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BFT-022「見える頂と、届く頂」



 天塔の周囲にある空き地、林、森。

 そう全てが今、戦場となっていた。


 馴染みのあるゴブリンやコボルトが隙間を埋めるようにして、ほとんどを見たことがない相手が占めていた。

 話としては知っている相手、オークやオーガ、あるいはゴーレムなんていう動く石像めいた物までいる。


 まれに、怪物がうろついていることで有名な天塔周囲だけども、それだって極々弱い物だ。

 それこそ、駆け出しでも倒せるぐらいのゴブリンぐらいなもの。


「魔力……斬っ! これで斬り切れない!?」


「マスター!」


 緑色の肌が全身筋肉なんじゃないかっていう、恐らくはオーク。

 僕よりもかなり背が高い相手が、怪我をした腕をかばうことなく残りの腕でこん棒を振り回してくる。

 とっさにカレジアが僕を引っ張ってくれたおかげで、ぎりぎりのところでの回避となった。


「こっちにこないでったら!」


 放たれたラヴィの火球が、オークの怪我部分に直撃し、燃え広がる。

 ようやくというべきか、それでオークは叫びをあげ、その場で転がり始める。

 その動きに、周囲の小さいゴブリンやコボルトが巻き込まれているのがもう、異常だ。


「主様、限界があるわよ!?」


「わかってる!」


 かといって、町に逃げ込むわけにもいかない。

 町には、戦えない人も多くいるし、何より戦いにくくなってしまう。

 魔法でもなんでも、遠慮しないで戦えるこっち側のほうがまだましだ。


 例え、相手の戦力の底がわからない状態であっても、だ。


「全部を倒すのは無理だけど、足止めだけはしないと……」


「その心意気、十分だよ少年」


 属性攻撃も使うべきか、そう考え始めた時、待ち望んだ声が聞こえた。

 振り返る前に、前方の怪物たちが火炎に飲まれる。


 ラヴィのそれとは、かなりの違いを感じる力。

 彼女自身、それを痛感してるんじゃないだろうか?


「フレアさん……」


「前に出るぞ。怪物どもを押し返す!」


 フレアさんを先頭に、炎竜の牙が怪物たちへと襲い掛かった。

 他の場所でも、声が上がっているから強いパーティーたちがようやく合流できたんだと思う。

 天塔の中は、そこまでおかしくなかったのか、それとも影響は出ていたのか……。


 一気に、僕たちの周囲から熱気が遠ざかった。

 近くに倒れたままの、もう動かないオークやコボルトたちの死体だけが、語っている。

 ここで、命のやり取りがあったことを。


 それが自分から、遠ざかっていることを。


「マスター、行きましょう」


「ええ、主様。私たちは、強くなるんだから」


「そうだね。うん、そうだ」


 何を、ぼんやりしていたんだろうか?

 どこかでほっとして、危険が遠ざかっていったことに安心した自分がいた。

 それ自体は間違ってるとは言わない、言わないけど、僕の目指している僕じゃあない。


 気を取り直して、熱気へと走り始める。


「細かいのは片付けます!」


「そうか、生き残れよ!」


 顔も良く知らない先輩探索者たち。

 その間にすべり込んで、僕たちが相手に出来そうな怪物を確実に狙う。

 今日ばかりは、カレジアやラヴィもその力を隠さない。

 それに、彼女たち以外にも何名か、大人サイズの妖精が飛んでいたのだ。


(あれが、カレジアたち以外の空飛ぶ存在)


 これだけの騒動で、数えるだけしかいない。

 そのことが、2人の希少性を証明しているようだった。


 普段なら、魔晶の回収もするところを、今はただ倒すのみ。

 そうして、天塔の大きな、空を貫く姿が見えてくるところまで怪物を押し込むことに成功した。

 身を隠す物が無くなると、お互いに総力戦という感じだ。


「マスター! あっちから来ます!」


「足が速いわよ、あいつら!」


 どこからか、グレイウルフにも似た、狼型の怪物が集団で現れた。

 新しく天塔から落ちて来たんだろうか?


 ほとんどは周囲の探索者に襲い掛かっていたけど、数匹の塊が向かう先は……町!


 強さもわからない相手を前に、僕は咄嗟に走り込んでいた。

 すぐ上空を、2人も追いかけて来てくれる。


「最大火力で決める!」


 走りながら、指輪を剣の石にくっつけ、何度も練習したように剣先へと走らせる。

 何人かの探索者が同様に、こちらに駆け寄ってこようとするのが見える。


 ただ、間に合うのは恐らく僕たちだけだった。


「白光の煌めき!」


 ぐっと、自分の中の魔力が持っていかれる感触と共に、剣から光の線が伸びる。

 それは先頭を走る白い狼型の怪物たちにぶつかり、両断は出来ずとも大きく食い込むことに成功した。

 悲鳴を上げ、倒れ込む何匹か。


「続きます!」


「私たちだって!」


 契約主である僕の力に変化があったからか、カレジアとラビィも属性っぽい何かが出来るようになっていた。

 輝くナイフが何本も放たれ、光の槍としかいいようのない魔法が撃ちだされ……残りの相手に叩きこまれる。


「なんとかなった……かな?」


 続けてはやってこない怪物たちを警戒しながら、天塔へと視線を向ける。

 探索者たちが歩いてはいるけれど、戦い自体はほとんど終わったようだ。


 体を休めながら天塔へ向かうと、勝利の声を上げる探索者たちの姿が見えた。

 見るからに強そうな武具と、妖精を従えている探索者たち。

 彼らや彼女たちを見ていると、ソロでいられるうちはまだまだなのかな?と思う自分もいる。


 例え、より上層で安全に稼ぐために組んでいるのだとしても、ふとそう思ってしまうのだ。


「主様、焦らずいきましょ」


「そうですよ。私たちは、まだ強くなれます」


「ありがとう、2人とも」


 どうやら、わかりやすく顔に出ていたらしい。

 左右から慰められて、もやっとした気持ちはどこかに引っ込んだのを感じる。


 特にポーションを使ったわけでもなく、装備自体は消耗していないのを確かめた僕は、家に戻った。

 こういうとき、素材は分配するのかとか、聞いたことがないからね。

 ないならないで、いいかなと思ったのだ。


 結局、数日後にはギルドで、そのことでちょっと怒られたりしたのだけど……それもいい思い出である。



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