BFT-002「一歩ずつ、確かな歩みを」
「そこだあ!」
「ええいっ!」
「こんのっ!」
響く声と、光る刃が2つ、そして小さな炎が1つ。
僕とカレジアの振るう剣、そしてラヴィの放った火魔法だ。
数匹のゴブリンの集団に、奇襲を仕掛ける形になった僕たち。
結果は、大勝利。
僕の剣は一番体格のいいゴブリンに深々と刺さり、沈黙させる。
カレジアの手にした、僕からするとナイフほどの剣もゴブリン相手には十分。
ラヴィの魔法も、火と言えば松明ぐらいしかない天塔の中で、強さを発揮している。
なんのことはない。ちゃんとやれることをやれば、僕たちも戦える。
「やりました!」
「カレジア、喜ぶのは……なんだっけ、素材と魔晶?を採取してからにしましょ」
両手をあげて喜ぶカレジアに微笑みつつ、ラヴィのいうように2人に任せて僕は警戒。
ここは天塔の中、まだ2層といっても、出てくるときは5匹ぐらい出るらしいのだ。
基本的にソロが多い探索者としては、対複数は死神が近づいてくる。
(背後からいきなり……が減っただけ、すごい楽だ)
自前の羽根で飛び上がり、僕の腰にある袋に牙や爪、魔晶を入れる2人を見てひとり頷いていた。
最悪な思い出は、戦利品の採取中に襲われて、その日の分を全部置いて逃げたときだったかな?
「主様、これがもっと透き通ってると高いってことでいいの?」
「うん。ほら、ゴブリンリーダーのはこれより透明だったでしょ」
「確かに! 濁ってはいましたけど、これよりマシでしたね」
休憩がてら、3人で話し合いをする。
妖精は、この世に契約で生まれ出た時になぜか知識を得ているという。
本人も知らないはずの知識を、何かの拍子に思い出すというのだから面白い。
それでも、まだまだ弱いらしい2人は、知らないことの方が圧倒的に多い。
だから、こうして僕も自分の勉強を兼ねて2人に説明するのだ。
ゴブリン以外にも、天塔の中の怪物は、体のどこかが水晶のように結晶化している。
それを魔晶と呼び、ギルドはそれも換金対象にしているんだ。
なんでも、これから魔力が吸い出せて、色んな使い道があるんだとか。
(強い武具は、加工した魔晶を使って力を発揮するとかいうけど……うーん)
まるで、お金で殴ってるみたいで、ぞっとする。
日々の生活もぎりぎりな僕にとっては、夢のまた夢だ。
それに、武器なら今は足りているしね。
「当面は、僕がメインで、カレジアが牽制、ラヴィは火に弱そうなやつか、遠くの奴を魔法でお願い」
「うう、私がもう少し大きければ……」
「私だってそうよ。ゴブリンぐらいは燃やしたいわ」
そう、戦えると言っても2人はやはり、小さくて……強いとは言い難い。
カレジアはナイフぐらいの剣で、ラヴィの炎も火傷はするだろうけど、当たり所が悪くない限り倒すのは難しい。
だからと言って、役に立たないかというとそんなことはない。
現に、僕1人での稼ぎをとっくに超えている。
それに……。
「あっ、見つけました!」
「壁から鉱石が生えてるなんて、不思議よね」
「床や壁のは、結構掘るんだけどね。天井のは手付かずさ」
僕以外にも、妖精を連れた人はいるはず、ならどうして?
答えは簡単で、一定以上のランクの妖精なら、戦った方が稼ぎがいいから。
ちょっと悲しいけれど、自分の顔より大きな鉱石を抱えてくるカレジアを見たら、褒める以外ないよね。
「そのうち、2人で主様を抱えて飛べるようになったらいいなとは思うのよね」
「楽しそうです! ラヴィ、頑張りましょう!」
楽しそうに話す2人は、ひらひらと僕の周囲を飛んでいる。
そう、今さらだけど飛べるのだ。
体のわりに、羽根が大きいからかな?
念のために、他の人のいるところでは飛ばないように、としておいた。
もう少し、妖精のことを知ってからの方がいいと思ったからだ。
僕はまだ弱い。だから、何かあっても2人を守って戦えるようになりたい。
もしかしたら、妖精相手に何を馬鹿なことをと思われるかもしれないけど……。
「どうしました?」
「ううん。2人と契約で来てよかったなって」
「褒めたって何も出ないわよ、主様」
すぐそこから、命を奪う怪物が出てくるかもしれないのに、僕は明るい気持ちでいっぱいだった。
我ながら現金だなと思いつつ、探索を再開する。
何度目かのゴブリンとの戦いの末、僕たちが見つけたのは、古ぼけた木の扉。
毎回思うんだけど、外から見るより、天塔の中は広い、それに……なぜこんな造りなんだろうか?
外からは、人工物に見えるのに中は岩でできた洞窟だったりする。
そんな中に、たまにこうして扉があるのだ。
扉の向こうには、お宝があることが多い。と言っても、この天塔じゃ、物は限られてる。
それに、僕が2人を見つける前に思っていたように、向こう側に怪物がいることもよくあるのだ。
好奇心と、欲望と。
前に、すごい強い探索者が酒場で話してるのを耳にしたことがある。
天塔は、人の欲望を飲み込んで、今も成長しているんじゃないかって。
「主様、潜らないの?」
「どうもね、嫌な気がする。カレジアはどう?」
「えっと……同族の気配はしません」
果たして、妖精に文字通り同族を見つける力があるのかは別にして、良い予感はしないようだった。
だったら僕の選択は1つ。別の道を行く。
少しばかり、気になるけれど決めたからにはとっとと進もう。
そうして僕たちが別の道を進み始めたころ、他の探索者らしき足音。
違う足音が2つとなれば珍しく、ソロじゃないようだった。
2人は僕たちの入らなかった扉を見つけ、歓声をあげながらくぐっていき……扉が消えた。
何かあれば助けにでも行くつもりだったのだけど、それも出来ない状態だ。
その先で、彼らが稼げたのかどうかはわからない。
「……やっぱり、帰ろっか」
「ええ、そうしましょ……」
「うう、怖いです……」
無理せず、稼げるだけで帰る。
そういえば、探索者登録をした時にこんなことを言われたなと思い出しながら、外に出ることにした。
後で聞いた話だと、妖精は自分自身が幸運の証(人間が勝手にランク付けをしているが)だと自覚があるらしい。
だから、同族の気配はしない、とは幸運の気配はしない、という意味だったわけだ。
無理せず、一歩ずつ、行こうと決めた僕だった。