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BFT-016「目の前に潜む危機」



 天塔に挑む探索者は、基本的にソロだ。

 正確には本人だけか、妖精が一緒かということになる。


 これまで、例えばお金の配分で揉めたりしやすいからなんて理由だと思ってたし、そんなようなことを聞かされていた。

 実際、僕が登ってる付近だと何人も一緒だと手元に残るお金はそんなにないことになる。


「間違いじゃないけど、正解でもなかったんだ……」


 でも……偶然、他の2本の天塔のことを調べた時にその情報が目に入った。

 低階層でも、天井の高さや、通路の幅、そういった地形的な物が全然違うんだと。

 まるで、1本目の天塔はソロで出来るだけ頑張ってねと設定がされているかのよう。


 だとしても、おかしいことだらけの場所、それが天塔だ。


「今の場所も、たまにこんな場所どうやってって中身の時がありますよね」


「そもそも、奥行きがおかしいもの」


 そうなのだ。2人の言うように、今登っている天塔ですら、外からは大きい塔でしかない。

 なのに、歩ける距離はかなりの物だ。


 ちなみに、過去何度か王国の軍なんかが、外から侵入できないかを試したらしい。

 結果は、失敗。どんな武器も、どんな魔法も傷1つつかなかったらしい。

 と同時に、中にいた探索者たちが一様に内部の怪物がとんでもないことになった、みたいな報告があったんだって。


「だから、刺激しないことって決まってるそうだよ」


「そうなんですね。だから私とラヴィが飛んでこうとするのを止めたんですね」


「主様が必死になってつかみかかってくるんだもん。びっくりしちゃった」


 そう言われてみれば、その時は何があるかわからないからっていうだけで説明しなかったっけか。

 飛ぶぐらいなら何もないかもしれないけど、何かあったら問題だもんね。


「じゃあ、今日も登ろうか。ソロが登りやすい方にね」


 話を戻すと、探索者は基本的にソロだ。

 でもそれは、僕たちが登ってる天塔、3本の中でも怪物がマシらしいほうの天塔だけだ。

 他の天塔では、1層目からソロではなかなか厳しい強さの怪物が出てくるらしい。


 僕の場合は、2人が成長したらいけるようになるのかな?なんて考えつつ、7層へ。


 戦う相手は子供ぐらいの体格な獣顔の人型、コボルトだ。

 牙や毛皮だけでなく、装備している武具も使いまわせるんだとか。


「燃え尽きなさいっ!」


 相手が見つかってすぐ、ラヴィの魔法が周囲を赤く染め上げる。

 この時、威力自体は重視しないと決めてある。


(火力をあげると、素材が取れなくなるからってのもなんだかなあ)


 稼ぎの面では大事なことなのだけど、それだけ命の危険が増すわけなので悩ましいところだ。

 ひるんだ相手はそのままに、ひるまず突っ込んでくるコボルトを、カレジアと二人で相手する。


 普段通りと言えば普段通りの、3人の戦い。


 僕はずっと変わらず、カレジアの宿っていたであろう長剣を手に、切りかかる。

 気のせいでなければ、少しずつだけど剣の色とかが変わってる気がする。

 最初は、何の特徴もないというと変だけど、どこにでもありそうな剣だった。

 柄の部分に、何かはめれそうなくぼみがあるぐらいだ。


「魔力斬っ!」


「私も続きますっ!」


 魔法も、僕の一撃のようなスキルも、使うほどになじんでいくという。

 だから、今のところは意識して使うようにしている。

 まあ、どうしても素材を綺麗に剥ぎ取るなら、こうしないと相手もなかなか倒れないからね。


 首が落ちた後の、独特の空気を余り吸わないように移動しながら、次の相手を警戒する。

 今回は毛皮はとらず、武器と牙だけにしておくことにした。

 理由ははっきりしないけど、出会った時にはなんだか傷を負っていたからだ。


「探査者の物……にしては荒い傷かな?」


「仲間同士で争ってるんでしょうか?」


 僕はまだ、天塔に出る怪物を全て知ってるわけじゃない。

 だから、中にはお互いに縄張りみたいなものを持っていて、争うようなのもいるかもしれないなと考えた。


 その後は、5体ほど順調にコボルトを倒すことができた。


「え? 宝箱?」


「そういうのも……ありなの? 何でもありね、天塔」


 呆れたように言うラヴィに、言葉を失っているカレジア。

 それも無理はないなと思う。5体目の1体を倒すと、コボルトの死体がいきなり消えてどん、だ。


 無理をしたらカレジアたちなら1人は入れそうな大きさの箱。

 今度は鍵がかかっているっぽい。鍵穴があったからね。

 ちなみに僕には鍵開けの技能も、スキルなんてのもない。

 箱あけの魔法なんてのも聞いたことはないなあ。


「剣で叩いてみる? それか、魔法を撃ちこむ?」


「駄目ですよ、ラヴィはあんまり手加減できないんですから」


「かといって放置もねえ……」


 ふと思い立って、胸元の鍵を挿し込もうとしてみるけど、さすがに合わなかった。

 どうしたものかと考えていると、ラヴィがふわりと浮いて箱の上へ。

 僕が止める間もなく、蓋を掴んで少し浮かび上がった。


 すると、だ。鍵はかかっていなかったようで宝箱が開いて……。


「うわあ!? 何か飛んできた!?」


「大体、マスターみたいな人間が正面にいたら顔ぐらいでしょうか」


 ちょうど離れていたから助かったけど、カレジアの言うように前に座り込んでいたら直撃だった。

 蓋を持ったまま、ラヴィはさすがに青ざめている。

 怒ったほうがいいのかもしれないけど、その必要はなさそうだ。


「主様……私、私!」


「いいんだよ、ラヴィ。無事だった、次がある」


 蓋を持ったまま、じゃなくて恐怖で腕が固まってしまっていたようだった。

 そっとそばにいって、ゆっくりと手をほぐすように離させた。

 なんだか間抜けな音を立てて、宝箱の蓋が閉まる。

 今度は僕が裏側から開けると、今回は何も出てこなかった。


「中身は……宝石っぽい石が少し、か。うーん、どうなのかな」


 鑑定が出来ない以上、外れか値打ち物かはわからない。

 でも、さすがに価値無しではないといいなあってところかな?


「今日は帰ろう」


「でも、主様!」


 涙目で服を掴んでくるラヴィを、片手で持ち上げて胸元に抱き寄せた。

 僕の気持ちを考えたらしいカレジアも飛び上がり、同じ場所に。

 一応警戒はしつつ、じっと3人だけの時間を過ごす。


「今回はラヴィの失敗だったけど、次は僕かもしれないし、カレジアかもしれない。変な気分のまま命を賭けられるほどには……僕たちは強くない。だから、帰ろう」


 もっといい言い方があったかもしれないけど、僕にはこれが精一杯だった。

 はい、と頷いてくれたラヴィをそのままに、ポータルへと駆ける。


 途中、コボルトに見つかったけど振り切ってそのまま外へと飛び出した。

 怪物がポータルから出てこられないのを、今日ほどありがたく思った日はない。


 結果としては、見つかった石はもっと強い怪物から取れるような魔晶だった。

 良い値段にはなったけど、罠の分を考えると手放しでは喜べない物だったのは間違いない。


 戦う以外の力、その必要性を僕たちは感じたのだった。



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