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BFT-014「意外な素顔」


「実のところ、君のことが羨ましいんだ」


 最初、その言葉が理解できなかった。


 誰もが認める、上級パーティーのリーダー、フレアさん。

 槍、大剣一通りの武器を使いこなし、多くの怪物を燃やし尽くす炎の使い手。


 それが僕の知るフレアさんであり、周囲の評価も間違ってないはずだ。


「えっと、どういったところが?」


 面と向かって、冗談でしょうということも出来ず、つまらない返事になってしまった。

 ありきたりで、会話の弾ませ方としては何の盛り上がりもないだろう返事。


 だというのに、彼女はよくぞ聞いてくれたとばかりに顔を輝かせる。


「相棒である妖精の可憐さ、小さささ」


「今はこんなだけど、大きくなる予定なんだからっ!」


「ちょっと、カレジア!」


 おかしい、おかしいなあ。

 僕は、魔晶を食べたりする怪物がいないかどうかを確かめに天塔に誘われたはず。


 なのに、なんでこんな話をしてるんだろうか?


(余裕ってことかなあ?)


 実際、今日僕たちと一緒にいるのは、フレアさんと……ずっと黙ったまま付き従っている妖精さん1人だ。

 フレアさんに負けないぐらいの背丈で、スタイルもいい。

 同じように、槍を得意とするらしい。

 背中には、手のひらぐらいの羽根が生えていて……空を飛ぶことは出来ないらしい。


 ただ、圧倒的に強い。

 ウルフリーダーの出るこの階層において、無双と呼ぶのもどうかと思うぐらいの強さだ。


「ああ、もちろんウチの子が小さい方がよかったとかそういう話ではないよ。出来ることなら、そう出来ることなら……今の相棒と、駆け出しのころから一緒に成長出来たらどうなったかなと、考えてしまったんだよ」


「そういうことですか……ええ、日々の成長はとても楽しいです」


 これは本音だ。

 毎日、何かしらの変化がわかると楽しい気分になる。


 あ、少し髪が伸びたななんて思ったりもする。

 言われてみれば、みんなの……最初から高ランクの妖精はほとんど見た目に変化がない。

 力は成長するようだけど、それ以外は最初のままだ。


(そりゃあ、道具扱いにもなるのかなあ?)


「これで5匹目と。なるほど、内包する魔力量は確かに変わるようだね」


「うう、まだ強いってことぐらいしかわからないです」


「マスター! 一緒に強くなりましょう!」


「そうよ、これからよこれから」


 フレアさんの言うような違いが判らず、思わず落ち込みかけた僕。

 慰めてくれる2人に頷き、顔を上げると、キラキラした瞳でこちらを見るフレアさん。

 うーん、意外過ぎる姿である。


「やはり、共に戦う者はああでなくてはな」


「では、新たな妖精を探されますか?」


 ようやく、承諾以外の言葉をしゃべった!と思ったら、フレアさんの妖精はそっぽを向いてしまった。

 そんな場合は来ないと思うけど、もし戦ったら瞬殺されるだろう力量差があるのは間違いない。

 だから、ウルフリーダーへの牽制が止まったことに内心慌てる僕。


「馬鹿なことを言うな。私にとっては、お前が最上の相棒さ」


 演劇でも見ているかのように、フレアさんは自身の妖精を抱きかかえるようにして……見つめ合った。

 なんとも言葉にしがたい感情が湧きあがったところで、新たなウルフリーダーが産まれるのがわかった。


 フレアさんたちの強さがわかるのか、ウルフリーダーは一鳴きした後、先にいたウルフリーダーへと襲い掛かる。

 少しでも敵に強さで近づこうとしている……ふと、そんな思いを抱いた。


 いつの間にか、フレアさんと妖精は仲直りしていたようで、ますます現状がよくわからなくなる僕だった。


「この低層でも、観察結果は間違いないね。道理で、ボス格の強さにばらつきがあるわけだ。産まれたてと、そうではない……継承者とでも呼ぼうか。強さに明確な違いが出てしまっている」


「限界はないんでしょうか?」


 それは願望。

 そうであってほしいという、願い。


 だってそうだろう? もし、限界が無かったら、人間が到達出来ていない階層のボス格はどんな強さになっていることか。


「ある、と思いたいね。でも、お手柄だ。同じ相手だと油断せず、強さの段階を見極める必要があると情報が得られた。君も、気を付けるんだよ」


「はいっ!」


 僕が遭遇できるような相手だと、そんなに差は出ないのかもしれない。

 強ければ強いほど、魔晶の価値は上がってくるし、その透明度も違う。

 元々強いボスは、より強くなれる……かもしれないのだ。


「なあに、私だって君のように駆け出しだったころはあったんだ。泥まみれで、小銭を数えて何日暮らせるかと悩んだりね」


 そう助言のような言葉を告げて、フレアさんは先に戻っていった。


「ちょっと頑張っていこうか」


「ご飯の稼ぎは大事です!」


「宝箱も狙いたいわね!」


 どこか、高揚した気分になっていた僕たちは、それから10匹を目標にウルフリーダーと戦い始めた。

 もちろん、継承はわざとはさせずに、普通の強さの相手を、だ。


「大げさに避けず、必要なだけの動きを……」


 今回、僕たちは非常に多くの経験を得たと思う。

 たくさんのお金を積んでも得られないような、上級パーティーの強さという物を目にしたのだ。

 もちろん、手加減はしていたと思う。それでも、学ぶ物はとても多かった。


 動き1つ1つでも、僕たちがまだまだ無駄が多くて、磨けると自覚出来たのだ。

 出来ることを少しずつ広げる。


 大きな怪我もなく、目標の10匹を超えることができた時には、なんだか自分で自分を褒めたくなった。

 満足げな気分を胸に、10匹目のウルフリーダーの牙、魔晶になっているそれをもぎ取る。

 階層を進み、外に戻った僕たちはいつも通り、ギルドで換金だ。


 いつもの日常がまた、そう思った時。


「ブライトさん、昇格試験、受けてみますか?」


「昇格試験? 僕が?」


 僕の人生に、また1つ何かが刻まれようとしていた。



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