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BFT-021「零れ落ちる何か」


 なんだか、久しぶりに感じるグレイウルフたちのいる4層。

 決して油断できる相手ではないのだけど、選んだのはこの場所だった。


「どう? 何か感じる?」


「うーん。主様の方に、いつもと違う何かがあるのは感じるわね」


「はい、私もです。なんていうんでしょう、ご飯はどれから食べる?って聞かれてるような」


 ぼんやりした感じらしいラヴィに対し、不思議な答えのカレジア。

 と、カレジアの答えにピンとくるものがあった。


 妖精は、契約者の魔力を使って活動する。

 普通は、ずっと出しっぱなしは出来ないとも聞いていた。


 僕の場合は、ずっと出していても大丈夫な環境だけど、今は探索時と、必要な時だけにしている。

 空を飛べるからと、軍人とかが来ても面倒だからね。

 っと、それはともかくとして、だ。


「この属性石に、魔力が込められるのは間違いない。そこから先をどうするか……」


 パッと思いつくのは、対応する属性の魔法が使えるようになったり、攻撃に属性を帯びる特殊な能力だ。

 確か、そういう武具もあったはず。かなり高額だけどね。


 炎竜の牙であるフレアさんも、確かあたかも竜のブレスのように炎を産み出す武器を持っていたはずだ。


「これがそこまでの物になるとは思えないけど、何かありそう」


 何匹かのグレイウルフは襲い掛かって来たけれど、それ以降は遠巻きにこちらを見るのみだ。

 天塔の怪物は、外にいるのとは違うはずだけど……僕たちが強くなったんだろうか?


 でも、確かめるには襲われないというのは不都合だ。

 敢えて、盾を仕舞い込み、カレジアたちにも武装は最小限にしてもらった。


 そこまでしてようやく、グレイウルフたちに動きがあった。

 構えつつ、迎え撃とうとする僕が何故か思い出したのは、遠い日の父との会話だった。


(農具をただの道具と思うな、自分の腕の延長線だと思え……)


 使う道具の先まで、気を使えということだと思う。

 僕も、手にしている長剣に意識を向ける。

 カレジアの宿っていた、特別な剣。


 添えている左手の指に光る指輪。

 これもラヴィの宿っていた、大事な指輪。


 剣と指輪と、僕。そして新たに加わった……属性石。

 ピキリと、胸の中で何かがひび割れる音がした。


「マスター?」


 カレジアの声が、何故か遠くに聞こえた。

 なんだかぼんやりしたままに、指輪を属性石へとくっつける。

 そのまま魔力を籠めると、互いに光り始める指輪と属性石。


 グレイウルフが近づいてくるのを感じながらも、指輪を剣先の方へと滑らせる。

 同時に、剣を研ぐかのように手前に引くことで指輪は一気に剣先までたどり着いた。


 後に残るのは、まるで光で出来たかのようにまばゆく輝く、長剣だった。


「白光の……煌めき!」


 胸の内から湧きあがった言葉を口にし、剣を振り抜く。

 まばゆい光が目に残像を残しつつ、ほとんど抵抗感なく振り抜くことができた。

 結果として、襲い掛かってきたグレイウルフ2頭は、悲鳴を上げる間もなく、両断された。


 他でもない、僕自身の手によって。


「……あれ?」


「すごい、すごいわ。さすが、主様!」


「今の、魔力の刃で切るのとは違いましたよね!」


 自分でしたことがいまいちわからない僕に比べ、妖精である2人にはすごさが感じられたらしい。

 まるで自分の事のように喜び、僕の顔に飛びついてくる2人。

 そのこと自体は嬉しく思いつつ、今の光景が不思議でならなかった。


 今、自分は……属性の力で斬った?

 そんな単純な話でいいのだろうか? よくわからない。


 ただ1つ言えるのは……。


「なんだか、すごい疲れる。魔力がごっそり減ったような気がするんだよね」


 そう。なぜか魔法を延々使っていた時のような疲労感がすごいのだ。

 幸いにもというべきか、僕の持っているスキルのおかげで、回復も早いとは思う。

 現に、こうしてるだけで確実に回復してるのがわかるからね。


「マスター、今後も属性石を探して見ましょう。私の剣が何故、そういうことができるかはわかりませんけど……穴はまだあります」


「ええ、そうね。さっきの動きからすると、私の指環も必要みたいだし……特訓、そして探索ね!」


 じわじわと、現状と2人の言葉が染み入ってくる。

 つまり、僕は、僕たちはもっと強くなれる、ということだ。


 今後は、もっと厄介な怪物も増えてくるだろう。

 ただ剣で切り付けただけじゃ、魔法を撃っただけじゃ駄目な相手も出てくるだろう。

 でも、そんな相手への切り札になりそうな力。


 そのことを、ぐっと拳を握りしめることで実感した。

 まずは限界を見極めるために、とさらに階層を下げることにした。


 威力の確認じゃなく、使い勝手の確認とかそういうのだね。

 そうして、下層であるゴブリンたちを相手に確かめた結果は……。


「連続なら3、4回。休み休みならそれなりに……か。十分だね」


「慎重に、でもいざという時には大胆に、攻めていきましょう!」


「目指せ、12層突破ね!」


 笑顔で2人に微笑み、まずは町に戻って明日からはどんどん天塔に挑もうと決めた。



 そして季節が進み、冬を越す準備をしていかないといけないなと誰もが思う頃。

 僕たちは10層、そして11層に挑んでいた。


 もうすぐ、目標の12層へと挑めるかなと考え始めていた時だ。


 3本ある天塔のうち、真ん中に位置する天塔。

 僕たちはまだ挑めていないそこから……その日、怪物が零れ落ちて来た。


 たまたま天塔の周囲にいた探索者、そしてその中には僕たちもいて……。

 まだ中には、多くの探索者が入ったままだというのに。


「ここで食い止める! でないと町に被害が出るぞ!」


 名前を余り知らない探索者たちの叫ぶ通りに、急な防衛戦が始まったのだった。



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