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BFT-023「一つ上へ」


「そうだ、出来るだけ背後に隙を作らない。見える相手を魔力で確認するぐらいなら、後ろを気にかけろ!」


「は、はいっ!」


 念願かなって到達した12層。いざ探索を!と言いたいところだけど、これがなかなか怖い。

 事前に聞いていたように、色んな怪物がごちゃ混ぜにやってくるはずだ。

 どれか1種類だったこれまでとは、何もかもが違う……はず。


 はずはずばかりの気持ちを抱えたまま進んだ12層は、驚きの一言だった。


「なんでっ! 塔の中にこんな光景があるのよっ!」


「上もまるで、外みたいに高いですよっ!?」


 そう。12層に上がってすぐは、今までのような洞窟や建物っぽい壁があった。

 少し歩いた先で開けたなと思ったら、草木があり、林があったのだ。

 さすがに上には光る太陽が、とはならないけど随分と高く感じる。


 驚いて、大事になる前にと一度戻った僕たちは、ギルドに依頼を出した。

 内容は簡単。12層のことを教えてくれる人の募集。

 報酬は、一定の金額のほかに実際の討伐報酬のいくらか。


「ここで、こんなに驚いてたらまだまだ。もう少し上にはよ、川があるんだぜ、川が」


「水源は……不明なんですね、わかります」


 僕の依頼を受けてくれて、こうしてついてきてくれているのはカインさん。

 手斧と、両手斧を使い分けるタイプで、鍛えられているけどそこまでもりもりっていう感じじゃない。


 相棒の妖精はさらりと腰まで伸びる緑色の髪で、弓を使うみたい。

 言葉少なに、周囲を警戒し続けている。


「3人は戦力としては十分だな。このまま先でもやっていけるだろうさ。防具は揃えた方がいいだろう。何より、ちゃんと遠距離の攻撃手段があるのがいい」


「それはどういう……鳴き声? 上っ!」


 外でも聞いたことがあるような鳴き声が聞こえたのをきっかけに、ラヴィが上空へと両手を向ける。

 手のひらから産まれる小さな火球、それが複数。

 近づいてきた空飛ぶ何か。たぶん鳥型の怪物……に火球が襲い掛かり、避けたところで爆発した。


「任意で爆発できる新魔法、どんなものよ!」


「残りは私がっ!」


 ぎりぎり生き残った残りには、カレジアの投げたナイフが襲い掛かる。

 ただの投げナイフじゃなく、魔力が小さく渦巻いてるのが見える。

 10羽ほどは見えた相手は、なんとか迎撃できたようだった。


「俺も最初は1人でよ? 一緒に来れるまではそりゃあまあ、大変だったよ」


「あれば便利ぐらいに思っていましたけど、こんな広い場所なら……なるほど」


 単に先手を打てるだけとどこか思っていた考えが、打ち砕かれた。

 確かに、前後だけでなく上も気を付けないといけないのであれば、上層には妖精必須と言われるわけだ。


 案内による探索を再開すると、出てくる出てくる。たくさんの怪物たち。

 コボルトやゴブリンみたいな相手も出てくるけれど、他にもグレイウルフや……って。


「11層までの相手がいっぺんに出てくる?」


「でも、動きはほとんど一緒ですよ」


「対処は出来る……わよね」


 1つ1つは、馴染のある相手だ。

 問題ないとは言わないけれど、なんとかなる。

 重要なのは、種族が違うはずの怪物たちが、時にお互いにわかっているかのような動きを取るのだ。


「俺もそうだが、上の連中は天塔に意思があるんじゃないか、あるいは誰か見張ってる奴がいるって考えてる。まあ、ある程度余裕がないとそんなことを考えもしないんだけどな」


「だからこその怪物の連携と、この前みたいな騒動ですか」


 この前の天塔から怪物があふれた事件。

 実は、初めてではないらしいのだ。

 これまでに、何度かあったらしい。


(だからあんなにみんな動いてたんだ……)


 たぶん、ある程度強くなってギルドでも認められると、そういう緊急時の対応なんかも教えてもらえるんだと思う。

 そうでないうちは、足手まといになりやすいから知らされていないだけ。


 今さら、ギルドから褒められもしたし、怒られもした理由が分かった。

 勇気と無謀は違うんだと、言ってくれてるわけだ。


「ま、稼ぐ分には色々稼げていい感じだよ。同じ階層ばかりだと、だぶついたときに儲けがすぐに下がっちまう」


「あははは……」


 ついこの間、自分達もそれをやらかしたところなのでごまかすしかない。

 さすがに、毎日たくさん持ち込んだことでようやくというべきか、光る石も値段が落ち着いてきたのだ。

 討伐よりも、だったのが同じかそれ以下ぐらいになったことで熱狂は収まったのだった。


 その後は、助言もあり順調に進む。

 結局最後まで、カインさんたちが手を出すことが無かったのは、自信にしていいと思う僕だった。


 ようやくというべきか、長い長い階段が現れた時には、逆にこの不思議な場所もひとまず終わりかと思ったりもした。


「13層のポータルも、上がってすぐにある。まあ、色んな奴を相手にするのはそっちが本番さ。12層は予告、予行演習みたいなもんだ」


「ありがとうございます。今度は逆に11層に向かってみますよ」


 階段に罠はないそうで、ここで案内は終わり、と宣言された。

 感謝を込めて握手をしている僕たちの後ろでは……。


「まだ小さき同胞も、健闘を祈る」


「先輩もお気をつけて!」


「またどこかでご一緒しましょ」


 どうやら、こちらはこちらで仲良くなってるらしい。

 そういえば、妖精たちって呼び出される前はどこにいるんだろう?

 妖精だけの世界とか、あるんだろうか?


(もし、そうだとするとこの剣や指輪みたいなのは、世界をまたぐ扉なのかな?)


 まだ、知らないことの方が多すぎる。


 そのことを突然感じながら、カインさんらと一緒に階段を上る。

 そうして見えて来た13層。

 すぐに見つかったポータルに駆け寄り、地上へ。


「雪だ……」


 暗い空からは、白い季節の知らせが舞い降りていた。


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