BFT-015「適材適所・後」
花園と、巣の回りを飛ぶミツバチ。
今のカレジアたちを評するなら、こうだ。
プロミ婆ちゃんに教えてもらった場所は、確かに当たりだった。
指定された薬草たち(キノコだけど)は2種類とも見つけることができた。
「でもあんな場所、なかなか登れないよね」
切り立った崖のくぼみなんかに、レースのように貼りついている物、それがゴブリン滑りだ。
それとは別に、木のうろの中にたまにあるのがコボルト酒茸。
特徴を確認する限りは、間違いないと思う。
「いいのかなあ、これで」
「マスター、例えば強い武具で怪物を倒したらズルですか? 空を飛べるという特徴を生かしてるというだけですよ」
「そうそう。適材適所、ってやつよ。主様はそこで怪物が来ないか見張っててよ」
そうなのだ。2つのキノコ集めは、2人が行っている。
人間だったら、落ちないように色々工夫しないといけないような場所へと飛び、そのまま採取。
あるいは、いちいち登るのが大変だろう木の上へも。
現実問題として、僕は2人が集めてきたものを袋に入れつつ周囲を警戒し続けるだけだ。
少しもやもやするけれど……落ち着いて周囲を見渡し、ふと何かがはまったような感じがあった。
「自分が頑張らないとって、無理してたのかな」
ちょっとショックだった。
口では、2人と一緒にとか言いながら、それでも自分が前に前に、と考えていたのだ。
あるいは、人間と妖精としてはそういう物なのかもしれない。
僕は、彼女たちを道具としては見ないと決めたのだから、相応に接する必要があるんじゃないか?
そんなことを、僕の中の僕が教えてくれた
「主様、私たちの事、どう思う?」
「ラヴィ……カレジアも、ありがとう。なんだかすっきりしたよ」
「私たちも嬉しいです。最近の、とにかくもっと強くなろうとするマスター、少し怖かったです」
そっか、心配させてたんだ。
マスター失格……ううん、そうじゃないか。
一緒に、だよね。
再び空を飛ぶ2人を見送り、待っているのも戦いだなと考え直した僕。
そのまま、何気なく首にかけている鍵を服の上から握りこむ。
なんとなく、本当になんとなくだけどこの鍵で開く場所が近くにある気がしてならない。
天塔だとしたら、両親は天塔をかなり上層まで登っていることになる。
(だとしたら、話を聞かないのも不思議なんだよねえ)
疑問は尽きないけれど、ギルドもあまり探索者同士の話をしないのだ。
僕も、何人ぐらいが天塔に潜っているのとかを知らないし……そういう物じゃないかなあ。
もしかしたら、フレアさんたちに聞けばわかるかもしれないけど、それはなんとなく、嫌だ。
自分で見つけて、自分で開く。
そのためには、生き残らないとだめだ。
「カレジア、ラビィ。このぐらいで良いと思う。婆ちゃん用の分を採取したら切り上げよう」
「はーい! 確かに近いのは大体採ったかしらね」
「手がべとべとします……」
帰ったら、2人ともお湯で洗ってあげよう、そう思った。
2人とも小さいけれど、人間の女の子と一緒なんだよね。
うっ、そう考えたらなんだか恥ずかしくなってきたぞ……。
気分でも悪いのかと覗き込んでくる2人を誤魔化しながら、クリスタリアに戻る。
途中、何体かのゴブリンに遭遇したのだけど……なんだか、天塔のほうが強く感じた。
「どういうことだろうねえ」
「うーん、天塔と違って、子供から育つからじゃないかしら? さっきのは、若かったもの」
ラヴィに言われ、はっとなった。
確かに、天塔では怪物の子供、というのが基本的にいないのだ。
みんな、大人だ。
天塔以外の場所だと、恐らく子供から老人まで、様々なんだろう。
中には、天塔のやつより強いのもいるんだと思う。
「そう考えると、天塔ってまるで……人間が外の怪物に勝てるように修行してくれるみたいですね」
カレジアのつぶやきを、否定できない僕がいた。
少し、怖さを感じながらも足を止めずに町へとたどり着く。
まずはプロミ婆ちゃんに、余分に採取した分を……まあ、売りつけにいった。
「上手くやれたみたいだね。これなら……ほれ、持ってきな」
「こんなに? ありがとう!」
予想よりかなり高額になった。どうも、2人が飛べる状態だからこその話らしい。
状態がいってことだね。やっぱり、痛んでない薬草の類は効能も違うんだと思う。
改めて、ギルドへと向かうことにした。
話が長くなった時のことを考えてこの順番だったわけだけど……。
(なんだか、思ったよりあっさりだな)
結果としては、思ったようなギルドからの話はなく、ほぼ事務的に依頼完了の返事をもらい、そのままランク上昇の手続きが始まった。
とはいえ、やることはギルド内部での情報の更新と、身分証みたいなものが発行されるぐらいだった。
「これにちょっと血を垂らしてください。はい、いいですよ。これでブライトさんがEランク探索者であることが登録されました。頑張ってくださいね」
心なしか、受付のお姉さんの表情や声は、最初より優しいというか、そんな感じがした。
認められたのかな、なんて考えるのは甘いだろうか?
「依頼対象も増えるので、よかったら受けてくださいね」
「わかりました! さっそく見てみます」
建物にいた他の探索者の視線がいくつか刺さるのを感じた。
彼らは同じランクなのか、それとも下か、上か……うん、あまり関係ないかな。
僕は、僕に出来ることをちゃんとやっていくだけなのだから。
「マスター、これがやってみたいです!」
「どれどれ……」
代り映えしないように思える毎日。
でも、少しずつの変化が確かにそこにはあるのだ。