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BFT-012「自覚の一歩」


 あの日から、僕たちは戦い方を考えるようになった。


 これまでも、自分たちなりに考えていたのは間違いない。

 でもそれは、狭い世界での考えだった。


(どこかで、僕は強くなれるのかと聞くのが怖かったのかもしれない)


 実際、想像していた通りの対応をされたことがある。

 低ランクであると考えられる2人から、高ランク妖精に乗り換えろという助言。

 それも当然で、上に登っている、あるいは別の天塔に登っている人たちからするとだ。

 低ランク妖精は、後で稼げる見込みがある人の繋ぎでしかない、のだ。


「3人ではない、1人だと考えろ、か」


「まだよくわからないですけど、私たちはマスターと最後まで一緒ですよ?」


「そうそう。嫌だっていうなら……我慢するけど」


 おどおどとこちらを伺う2人に、苦笑を浮かべて首を振る。

 僕は、決めたんだ。2人と一緒に天塔を登るってね。


 だから、その考えを汲んでくれた人の助言を実践する。

 話し合い、とにかく話し合って、合図が無くても基本的には動けるように。

 どうしても、合図や声掛けをしていくと少しずつずれが出る。


 最善最良ではなくてもいい、その時その時、そう思った行動をお互いにとれる。

 自分の体に、声をかけて普段から動く奴がいるか?って言われたらその通りだ。


「別れるつもりはないよ。こんなにすごい妖精を、2人も連れてるって言われるようにならないとね」


 そこまで言ったところで、物音。

 松明の先に見えてきたのは、ワーウルフをそのまま小さくしたような相手、コボルトだ。

 剣を握り直し、駆け出す僕。


 コボルトには、僕1人になったように見えるだろうね。


「せいっ!」


 切りかかった僕の背中から、2人が飛び出る。

 相手の視界からすると、2人が急に現れたように見えたはずだ。


「吹き飛びなさい!」


「えいっ!」


 脇に潜り込むように飛び込むラヴィの手には、炎。

 撃ち出すよりも魔力の消耗が少ないらしい近接攻撃。

 接触したところで、小さな爆発を起こしコボルトが揺れる。

 反対側に待ち構えていたカレジアの手には、お馴染の剣。

 突き刺す勢いと、ラヴィの攻撃による勢いとがぶつかり、柄近くまで一気に沈み込んだ。


「よし、剥ぎ取るから警戒よろしく」


「はーい!」


「お任せください!」


 やってること自体は、あまり変わらないかもしれない。

 けれども、自分達に何が出来て、何が出来ないのか。

 出来ることの中で、どんなことが有効そうか。


 さらに考えたのは、相手がされたら嫌なことは、自分たちが出来るのか、だった。


「消耗しない、怪我をしない、満足をしない。やってみると難しいね」


 言い換えれば、贅沢この上ない方針だ。

 探索者に色々聞いた結果である。

 もちろん、多くの探索者は簡単には教えてくれなかった。

 でも、聞いた相手が悪かったかなとも思う。


 そりゃあ、同じぐらいの立場の探索者に聞いたところで、同じような失敗しかしていないのだ。

 炎竜の牙の人たちと、たまたまというには早い再会をするまでそれに気が付かなかった。

 自分たちの稼ぎの秘密を明かすような人は、なかなかいないだろうなとわかってはいたつもりだった。

 第一、カレジアたちが飛べるから採取できたことを、隠しているのだからお互い様だ。


 そんなことをフレアさんに諭され、僕はギルドに2人が飛べることを申請した。

 その結果、ちょっと怒られたけどどんどん採取とかをするようにとお願いされたのだ。

 ついでに紹介された人たちから、多くの助言を貰うことができた。


「大事なのは、どれだけ天塔にいたかじゃなく、どれだけの稼ぎを重ねたか、ですね」


「頑張ればそれでいいと思ってたから、納得だわ」


 そう、前は滞在できるだけ滞在して、限界になったら戻る感じだった。

 それではいけないのだと、教えてくれたのだ。

 目標を決め、それを達成したならさくっと戻る。

 仮に達成が少し遠いようなら、それは自分たちのやり方が悪いか、届かない設定にしていた、なのだ。


 そんな戦い、登り方をしているうちに気が付いたことがある。


「僕たちは、最弱じゃあない。もちろん。まだまだ弱いけれど」


 強くなったと増長するのはよくないことだけど、弱いままだと自分を下げるのもよくない。

 そのことを自覚することができたのだった。


「前後に気配。挟み撃ちっぽいわよ」


「僕が前を。2人には後ろをお願いするよ」


「わかりました!」


 僕の胸にある魔力。そこに呼びかけて2人とのつながりが強くなるように意識する。

 妖精に力を与えるには、これが大事だとも先輩たちが教えてくれた。

 明らかに何かが吸われていく感覚と、それを邪魔していた何かが少し、ほんの少しはがれていくような感じがあった。


 そのことが、どうしようもなく……嬉しかった。

 僕には魔力がある、妖精がいる、未来へと一歩ずつだけど歩いているのだと、実感できた。


「魔力集中……斬っ!」


 魔法のように、僕の使える魔力を武具にまとわせるやり方はスキルと呼ばれるものらしい。

 妖精と契約が出来た武具、魔道具や妖精武具と呼べるそれらとの組み合わせ。

 最初のうちは、決まった呪文めいた言葉や動きと関連付けて使うといいようだった。


 だから、ちょっとかっこつけて言葉を紡ぐ。


 わずかなタメの後、刃が魔力の分だけ伸びて、襲い掛かってきたコボルトに沈む。

 悲鳴を上げる、コボルト。天塔の中に無限に出るとも言われる怪物たち。

 戦いながら思うのだ。


 どうして、こんな風に怪物が作られ。産まれるのかと。


「こっちは終わったわ!」


「マスター、援護します!」


 外の怪物には、限りがある。

 現に、人間が頑張って領土を広げ、人の住む場所とした場合には、そこには怪物は産まれない。

 怪物は、森や山、自然の中に産まれる。


 それではまるで、天塔が怪物を倒すための訓練の場のようではないか。

 そんなことを、考えてしまう。


「あ、宝箱!」


「じゃあ棒を突っ込んで……危なっ!? 何か飛んできた!?」


 悪意マシマシの宝箱の罠が、そんな考えを頭の隅に追いやった。

 なぜか入っている、宝石らしきものを数個つかみ取り、今日は戻ることにした。


 目指すべき未来への、確かな一歩。


 




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