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BFT-025「近くて遠い」


「本当に、模型の通りだ……」


「ポータルの位置を探すのに、すごい楽ね」


 露店で買った、不思議な天塔の模型。

 ただの模型だと思っていたそれは、どうも違うようだった。


 地形や造りが、かなり小さいけれど再現されているようなのだ。

 しかも、時々変わるという天塔の内部、それに対応するように模型も変化する。


「さすがに、怪物の確認は直に把握した方が楽そうだね」


「ええ、動きながらこんな細かいのを見るのは、ちょっとね」


「どうやって動いてるんでしょうねえ……」


 本当に、天塔にはわからないことが多い。

 そもそも、なんでこんな場所に3本も建っているのか。

 中の怪物が、ほとんどの場合出てこないのは何故なのか。


 そして、どうして攻略する人間の助けになるような仕組みになっているのか。


「案外、欲望に負けた人間がただ登ってるだけなのかな?」


 天塔の存在理由は、誰も知らない。

 一番上に何があるかも、実はわかってないのだ。

 表向きには、となるけれど。


 フレアさんのような、一流のパーティーですらこの天塔の一番上は目指さず、次の塔に向かっている。

 彼女らは、どちらかというと稼ぐのを目的にしてるらしいからそれでいいんだと思う。


 でも、1人や1組ぐらい、一番上を目指す人がいてもおかしくないはず……だよね?

 そういう話を聞かないのは、皆諦めるのか、それとも……生き残れないのか。


「登れば、わかる……か」


 自分で出した結論に、身もふたもないななんて思いながら、ひとまず地上へ。

 一度休憩してから13層へと飛ぶ予定なのだ。


 僕が知る限り、この天塔の最高到達階層は……42。

 これを低いとみるかは、人によると思う。

 現実的な問題として、ここから先はどんどんと怪物の数も増え、進むのが難しくなるんだとか。


「燃え尽きなさいっ!」


「巨体でも、急所に当たればっ!」


 飛び交うカレジアとラヴィの声と力。僕もその間を縫うように走り、剣を振り抜く。

 だんだんと、この剣の正体というべきか、そういう物がわかってきたように思う。

 他の武具もそうだけど、妖精と一緒だなと感じるのだ。


 成長する、武具。それが妖精の出てくる武具だ。


「まとめて片付けるっ! 白光の煌めき!」


 体から剣へと、魔力が抜け出るのを感じる。

 好き勝手に飛び散りそうになるそれを、なんとか制御して正面へ。

 13層に多く出るという、オークの集団に白い斬撃が飛び、オークたちを魔晶に変えた。


 素早くそれらを3人で拾い集め、戦いやすい場所へと移動。

 直接力が増えるわけじゃないのだけど、こうしていると自分が強くなる実感があるのだから不思議だ。


「マスターもそう思います?」


「こう、倒すと何か漂って入ってくるのよね」


 そうなのだ。下層だとあまり感じなかったそれが、ここにきて目立ってきた。

 怪物を倒した後の、命の残滓とでも呼べそうな何か。


 最初は、放っておくと幽霊、スピリットの類になるのかなと思っていたそれは、別の物だった。

 僕の持つ剣や指輪、カレジアの持つ剣、ラヴィのはめている指輪。

 それぞれに、吸い込まれるようにして消えていく。


 結果として、徐々に自分たちが変わっていくのを感じるのだ。

 これが、探索者が天塔に登り続け、強くなっていく理由。


「一歩ずつ、前に!」


 感じるのは高揚感、少しずつ、目標に近づいているという実感。

 そして同時に味わうのは、天塔の怖さだった。


 僕の相手をしている1匹のオーク、それごとなぎ倒すように、より大きなオークがこん棒を振り回してきた。

 オークに当たったことで、向きが少し変わって受け損ねるところだった。


「くうう! まだっ!」


 声に出すことで、強がってみるけど……怖い物は怖い。

 ウルフ系の吠える声もそうだけど、こういう人型の呼吸音自体、不気味だ。

 ふごふご言ってさ、匂いもあるしね。


「吹き飛べぇ!」


 馬鹿みたいに大きく開いた口元に、火球を小さくして撃ち込んだ。

 同時に離れれば、通路を爆炎が染め上げる。

 登り始めたころと比べれば、僕たちはとても強くなった。それは間違いない。


「マスター! ご無事ですか!」


「焼けたにおいだけはいいのよね、まったく」


「ありがとう、2人とも」


 いつものように僕の左右に集まり、心配してくれるカレジアとラヴィ。

 2人の優しい妖精のためにも、僕はもっと強くなりたい。


 そして、そのうちに村を解放して……そこで3人で平和に暮らせたらいいなと思う。

 出来ることなら、そこには両親もいてほしい。


 息を整えてる間に、そんなことを考えながら武器を構えなおす。


「怪物たちは、どこで武具を手に入れてるんだろうねえ? 最初から持ってるのかな?」


「どこかに怪物の里とかあるんでしょうか?」


 ふと気になったことを口にしてみるけれど、答えは誰も知らない。

 ラヴィに、また変なことを言って―なんて言われながら、続けての怪物の迎撃。

 今度は、大蛇たちだった。


「巻き付かれたら危なそう! って」


 自分に言い聞かせるように叫んだところで、目の前で大蛇たちは天塔の罠を踏んだようだった。

 1匹は飛び出したトゲに刺され、1匹は穴に落ちた。

 抜け出るようにしてこちらに来た1匹は、ラヴィの炎で焼かれることになる。


「一歩間違えれば、私たちがああなってたわね」


「罠の探知とか、出来ない物でしょうか?」


「強い人たちは、結構回避してるっぽいよね……」


 また1つ、勉強しないといけないことが増えた気がする。

 魔力探知と同じく、覚えられるスキルの類だといいんだけどねえ。


 気が付けば、結構な時間を天塔で過ごしていることに気が付く。

 前よりは長く、多く。それでいて無理をせず。

 強くなり続けて、生き残るために必要なその決まりを守らなければいけない。


 素材や魔晶を回収し、外に出ることにした。


「わー! 真っ白ですよ、マスター!」


「埋もれたら出てこれなさそうだわ……」


「まったくだね。寒いでしょ、戻るといいよ」


 外に出た僕たちの目に飛び込んできたのは、かなり降り積もった雪、そして白くなった町。

 畑は大変そうだなと感じながら、2人の召喚を解除し、家に向かう僕だった。


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