BFT-020「穴があれば入りたい」
天塔では時折、特定の階層に人気が集中することがあるらしい。
新しい怪物、新しい素材、そんな具合だ。
でも、採りようがなくてどうしようもない場合もある。
相手が強かったり、厄介だったり。
後は、入手が大変だったり。
「この場合は、一番最後なのかな?」
「天塔にはしごを持ち込んでましたよね、さっきの人」
「穴だらけになったりしないのかしらねえ……」
何かというと、先日僕たちが持ち帰った光る石のことだ。
同じような物が、色んな階層に存在したらしい。
空を飛べなくても、取れる位置にあることもあるようで……。
「今は高く買ってもらえるからと、先にとった物勝ちって争い、かあ」
前々から不思議ではあったけど、天塔の内部は最低限の明るさがある。
松明があったほうがいい場面も多いけど、いらないぐらい明るい場所も多いのだ。
その原因の1つが、今回僕たちが持ち帰るのに成功した石らしい。
プロミ婆ちゃんの鑑定の結果、どう見ても天然ものじゃないけど、天然としか言えない特殊な魔晶、とのこと。
仮説としては、天塔が生み出した照明器具なんだろうということだった。
怪物を産み出し、素材を人間が入手する。
さらに、探索される場所の整備?まで行う。
天塔とは、と考えさせられる事実だった。
「魔力を込めると、その分光ってるってことでいろんな場所が買い取ってたらしいわよ」
「おかげでご飯が豪華です!」
そう、下手にコボルトを倒すよりもお金になるわけで……。
僕たちは、9層を中心に天塔の内部をうろついていた。
コボルトを倒しては武具を回収し、適当に明るい部分に飛んでもらい、掘り起こす。
最初は、穴ぼこになってくと心配したのだけど、驚くべきことが起きた。
確かに掘り起こしてから、しばらくはそこは穴になった。
なったのだけど、次の日には穴はふさがり、別の場所が光っているのだ。
結果として……。
「ブライトさん、妖精を連れてどこかの鉱山にでも潜ったほうが稼げるんじゃないですか?」
「あはは……遠慮しておきます」
買取体制の整ったギルドにいくつもの石を売りに行くと、こんなことを言われてしまう始末だった。
確かに、ここ1週間は稼ぎを中心にしてたのは間違いない。
おかげで、かなりの儲けにはなったんだけどね。
それに、ずっと同じ場所をぐるぐるしてるせいか、宝箱にも何回も遭遇した。
ほとんどは普通に使えるポーションや、換金するものだったんだけど。
「まだあの属性石、使う物は決めてないんですよね?」
「はい。一回はめ込むともう外せない予感があったので」
ギルドの受付なお姉さんに言われ、持ち歩いている袋を上から撫でる。
普段は、宝石なんかを入れる小さな袋。
その中には、白色の宝石のような石が1つ、入っているはずだ。
宝箱から出て来た、宝石じゃない特別な石。
魔晶が属性を帯びたという説明だったけど、それだけじゃなさそう。
一見すると、照明に使える件の魔晶にも似てるのだけど……どうも違う。
「魔晶は、魔力が何らかの理由で結晶化したものだと言われています。だから、あれから魔力が取り出せるんですけど。その中には、特別力の強い奴があります。大きさはさまざまですが、それも小さいながらもれっきとした属性石ですからね」
「ギルドからしても売るより、何かに使った方が力になるんじゃないかと助言するぐらいですから、よくわかってますよ」
ちなみに、先輩探索者たちは、元々値段の高い武具なんかに使うらしい。
そうすることで、その属性を帯びた武具になるんだとか。
でも僕の場合、今の長剣以外まともに武器を持ってないし、属性が偏るのも問題である。
だからこそ、今のところ保留、なのだ。
「ブライトさんの剣、穴がいくつか開いてますからね。案外、複数の属性石をはめ込めるかもしれませんよ」
それで使い分けができるのは、妖精ぐらいな物ですけどなんて言われてしまった。
こんなことを言われたら、試すのも怖くなってしまう。
予想通り、1つの属性に決まってしまったなら、他の武器も用意しないといけないからだ。
結局、その日はそれ以上外で稼ぐことはせず、家に戻ることにする。
途中、何人かの探索者から、例の光る石に関して質問を受けたりもした。
こちらとしては、何度も同じように飛べないと取れない場所もあるし、登るぐらいしかないんじゃ?というしかない。
「まったく、2人様様だね」
「えへへー」
「でも、気を付けないといけないわね。変なやっかみも来ないとも限らないし」
どちらかというと、浮かれているカレジアに比べてラヴィは冷静だった。
こちらをまだ低層の探索者と侮り、脅しをかけてくる人が出てこないとも言えない。
町中だからと、油断しきってては駄目そうだなと考えると、少し悲しい。
帰り道で買い込んだ食材で、自炊をするのが最近の流れだ。
3人で夕食を作り、食べ、そして眠い頃に眠る。
村で畑仕事をしてるときには、考えることもなかった生活がそこにはあった。
「これ、どんな力があるんだろうなあ」
「私たちだと、魔法を覚えたりするのかしらね?」
ベッドに横になりながら、属性石をいじっているとラヴィが浮きながら両手でしっかりと属性石を掴む。
彼女が持っていると、かなり大きく見えるから不思議だ。
ちなみに、ベッドの脇には装備一式。
いつでも飛び出せるようにってことでね。
「となると、魔力を込めるとか、でしょうか」
「やってみようか。爆発はしないだろうし……」
ベッドに腰かけ、ラヴィの方を見ていたカレジアに頷きつつ、指先を属性石に伸ばす。
そして、そっと魔力を込めると……。
「ちょっと!? 急に重く! キャッ!」
「「あっ!」」
突然重くなったらしく、慌てるラヴィ。
彼女が、手を放してしまった。
落ちる属性石、その先には……主武装の長剣。
何かが運命づけられたように、ちょうど柄付近にある穴の1つに……属性石ははまり込んでしまった。
「主様、どうしよう。これ、取れないわ」
「魔力的には、完全にくっついてますね、これ」
「明日、1層とかで試し切りしようかあ……」
最近は、順調と呼べる天塔攻略。
そこに、問題になりそうなことが起きてしまった。