BFT-013「世界の秘め事」
「2人とも、頼んだよ!」
「はいっ!」
「まっかせなさい!」
言うが早いか、飛び上がる2人はあっという間に畑の上空に到達した。
太陽に目を細めながらも、僕は僕に出来ることをしよう。
人を襲わず、畑だけを荒らす何かの退治のために。
探索者の管理や、素材の買い取りなども行っているギルド。
天塔を擁する国が出資している組織らしいけれど、探索者以外の人も関係があるのだ。
この町クリスタリアにはいろんな人がいる。
探索者が目立つけれど、普通に暮らしている人、商売をしている人、そして農家の人々も。
「まず天塔ありき、なんだもんなあ」
もし、もしもだけど天塔が制覇されたら消えてしまうなんてことがあれば街も消えるだろうなと思う。
それまでは、みんな精一杯生きているという感じだろうか?
「今のところ、合図は無しっと」
空の上から、それらしいものが動いていたら教えてくれるように決めてある。
とはいえ、畑の周囲は森、精々が林だ。
上からだとわからないことも、当然あるとは思うけど……。
ギルドに顔を出した時に、わざわざ話を振られたということは僕たちなら出来ると思われてるということ。
となれば、力の強弱は関係がない依頼なんだと思う。
(そこまで強くないっていうのは、自覚があっていい事なのか……悩むね)
自虐、とは違うと思いたい。
気を取り直して、畑仕事をする依頼者を守れる位置に立ちながら周囲を見る。
「? 何かいる……でも出てこないな」
ちらりと見えた姿は、四つ脚の獣。
グレイウルフのようなタイプかと思いきや、顔は少し丸い。
大型の猫……名前は忘れちゃったけど、もっと山の方にいる奴のはずだ。
「ああ、あいつだあいつ。確かに畑を掘ってるのを見たよ」
「人がいると来ないのかもしれませんね」
畑仕事が終わるまで警戒を続け、そうして僕と農家の人だけが畑から町の方へと移動。
物陰に隠れて様子を見ると……出て来た!
畑の真ん中あたりまで来て、何かし始めたところで空中から2人に奇襲をしてもらった。
「さすがに速いわね、避けようとするなんてびっくり」
「でも、まだ何も生えてないところでしたよね……何を掘ってたんでしょう」
確かに、野菜を食べるために、じゃなく何かを掘り返していた。
農家の人と一緒に確かめると、キラキラしたものが……って、これは。
「魔晶のカケラ?」
「ギルドから頼まれてね。このあたりの土地は肥えている。その理由が、天塔から何かがしみ出してる可能性があるってことでねえ。もう1つの実験として、魔晶が影響があるかどうかをね」
それが本当なら、この猫型の怪物か獣は、魔晶目当てということになる。
どうなるんだろう……食べるのかな? 食べたら、強くなるんだろうか?
ふと思い、2人が倒した相手をよく確認する。
「魔晶化した部分がない……じゃあ獣か」
「なんにせよ、獣を引き寄せるんじゃ危ないってことでギルドに報告してきますね」
立ち去る依頼人を見送りながら、考える。
ギルドは、ある程度状況を察していたんだろうなと。
だから、空を飛べる2人がいる僕たちなら少なくとも何かつかめるだろうと思っていた。
でも……。
「ねえ、主様。天塔の中で、怪物は互いの魔晶を食べたり狙ったりしてないわよね?」
「普段はね。でも、僕たちはそれらしいものに1回遭遇しているよ」
「なんでしょう……あっ! ウルフリーダー!」
そう、最初に見つけたのは、何者かにやられたウルフリーダー自身だった。
しっかり調べてないけど、あの時魔晶は見当たらなかった。
ゴブリンやグレイウルフ、あるいはコボルトでもいいけど、普通の相手は特に互いにこだわらない。
けど、リーダー格、ボス格は魔晶の価値を本能的にでも知っていたら?
「人間が到達していないところでは、お互いに魔晶を取り込みあって怪物が強くなっている?」
口にしてから、そうあってほしくないと心から思った。
もしそうなら、まだ誰も最上階には到達していないのだからどれだけのことになっているか。
果たして、天塔に果てがあるのか、それ自体謎ではあるんだけど……。
今日の依頼はこれで終わり、なのだけど。
2人と相談し、少しだけコボルトを相手にすることにした。
わざと魔晶部分を放置し、コボルトがどう動くかを確かめた。
こちらは予想通り、特に魔晶を狙いに行くということはなかった。
さすがにボス格相手に、同じことをやるつもりは僕たちには無い。
余裕が、そこまでないからだ。
「あ、フレアさんだ」
そうこうしてるうちに、他の探索者たちも戻ってくる時間帯になっていた。
喜び一杯の人、悲しみの人、あるいは、戻ってきてない人。
天塔は人間の色んな感情を飲み込んで、今日も3本立っている。
探索者のほとんどがソロ、なのは間違いないのだけど、上級者ほどその法則は崩れる。
恐らく、複数人で活動しても十分稼げること、怪物の強さ的にそうでもしないと厳しい事、があるんだと思う。
また到達階層を伸ばしたらしいと聞いたフレアさんたち。
どこかで打ち上げでもするのか、町の酒場へと消えていった。
「マスター、あの方々に聞いてみたらどうでしょう」
「そうよね、聞くだけ聞いてみたら?」
「うーん、僕ぐらいなら、知らないからそういう想像が出来るんだって許してもらえるかな?」
問題は話す機会があるかどうか、なんだよね。
さすがに楽しんでいるところに話しかけにいくのは、なかなか難しい。
ひとまず、僕たちも酒場で軽く食事を済ませるのには賛成だ。
駆け出しから上級者まで、色んな人が訪れる馴染みの酒場に顔を出して……。
「さっそく明日、適当な階層で試そうじゃないか!」
「あ、あれ?」
何故だか急にフレアさんに話しかけられて、あれよあれよという間に話が決まった。
僕も、同行することになってしまったのだけど……なんでだろうか?




