへ向けて、カレジアたちの投擲と魔法が襲い掛かる。

 ダメージはそんなにないだろうけど、意識をそちらに向けてくれていればそれでいいのだ。


「おらあ!」


 近づいてきたドラゴンの急所となる目や、首元にベリル、そしてアイシャの槍が繰り出される。

 残念ながら、直接の打撃にはならなそうだけどますますドラゴンの意識がそちらを向いた。


「白光の煌めき!」


 今日だけで、何度目かの属性攻撃を放つ。

 さすがに技の後の疲労感がかなりの物になってきたように思う。

 でも、まだドラゴンがもう1匹いる。


 前を行くドラゴンが倒れたことで、後続の1匹も僕に気が付いた。

 今度は僕の方へと襲い掛かってくるドラゴン。

 なんとか火槍の勢いを利用し、回避した。

 表面を焦がしただけっぽいのが悲しいね。


「マスターはやらせません!」


「離れなさいよねっ!」


 咄嗟に飛んだ2人の攻撃が、ドラゴンの目に当たったらしい。

 悲鳴のような咆哮をあげて、ドラゴンが顔を振り回すのが見えた。


「アイシャ!」


「合わせます!」


 その隙を逃すかとばかりに、回避の勢いで倒れ込む僕の前で2人の槍がドラゴンへと迫る。

 力一杯繰り出されたであろう2本の槍が、ドラゴンの上あご付近から頭へと突き抜けるように沈んでいく。


 大きな音を立て、2匹目のドラゴンも倒れた。


「やったな。なんとかなったぜ」


「もったいないけど、採取はあきらめよう。次が来る前に降りた方が良さそうだしね」


 言い終わるかどうかという時に、背後に気配が複数。

 確実に、増援のドラゴンだ。


「マスター、早く!」


「階段すぐには何もいなかったわ!」


 先に下の様子を見に行ってくれた2人に感謝しつつ、ベリルたちと一緒に階段を駆け下りる。

 天塔の怪物が、別の階層に行き来出来ない理由はわからない。

 今回はそれに助けられたけど、不思議なことばかりだ。


 下の階層は、静かだった。


 少なくとも、見える範囲に怪物らしき相手はいないようで、警戒しつつも休息をとることにする。


「ブライド、提案があるんだが」


「奇遇だね、僕もさ。ベリルさえよかったら、しばらく組まないかい」


 先んじての僕の言葉に、ベリルだけじゃなくアイシャも驚いた顔になる。

 僕としても、その方が良さそうだなと思ったからで、何も理由がないわけじゃないんだよね。

 その理由で、大きなのは……彼の契約した妖精、アイシャ。


 最初は長髪でわからなかったけれど、その背中には、カレジアやラヴィと似た、羽根があったのだ。



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