BFT-019「偶然の産物」
「前方3、後方2!」
「一気に前のを片付けるよっ!」
「投げますっ!」
カレジアの手から、素早く投擲された刃。
魔力で作られたナイフが、角から出て来たばかりのコボルトたちに襲い掛かる。
悲鳴を上げる相手に一気に踏み込み、突き出した僕の長剣がその命を奪う。
すぐ横では、両手に炎をまとわせたラヴィの一撃で顔を焦げ付かせながら吹き飛ぶ別のコボルト。
互いの死角をなくすように合流し、警戒を行う。
剥ぎ取りは後にすることにして、後方からの奇襲に対応するためだ。
もっとも、来るのがわかってるならもう奇襲じゃ無いんじゃないかなとは思うけども……。
後方からやってきた残りのコボルトも、同じように僕たちの糧となった。
「探索者の多くが覚えることになるっていうスキル、かあ」
「便利ですね。私たちにも適用されるなんて」
「やっぱり、魔力を貰ってるからどこかつながってるのかしらね?」
手に入れた新たな力、新スキルはわかりやすい物だった。
魔力探知、そのままずばりだ。
使えば使うほど、色んなものを感じられるらしい。
今はまだ、こうして襲撃を早めに察知できるぐらいだ。
命がかかった天塔と考えれば、十分な能力ではある。
「あ、大きな扉みっけ。主様、あの中かしら?」
「たぶんね。コボルト……キング、か。王様って意味らしいね。どんな相手だろう」
王様ってぐらいだし、たくさんの部下がいて、一斉に弓とか撃って来たり……ないかな?
息を整えながら、新しく買ったお鍋のフタぐらいの丸盾を左手に構える。
天塔で手に入る装備らしく、鉄じゃあないらしいけど使おうと思う人が少ないらしい。
(実際、小さいよなあ)
僕の顔より少し大きいぐらいしかないから、だったら先に倒す!ってなるのかもしれない。
そんなことを思いながら、ゆっくりと9層、ボス部屋の扉を開き……。
「いきなり!?」
中は明るく、ウルフリーダーとかがいるような空間が多分、広がっている。
たぶんというのは……すぐ目の前に、ジャンプしたらしい大きなコボルトが飛び掛かって来てるところだったからだ。
「炎よ!」
咄嗟に盾を前に突き出し、盾の中央を発動場所として魔法を放った。
2人と練習した、新しい魔法の使い方だ。
剣先にというのはやったことがあるけれど、盾は練習するまで初めてのことだった。
幸い、思った通りに魔法は発動してコボルトキングらしき相手を大きく吹き飛ばすことに成功した。
成功したけれど……ダメージになったような感じがない。
「ボスが1、コボルトが……10ぐらい? たくさんいるのは予想通りだったけど……」
「マスター、ここは」
「私たちが周りを相手するわ!」
返事の代わりに、一気にコボルトキングへと駆けだす。
2人の事は信用し、信頼している。
2人がやるというのなら、やってくれるはずだと。
「僕は僕のやれることを! 勝負してもらう!」
コボルトキングの、ぎらついた瞳が僕を睨む。
周囲への合図なのか、一吠えしてこちらに向かって来た。
手にするのは、とげのついた打撃杖。
コボルトサイズとはいえ、やや大きい相手の物なら、十分な威力だろう。
「だから、当たるわけにはいかないっ」
幸いにも、ウルフリーダーがいた場所のように、あちこちに障害物や地形が邪魔ということが無かった。
コボルトは言うなれば人間と同じで、そういうのがあると動きにくいからかもね。
僕と妖精2人の間ぐらいのコボルトキング。
思ったよりも早く振り抜いてくる相手の攻撃に、余力を意識して丸盾をぶつける。
受け止めるのではなく、受け流す!
そうして見えた隙は、切りかかるよりも……蹴り飛ばす方が早かった。
ちゃんと、金属製の膝当てと、丈夫な靴。
それらの生み出す蹴りの威力は、なかなかのはずだ。
獣のように、悲鳴を上げて吹き飛ぶコボルトキング。
その姿を見て、自分たちがやや慎重すぎるぐらいに鍛えていたことを悟る。
油断をしないように、注意する余力があるという事実もそれを後押しした。
数歩踏み込み、人間がそうするように武装している相手をしっかり見る。
まだ動く、倒れていない姿に視線に力を込めた。
「様子見はしない。決めるっ……魔力、斬っ!」
体の中にある魔力の源へ、力をひねり出すように意識する。
実際にそんなのがあるかはわからないけれど、全身に、そして2人へと魔力を伝えるのに必要なことだ。
生み出される魔力の勢いそのままに、受け止める選択をしたコボルトキングへと剣を繰り出す。
結果は、あっさりとした勝利。
相手の打撃杖を、左肩付近から一気に両断した。
終わり際の悲鳴を上げるコボルトキング。
その牙の1本が、魔晶になっていることを確認できた。
ふと、周囲で戦いの音が続いていることがようやく耳に届いた。
集中しすぎて、気にならなかったらしい。
「カレジア、ラヴィ!」
「はーい、これで終わりよっ!」
「もらいます!」
思ったよりもそばにいた2人。
ラヴィの火の槍がコボルトを貫き、飛び込んだカレジアの剣が別のコボルトの額に刺さっていた。
周囲を見渡せば、動いているのは僕たちだけとなっていた。
「勝った、かな?」
「楽勝ね。ゆっくりしすぎたかしら?」
僕が感じたような気持ちを、ラヴィも抱いたらしい。
言葉には出てこないけど、きっとカレジアも。
だから、自分に言い聞かせるように首を振る。
「ううん。10回やって6回、7回は勝てる、だと危ない。9回、それこそ10回負けない、じゃないとね。僕たちの命は1つだ」
必要な物を回収、剥ぎ取りながらそんなことを言う。
コボルトキングの魔晶はなかなかの透明度で大きさだった。
毛皮なんかも、コボルトとは少し違う感じがある。
「苦労するより、楽な方がいい気はします。ね、カレジア」
「ま、それもそうよね。あっ! 何か埋まってる!」
天井を見上げたラヴィが飛び上がり、続けてカレジアも。
2人が天井の何かにくっつき、持ってきたのは……。
「光る……石?」
「少し暗くなったし、天塔の照明、なのかしら? でも、取れるもんなの?」
「こうしてると綺麗です」
そう、2人が取ってきたのは、自分でか、何かの光でかはわからないけど白く光る石。
色々角度を変えてみるけど、どうもよくわからない。
ひとまず、布袋に入れて持ち帰ることにする。
10層へと上がり、探索もそこそこに見つけたポータルで地上へ。
ギルドに各種報告を行い、買い取ってもらった足でプロミ婆ちゃんの店へ。
余った素材とかを買い取ってもらうのだ。
今日も、婆ちゃんのお店は開いていた。
休み……とってるのかなあ?