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BFT-027「1人じゃない」


 天塔の罠にはまり、未知の階層へと飛ばされた僕たち。

 そこで見つけたのは、強さのわからない……竜型の怪物だった。


 大きな岩陰に隠れて、上がりそうになる呼吸を整える。

 ぱっと見だけど、馬の2倍か3倍はありそうだ。


「見える範囲では1匹、どう?」


「ええ、そうみたい」


「後ろは行き止まりですね。何もありませんよ」


 挟み撃ちにあうことがないことを喜ぶべきか、追い込まれたら終わりだと思うべきか。

 いずれにせよ、今はまだ……僕たちは見つかっておらず、生きている。

 このささやきも聞こえてしまわないか、どきどきだ。


 事前に調べた情報によれば、20層までの間に竜型の怪物が出る階層があったはず。

 どこだったかは思い出せないけど、間違いない。


 問題は、ここがもっと上という可能性だ。


「20層までのどこかなら、なんとかできる……かも?」


 基本、上層に行くほど怪物は強いと聞いている。

 同じような相手でも、基本的な強さが違うのだ。

 ゴブリンやコボルトすら、強くなって新たに出会うこともあるらしいのだから。


 そうなると、この竜型の怪物……まあ、ドラゴンでいっか、はどのぐらいの強さなのか?

 魔力による一撃、あるいは属性攻撃でなんとかなる相手か?


「やるしかないか……2人とも、お願いできる?」


「勿論、任せなさいよ。前にちょろっと出て気を引けばいいんでしょう?」


「私には、そのぐらいしかできなさそうですから」


 妙に自信満々のラヴィに対し、自身の攻撃力不足を悩むカレジア。

 対照的な2人だけど、僕も2人を捨て駒にするつもりはない。


 剣を構え、準備を終えた僕の合図で、2人が岩陰を回り込んでドラゴンの方向へ。

 そして、飛び出した!


 魔法の音と、動く小さなもの。どちらも気を引くには十分だったらしい。

 出来るだけ気配を抑えつつ、指輪を剣の属性石部分へと合わせ、力を絞り出す。

 白く染まった剣を構え、いざ突撃。


「白光の煌めき!」


 力一杯地面をけり、飛び上がる。

 そうして勢いそのままで出し惜しみなし、手札の中での最強をきった。

 無防備にこちらに見えていたドラゴンの首に僕の斬撃が襲い掛かり……しっかりと向こうまで突き抜ける。


 受け身を取ろうとして、そのままごろごろと地面を転がってしまったのは情けない。

 情けないけど……。


「き、斬れた……ドラゴンを斬ったぞ!」


「やりましたね!」


「見て見て、何が起きたかわかってなさそうな顔よ」


 飛び込んでくるカレジアを受け止めながら、ラヴィの言うようにそちらを見れば、まだ濁っていないドラゴンの瞳。

 それが段々と曇り、濁っていくことでようやく相手の命を奪ったことが実感となってやってくる。

 たぶん、弱い方なんだろうけど竜を、ドラゴンを倒した。


 そのことが、妙に嬉しかった。


 相手の死体が消えてしまう前に、鱗だとか牙だとか、取れそうな部分を一通り採取。

 僕自身と、2人に漂う魔力の残滓を見る限り、かなりの強さだ。

 正面から戦えば、苦戦は回避できないだろうね。


「出来るだけこうして、1匹ずつ倒していこう」


「何匹いるのか……怖いですね」


 結局、囮にしかなれない自分を気にしてるらしいカレジアの頭を撫でつつ、ポータルか階段を探すべく動き出す。

 相手の大きさに違いが無いのであれば、物陰から突然こんにちは、ってことはなさそうだ。


 時間はかかるけれど、物陰から様子を伺いつつも、次の岩場へという移動を繰り返すことにした。

 精神的な疲労の方がありそうだけど、無防備に進めばたぶん、死んでしまうだろう。


 そうして、少しずつ進んでは、なんとか3匹のドラゴンを倒し、生き残ることが出来ている。


「主様、大丈夫?」


「なんとかね」


 僕たちにとってはつらいことに、カレジアとラヴィ、2人はドラゴンに有効打が打てない。

 例えば、急所の目玉に突き刺す、口の中に撃ち込む、とかしたら別なんだろうけどそうそうその手は通じない。


 結果、僕が3回とも属性攻撃で一気に仕留めることになった。


 確実な、どうしようもない魔力の消耗が僕をじわじわとむしばんでいく。


「戻ったら、プロミ婆ちゃんのところで魔力回復のポーションを買いこもう」


「私たちから魔力を融通できればいいんですけど……」


 心配そうなカレジアに首を振り、悩んでる様子のラヴィも頬をつつく。

 1人じゃないからこそ、ここでも頑張れているということを2人に伝えたかった。


 呼吸を整えながら、魔力の回復を意識する。

 スキルのおかげで、消耗も減っているし、回復も早いはず。

 なのに、あまり回復した気がしないのは、悩ましい。


 恐らくは、ドラゴンがどこにいるかというプレッシャーが原因だ。

 魔力探知を全開にしているから、常に消耗しているわけだからね。


「戦闘の音……探索者がいる!?」


 生き残るために、僕は見知らぬ探索者と合流することに決めた。

 無事に帰るためなら、素材だとかはあげてもいいと考えている。


 慎重に、それでも出来るだけ急いで音の方向へと向かう。

 幸い、ドラゴンと遭遇することはなかった。


「いたわっ!」


「誰か奥に倒れてます!」


「やらせるかっ!」


 その時の僕は、他の探索者に言わせれば、馬鹿なことをしたんだと思う。

 自分の方に向いていないドラゴンの気を、自分に向けたのだから。

 ぎょろりと向いた瞳は、殺気に満ちている。


 大したダメージにならなかったであろう僕の放った火槍。

 それでもドラゴンはこちらに顔を向け、大きく咆哮を上げる。


「てりゃああ!!」


 見知らぬ探索者は、その隙を逃さなかった。

 僕がそうしたように、横合いから切りかかる形でドラゴンに攻撃を仕掛けたのだ。

 残念ながら、一撃必殺とはいかなかったようだけど、今度は僕の番。


 改めて探索者のほうに振り向いたドラゴンを、同じように僕も攻撃。

 弱っていたところへの魔力斬は、しっかりと威力を発揮した。


 ごとりと、ドラゴンの首が落ちる。


「誰か倒れてるようなので、お邪魔かと思いましたけど……って」


「いや、正直助かった……ん? おお!」


 見知らぬ階層で出会った探索者は、見知らぬ相手じゃなかった。

 以前、謎のスピリット大量発生の時に共闘した探索者だったのだ。


 不思議ばかりの天塔の中で、偶然の出会いが僕たちを結んだ。



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