崩れた夢の狭間で
新·作です☆(*´∀`)
プロローグ
救急車のサイレンの音が響く。ざわめく人の足音に混じって、車のクラクションが聞こえる。視界は真っ赤…………というより、ほとんど視えていない。
不思議なことに、不安や恐怖は微塵もなかった。別に「死を覚悟していた」という事を言うつもりもないし、何より“死ぬ”という事が想像の外だったから仕方ない。
本日、“俺”こと“兎丿崎 悠真”は不幸な事に交通事故にあった。
ぼやけた頭の中で、走馬灯が見える。
父さん…母さん…茉莉奈…………ごめんな………。
その言葉を最後に、意識はぷつりときれた。
2019年4月5日
もうすぐ“平成”という元号が終わり、新しい時代が始まろうとしている最近、何一つとして変わらない生活を俺は送っていた。
朝は普通に起き、トーストとベーコンエッグという普通の朝食を摂ってから家を出る。
学校への道のりはそう遠くない。歩いて15分といった距離にある普通高校に俺は通っていた。
玄関の扉を閉めると外には、
「おはよう。やっと出てきた。」
玄関の外、簡単に言えば小さな門の前にいたのは一人の女子生徒。
彼女の名前は“愛河 茉莉奈”。昔からの顔馴染み…………まぁ、俗に言う幼馴染だ。
家は真隣。幼稚園から小学校、中学、高校とおなじだったため、今更一緒に登校する事を恥ずかしいとは思わなくなった。
顔は小さめで、形やパーツも整っている。身長はやや低めの160cmで、体重とスリーサイズは………知らん。
“なんでも出来るお嬢様”って思われがちらしいが、実際なんでも出来るし、大企業の社長の娘なのでしょうがない。
勉学はいつも学年次席をキープし、様々な分野で才能をもったお嬢様。
自分とは違う。特別な人間だ。
「おは〜。なんだ、今日も来てたのか。」
「………悪い?可愛い彼女をエスコートしてよ♪」
「誰が彼女だって?」
「む〜!」
そう言いながらポカポカと軽く殴ってくる。
俺は若干いつも通りに流し、世間話をしながら学校へと向かった。
放課後、始業式だけで早く終わった為、俺は帰路についていた。
茉莉奈は「学校に用事がある」と言っていたので、俺だけ先に出てきた。
適当に駅前でもブラブラしていようかと思い、住宅街とビルが並ぶオフィスエリアを抜けると、広い道に出た。
都会特有の圧迫するような空気に、生まれてからずっと住んでいるが全然馴染めない。
「成人したら田舎にでもいこうかな。」
そんな事を考えながら俺は歩を進める。
まだ昼なのにざわざわとうるさいメインストリートの人混みを抜け、駅前へと出る。無駄に大きい駅の中には人がごった返していて、忙しなく人が出入りしている。
そこで昼食を取り、駅中の店で2時間程時間を潰して駅前に戻る。
待ち合わせ場所としてよく使われるこの場所は、多少学校から遠い所ではあるものの、うちの生徒をよく見かける。
今日はどこの学校も始業式だったり午前終わりだったりな為、他校の生徒も多い。駅前も駅中も放課後になって遊んでる生徒と、仕事で歩き回ってる社会人、後はどちらでもないその他の人達で溢れかえっていた。
「お、いたいた。」
駅前で人を待っている様にスマホを見ている顔馴染みの女子生徒を見つけて声をかける。
「終わったか?」
「うん。おかげさまで。」
「そりゃ良かったよ。しっかし人が多いなぁ………!」
「しょうがないよ。どこの学校も今日から新学期なんだから。」
ため息をつきつつも歩き出す。
茉莉奈はとても楽しそうに俺の手を引いて、「行きたい」と言っていたショッピング街へと俺を案内した。
そこでさらに2時間程買い物を楽しんだ後、俺達は帰路へとついていた。また駅前まで戻って来ると、信号に捕まった。
目の前を車が沢山通り過ぎていく。
茉莉奈と話をしながら信号を待っていると、ボールが足元を転がって道路へと出ていった。
すると、俺の脇を抜けてまだ10歳位の少女が道路へと走り出していた。
「…………!!」
俺以外にも、驚いて息を呑む人がいた。
こんな時、あなたはどうしますか?
自分の命と他人の命を、天秤にのせられますか?
俺は反射的に前へと飛び出していた。右方向からトラックのクラクションが聞こえるが、気にしている余裕なんて無かった。
ボールを拾って安堵している少女を、前へと突き飛ばした。
俺の前へと進む力はそこで止まり、次に起こることを俺は理解していた。右側から強い衝撃がかかる。
「!!」
声にならない叫びと共に、俺の体は宙を待って道路に打ち付けられた。
だんだんと意識が遠のいていく。
ぼやけた視界の中で涙を流している茉莉奈が見える。
「誰か……!119をお願いします…!誰かぁ……!」
「はい……はい……そうです。自動車事故です……はい……駅前の横断歩道です…至急お願いします。」
ぼやけた視界と薄れゆく意識の中、「俺はどうなるんだろう?」なんて事を考えていた。
父さん……母さん……茉莉奈………ごめんな…。
その言葉は声になる事はなく、そのまま意識が途切れた。
目を覚ますと、そこは病室だった。
窓からさす月明かりを見るにかなり深夜だろう。
動こうにも、体が動かない。とくに拘束されてる訳でもないが、顔から下を動かそうとするも動かない。
ふと、横に人の気配がしたので顔を向けてみる。
するとそこには、
「君は…………!僕が突き飛ばした…!」
そう、あの交通事故で俺が突き飛ばした少女が横に立っていた。
少女は俺の顔を見ると、特に表情も変えず淡々と、
「目は覚めましたか?その節は助けていただき、ありがとうございました。」
「あ……あぁ………それは良いけど、これは一体どういう状況?」
俺は質問してみる。この場所にこんな時間までいるという事は、何がどうなったのかを知ってる可能性が高い。
そう思って聞いてみると、少女はスッと俺の横にある心拍計を指した。
「……!」
俺は息を呑む。
心拍計は、俺の心拍を測っていなかった。
数値は常に0を表示しており、俺の心臓が動いていない事を表していた。
「えっ?!これはどういう事だ?!」
あまりの驚きに声を出すと、
「大きい声を出さないで下さい。病院の人にバレてしまいますよ?」
と、少女はしーっという人差し指を口に当て、“静かにして”というジェスチャーをした。
その後、俺が静かにしたのを確認すると、淡々とした声で
「説明しますね。」
と告げた。
「まず、あなたは最前提として死にました。そこだけ理解して下さい。そして、それはこの世界に不用意に干渉してしまった私の責任です。ごめんなさい。」
「そっか………やっぱり俺……死んだのか……。」
今思えば、特に暑いとか寒いとかも感じていなかった。これは俺の体の機能が完全に停止していることを表していた。
「そこでですね。あなたが亡くなったのは私の不注意です。なので、あなたの人生を途中で途切れさせてしまった事を反省し、あなたに第二の人生を与えます。」
どういうことだ?
「第二の人生を与える」って……神様か?
「それってどういう…?」
「言葉のとおりです。ですが、この世界ではあなたを知っている人が存在します。なので、同じ人生を歩ませる訳には行かないんです。なので、この世界のあなたには死んでもらいます。次に目が覚めたらあなたは違う世界にいるはずです。今回は私のせいです。あなたにはなんの非もありません。次の世界では、あなたに幸せになって欲しいです。今の人生でこの先に起こるはずだった幸せを、あなたには掴んで欲しいです。」
「どうしますか?」と、少女は聞いてくる。それは恐らく、別世界に行って第二の人生を歩むか、その他の選択肢を取るかということだろう。
「…………わかった。俺、行くよ。それと、俺は君のことを責めてはいないから自分を責めなくていいよ。」
「了解しました。それでは、ご武運を祈ります。必ず、幸せを掴んで下さいね。」
その言葉を最後に、俺の意識は再度途絶えた。
これは書くの楽しいです(^^♪
時間があるときに書いていこうと思います