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BFT-000「駆け出しは今日も生きる」

長めの連載予定です。よろしくお願いします。


 僕は今日も、生きるか死ぬかの最中にいる。


 薄暗い視界に光る白刃。

 避ける、避ける。


 とにかく避けて……。


「ここだっ!」


 大げさに叫んで、手にした剣を突き出し……貫く。

 肉に沈み込む刃の感触は、今だに慣れない。


 声だって、出していかないと力が入りきらないんだ。


「はっはっ……よし」


 こちらの命を奪う敵から、物言わぬ躯になった相手。

 そんな相手から、必要な場所を切り取って汚れた麻袋に放り込み、警戒を再開する。


 この階層には、今倒した怪物であるゴブリン以外にもいろんな怪物がいるのだ。

 何とも言えない音を立て、地面に沈み消えていくゴブリン。

 ここでは、怪物は死ねばそのうち地面に溶けていく。


 例外は、人間ぐらいなものだという。


(敵影無し、落ち着け、ブライト。まだここで死ぬわけにはいかないんだ)


 壁に背を預け、深呼吸。

 薄暗さと疲労が相まって、余計なことまで思い出しそうになる。


 怪物に襲われ、逃げ出すことになった故郷。

 そして、それより前から出稼ぎにいったまま行方不明の両親。


 強くなって、故郷を取り戻す。

 可能ならば、両親を見つけ、遺品だけでも持ち帰る。

 それが今の、僕の生きる目標。


「そのためにも……」


 血で滑らないようにと、手に巻き付けてある布を締め直し、刃を握る。

 なんとかなるはずだ。今日まで自分は生きて来た。


 気持ちを新たに探索を再開し、しばらくして僕はまた生きて地上に戻ることができた。



「死にかけて、これぐらいか……」


 換金部位をギルドに引き渡し、受け取ったお金はささやかとは言わないけど、贅沢は出来ない。

 日々を暮らすことは出来る。でもそれだけだ。


 この場所で、両親を見つけるという未来のためには、足りない。


「ようこそ、クリスタリアへ! 探索者希望ですね? ではこちらに署名を。代筆もしていますよ」


 聞こえてくるのはギルド、僕のような探索者を記録し、まとめている組織の受付の声だ。

 今日もまた、1人の探索者が産まれたらしい。


 探索者。文字通りの職業で、外じゃ希少だけど、この町クリスタリアでは珍しくない。

 なにせ、町自体が探索者のために作られたと言ってもおかしくないからだ。


「神様が作ったとされる3本の天塔……怪物が闊歩するその中からは、無数の資源、道具が得られる……か」


 言葉だけなら、とても魅力的だ。

 生き残りさえすれば、畑を耕すこともなく、稼げるわけで。

 探索者の多くは、そういった気持ちの人なんだろうなと感じる。


 両親はどういうつもりでここに来たのか、出来れば知りたいような怖いような。


「どうしようかな……採取でもしておこうかな」


 クリスタリアは、天塔を中心に出来上がった町だ。

 そんな天塔の周囲からは、何かしみ出しているらしくこのあたりは植物の育ちが早い。

 探索者を引退して、この町に来ても畑仕事をする人もいるぐらいだ。


 それでも天塔の周囲は森のまま。

 たまに、弱いけれど怪物がうろついてるからだというのが主な理由。

 結果的にだけど、その森で薬草を取るのも初心者、あるいは僕のような探索者の命綱。


(あ……綺麗だな、それに、強そう)


 視界の先で、天塔へと向かう人影が2人。

 豪華な装備に身を包んだ探索者の男と、その後ろについていく女性。

 女性は探索者ではない。正確には、人間ですらない。


 魔法の武具、道具から産まれる妖精だ。

 背中に小さな羽根が生えているのが特徴の、不思議な種族。


 装備者を主とし、共に戦う存在。

 産まれる元となる武具や道具でその強さ、ランクといった物は異なるらしい。

 妖精がいるといないとでは、探索の難易度は基本的に桁違いだ。


 そんなわけでクリスタリアで活動する探索者は、大きく2つに分けられる。

 妖精が一緒で、稼ぐ人と、ソロでその日暮らしをする人、だ。

 僕は当然のことながら、後者。


 当然、理由がある。1つは妖精が産まれる武具たちは珍しい事。

 それに一度妖精と契約すると、解除に大量のお金や素材が必要になることだ。

 これは、妖精が消滅しても残る。

 ソロで活動する人の中には妖精を失った人なんてのもいるわけ。


 だから、大体はある程度以上の強さの妖精から確保しようとして……失敗して力尽きるらしい。

 それでも、弱いうちから妖精と契約する人もいないわけじゃなさそうだけど……。

 町中、あるいは天塔の中でそんな相手を見かけないのは、他にも理由があるのかもしれない。


(元に戻るために戦うのは、辛いだろうな)


 そんなことを考えたからだろうか?


 翌日の探索で、僕は追い詰められることになった。


「なんでっ、あんな数っ!」


 ソロでは厳しい数のゴブリンに追われ、来た道を駆け戻っている。

 何度か通ったことのあるはずの道。

 

 なのに今日は、初めてのようだ。

 暗がりが、そのまま襲い掛かってくるかのよう。


 ポーションも使い切り、武器も半ばほどで折れるという絶望的な状況。

 だからこそ、か。


「こんなところに扉!? 道を……!」


 間違えた、そう口にするのは難しかった。

 天塔の中でそれは、死を意味するから。


 扉をくぐれば希望が待っている保証なんて、ない。

 むしろ、新たな脅威が待ち構えている可能性の方が高いだろう。


『ギギッ!』


「ええいっ!」


 聞こえてくる嫌な声。色々と天秤にかけて、僕は……未知を選んだ。

 武器を構えたまま、体当たりするようにして扉にぶつかり向こう側に飛び込む。


(まずはセーフ! いきなり罠にはまったり、怪物が口を開けてたってこともない!)


 扉の向こう側も、なぜか見渡す分には十分明るい、天塔内部。

 まるで、自然の洞窟のような岩肌もそのままだ。

 唯一おかしいのは、無数の箱たちだった。


 小さい物は拳ほど、大きい物は水瓶ほど。

 どれも鍵穴とかがあるようには見えない。


(噂には聞いていた、財宝の間!?)


「すごい……っと、そんな場合じゃ! ああ、ちくしょう。なんかいいのないか!」


 罠があるかもしれない。そんな思いも、背後に聞こえるゴブリンたちの声にかき消された。

 慌てて近くの箱を開けようとして……開かない!?


 どういうことだと思いながら、他も試すけど開かない。

 たくさん箱はあれど、資格がある者しか開けないという、今さらな噂の続きが頭をよぎる。

 半ば泣きそうになりながら、どんどん試して、ついにゴブリンが扉をくぐった時に開いた。


「やった! 剣、指輪もある!?」


 詳細不明、怪しさ全開、そんな出自の武器だけど少なくとも半ばで折れた今の剣よりはよさそうだ。

 指輪も、初等魔法の1つでも使えるようになれば上等。

 

 まるで何度も使ったかのように手になじむ長剣を構え、ゴブリンへと振り返る。

 不思議と、はめた指輪からも、手の中の長剣からも力を感じるような気がした。

 希望を見つけた人間ならではの気持ちだろうなと思いながら、抵抗を始める。


 段差もあり、たくさんの箱が障害物になることに気が付いた僕はぎりぎりの戦いを続けた。

 残念ながら、指輪は魔法を授けてくれなかったようだけど、動きが鈍くなるとかないだけ問題ない。

 中には、呪われる武具だってあるのだから。


 長剣も、柄になんだか小さい穴がいくつか開いてることを除けばシンプルな構造。

 切れ味も問題なく、なんとかゴブリンたちの数を減らすことに成功する。


「あと少し……そんな!」


『ブフウ……』


 生き残ったゴブリンが、逃げるように向かった扉。

 新手は……大きかった。

 ゴブリンリーダー……滅多に見ない、大物だ。


 今の僕だと、相打ちでもどうにかなるか怪しい。

 絶望したって、誰も責めないだろ相手。


「……あきらめてたまるか! 生き残って、輝いて、名をあげて見せる!」


 鼓舞するように叫んだ時のことだ。

 手元、そして指のあたりが光り出す。

 眩しい、眩しくて向こうが見えないぐらいだ。


 同時に浮かぶ言葉……ゴブリンたちが光にひるんでいる隙に、迷わずその言葉を口にしていた。


「古の契約の名のもとに、いでよ。晴れ渡る時も、雨に濡れる時も、渇く時も、凍える時も! 常に共にあることを誓おう! フェアリメント!」


 光が、消えた。


 眩しいほどの光は、手の中の剣と指輪だけに残り、そして……。


「共にある者カレジア、ここに。マスター、ご命令を」


「同じく共にある者ラヴィ、ここに。主様(あるじさま)、ご命令を」


「……妖精?」


 僕の前に片膝をついている2人。2人と言っていいのかは疑問が残る。

 状況からして、武具から出て来た妖精、契約に成功したんだと思う。

 だけど、だけどさ。


「はい、そうです。どうやら不埒な輩がいるようですね」


「そうみたい。カレジア、行くわよ」


 ちょっと、と止める間もなく、妖精2人はゴブリンたちに向かって背中の羽根で飛んでいく。

 どこか現実味がないのは……どう見ても、2人とも僕の太ももぐらいまでしかない背丈だったから。


「なんだかよくわからないけど、ええい!」


 妖精に任せて、自分は立ったままでしたなんて知られたら、父さんたちは怒るに違いない。

 そう思い、僕も駆け出した。


 僕と彼女たちの、長い戦いはこうして始まったのだ。



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