BFT-001「最弱×最弱はあきらめる理由にはならない」
結論から言えば、僕たちは生き残った。
ただし、疲労困憊のひどい姿となって。
「やった、地上だ!」
「うう、不甲斐ない結果で縮こまる思いです」
「生き残ったからいいじゃない、ね? 主様もそう思うでしょ?」
天塔を出てすぐ。いくつもある休憩所に座り込む。
この天塔は、3本の中でも脅威度合いは低い。と言ってもそれは強くなったらの話。
別の休憩所でも、同じようにぼろぼろの探索者、あるいはこれから向かう人たちがいる。
そんな彼らからの視線を浴びながら、生き残った事実と、現状をゆっくりとかみしめる。
「命があれば次がある。うん、僕もそう思うよ。これからよろしくね」
「はい、マスター。この心身、一片まで捧げます」
「カレジアはお堅いわねえ。あ、私も同じだけど」
大物、ゴブリンリーダーとの戦いはなんとか勝利に終わった。
でも他にもゴブリンがいたから、逃げながらってことで戦利品は限られた。
ゴブリンリーダーの戦利品、結晶化した右腕だけはなんとか持ち帰れたのが幸い、かな?
「さ、ギルドに行って2人の登録と、換金をしようか」
全身疲労感でいっぱいだけど、ずっとこうしてるわけにもいかない。
相変わらずの視線を感じつつ、2人を引き連れて町中へ。
うん、気にしないつもりだけど……腰にも満たない小さい子2人を引き連れてってすごい絵だな。
妖精なのは間違いないと思うけど……小さいなあ。
カレジアが金髪、ラヴィが銀髪で、体つきなんかは2人ともほぼ一緒だ。
やや落ち着いた様子のカレジアに、元気のいいラヴィという違いがあるからか、顔つきは違うような……でもほとんど同じだな。
まるで、双子のようだ。
(それに、羽根が体のわりに大きいような?)
ちらりと見た2人の羽根は、僕にすると片手ほどはある。
つまり、体と同じぐらいの大きさが羽根ってこと。
このあたりも、ギルドで聞けばわかるかな?
そう思いつつ2人のことを告げた結果、ギルド職員さんの表情が何故か曇った。
「妖精と契約できた……そのことはおめでとうと告げるべきなのですけど」
「何か、問題が? あ、いきなり2人と契約したのがまずいですか?」
実際、クリスタリアで見かける妖精はほぼ1人だ。
稀に2人連れてる人もいるけど、滅多にいない。
そもそも、町中で妖精を出している人のほうが少ないのはなんでだろうか?
ちなみに2人は小さすぎて見えにくいということで、僕が両手で抱えている。
これだけだと、小さな子供を2人抱えてるようにしか見えないね、うん。
「いえ、そこは大丈夫です。ただその……基本的に、妖精の見た目はその強さに比例するんですよ。高ランクの武具妖精ほど、人間かそれ以上になるんです」
「ちょっと、それって私たちが弱いから小さいっていうこと?」
腕の中で、暴れそうになるラヴィ。それに、カレジアはショックを受けているようだった。
職員さんの顔を見る限り……事実。
「マスター、申し訳ありません」
「カレジアが、2人が謝ることなんてないさ」
これは本心だ。そりゃあ、強い武具、強い妖精のほうが安心感は違うかもしれない。
だからといって、2人を見下す理由にはならない。
ひとまず換金を済ませ、たくさんあるテーブルへと移動する。
その間も、チラチラと視線が集まるのがわかる。
妖精への羨ましいというものではなく、同情っぽいもの。
なるほど、休憩所での視線の理由はこれだったわけだ。
妖精が大して役立ちそうにない姿、新しい妖精と契約するにはすごいお金がかかる。
ご愁傷様って言いたかったわけだ。
(見てろよ、必ずそのうち!)
「主様、まずは契約解除のお金を貯めましょ」
「ええ、そうですね」
僕の決意を他所に、2人はとんでもないことを言い出した。
テーブル上にぺたんと座る2人を見る。
女の子座りの、可愛らしい姿。だというのに表情は硬い。
本気の表情、だから僕はため息1つ……2人の細くて小さい手を指でつまんだ。
「駄目駄目。絶対ダメ。出会いは偶然だけど、これからは偶然じゃない。僕が決めて、2人も決めること。3人で強くなる。そして、他の妖精じゃなくて大丈夫、そう言えるようになろう」
早口で言い切った僕を、2人が見つめ返してくる。
外したかな?なんて思っていると、2人そろって首元に飛び込んできた。
小さいとはいえ、2人そろってだと結構な勢いだ。
顔は見えないけれど、体が震えてるのがわかる。
自分がいらない子だと、不要だと言われてるように思っていたんだろうな。
でもこの構図、あまりよろしくないような気がする。
あ、人形趣味?なんて聞こえて来た。違う、違うんですよ、はい。
本当は、鑑定に行ってランクを確かめたかったけど、ギルド職員さんの言う通りならそこまで高くない。
無駄にお金を使うことは無い……かな?
「2人とも、そろそろ出かけよう。ポーションの補充もしないといけないし」
「あっ、はい!」
「ポーション……そうか、人間はそうやって傷を治すのよね」
小さい子供2人を引き連れるように歩きだしながら、向かう先は天塔周辺の森。
別に買うことも出来るけれど、まだ日は高いし、1本でも節約した方がいい。
そう思って、まずは宿に戻り、探索用の装備から採取用のソレへと切り替え。
宿の主人には、大した説明はいらなかった。
まあ、羽根の生えた小さい人間となれば、妖精以外ありえないからかな?
村にいた時に、小さい子の面倒を見ていた時を思い出しながら、3人で森へ。
さっそくとばかりに、採取を開始した。
薬草自体は、そう珍しい物じゃあない。
時々他の探索者も見かけるけれど、その多くが駆け出しか、僕みたいな立場の人だ。
ある程度以上になれば、外から入ってくるポーションを買うことで十分確保できるから。
「そう言えばラヴィ。妖精は傷をどうやって治すの? っていうか、もう治ってるみたいだけど」
「え? ああ、そのこと? えっと、契約者の魔力よ。ポーションでも治るわ」
サラリと、無視できないことを言われた気がする。
気になってカレジアを見れば、頷かれた。
「そうなんです。余裕がありそうなので、勝手に治させていただきました。駄目でしたか?」
「ううん、そんなことないよ。でもそうかぁ。2人がその……まだ強くないから僕程度の魔力でも足りたのかな?」
まだ魔法が使えないから、大した魔力じゃないと思うけど……。
ラヴィの宿っている指輪からも、特に魔法を使えるようになる感覚がないんだよねえ。
しょんぼりしながら、薬草採取を再開した僕を、なぜか2人は見つめ、互いに視線を絡ませていた。
「その、マスター? マスターは魔力がちゃんとありますよ。あるというのか……減りにくいというのか」
「ええ、契約でつながってるからよくわかるわ。主様は、魔力が何かの殻で覆われてる感じで……契約でそこに穴がつながった感じ? それと、量はまだわからないけど、回復は早いみたい」
「どういうこと? 自慢じゃないけど、強い魔法使いになる素質はないって言われたし、実際魔法を使えてないんだよね」
クリスタリアに来て、適性を調べてもらった時に言われたことだ。
ギルドにしても、稼ぐ探索者になれるかどうかは重要だから嘘は言わないはず。
「そこがわからないのよねえ。そのうちわかるんじゃない? たぶん」
「いい加減だなあ。でも、無いわけじゃないというのは、嬉しいかな」
戦うための手段が増えるのは、いいことだ。
ナイフ1本、石1つでもないとあるとでは話が変わってくる。
上手く僕の中にあるらしい魔力が使えたら……って、もう使ってるか。
「マスター、あれは薬草ですか?」
「え? あっ、珍しい。七色草だ。まだ魔力の質が固定されていない奴だよ。色んなポーションに出来るからこれは売った方が高いね。お手柄だよ、カレジア」
見ている間も色が移り変わっていく不思議な草は、僕と違う視界だから、気が付いただろう場所にあった。
そうだよね、戦い方は色々ある。小さいなら小さいなりにやれることを考えよう。
周囲の警戒をする人が増えるだけでも、かなり違うはずだし、ね。
「主様ー! こっちにも生えてる!」
「ホントに!? よし、頑張って採取だ!」
世界が少しだけ微笑んでくれたのか、それからいくつかの七色草を見つけることができた。
普段採取する薬草も必要な量は確保出来て、3人での生活に少し、明るい色が混じるのを感じる僕だった。