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第8話 勇者が勇者になるまではただの普通の人

こんにちは!

明日葉晴です!


今回の話は二話構成です。


私は少し前からめっきり紙媒体の漫画を読まなくなってしまいました。

特に理由はないんですが、なぜか自然と…

そして最近になってあのペラペラとめくる感じが少しだけ恋しいです。

たまに衝動的に人気だけど読んだことない漫画とかを大人買いしたくてしょうがないです。

そんなことをしても読む時間ないので諦めるんですけどね…


では、本編をどうぞ!

 私には幽霊が視える。


「あれ…?俺は一体…?」


 今もそこに…なんだろう…なんかマント付きの鎧に、腰に剣を差した幽霊らしき男の人がいる。


「おっかしいなぁ…あれは確かに死んだと思ったんだけど…」


 おおぉ…このタイミングで死んだって言っちゃったよ…まぁいいや。声掛けよう。


「あの…すいません…死んだんですか?」


 ○


 おおよそ、勇者の恰好、と言うのがふさわしい姿のこの人は、やっぱり幽霊だった。


「なるほどね。やっぱ俺、死んだんだ」

「そうですね。私、触れませんし」

「で、君は幽霊が視えると」

「そうですね。他には何もできませんが」

「ははっ!充分じゃないかな」


 私は今感動している。普通の人だ。久しぶりの普通の人だ。いや幽霊だ。恰好はコスプレだけど、そんなことはもう些細なこと。受け答えも、性格もしゃべり方も普通。顔は普通よりちょっとかっこいい寄り。


 最近は濃い人が多かったからなぁ…


「あれ?なんか遠い目をしてどうしたの?」

「いえ。普通っていいなって思いまして」

「はははっ!面白いこと言うね。俺の恰好が普通に視える?」

「コスプレですよね?」

「そうだよ。ゲームの主人公の格好だね」


 そう言って、男の人は私でも聞いたことのある有名なゲームの名前を言った。


「普通ですね。この際恰好なんてどうでもいいんです。コスプレなんて最近じゃ普通の趣味じゃないですか」

「お、おう…なんだか踏み込んではいけない領域っぽいね…」


 そうやって察してわきまえるのも普通だ。素晴らしい。


「っと。そういえば自己紹介がまだでした。私は三葉(みつば)(あかね)。高二です」

「そうだね。俺は手越(てごし)光也(みつや)。大学二年だった」


 本名伏せたりしない。普通だ。もうなんにでも感動しそう。と言うか泣きそう。


「えっと…よろしく…と言うのも変ですよね」

「ははは!そうだね。でもいいんじゃないかな?知り合ったらとりあえずよろしくで」

「そう…ですね。あはは…」


 どうしよう…普通の人過ぎて逆に対応が分かんない。どう会話すればいいかわかんなくなってる…


「ところで手越(てごし)さん、未練ってないですか?良ければ手伝いたいんですけど」


 もうわかんないから強行突破することにした。私がおかしい人に思えてきた。悲しいわ。


「未練…かぁ…あるにはあるけど…ちょっと難しいかもなぁ…」

「難しいってどれくらいですか?超能力者になるくらいですか?ご主人様になるくらいですか?犬を理解するくらいですか?」

「君の難しいってなかなかハードル高いね…」


 全部こなしてやりましたとも…最近は恋も探しました…


 私の出した難しいの基準に、若干引き気味になった手越(てごし)さん。これではまるで私の方がおかしい人だ。


「あ、いえ…なんであれ、とりあえず言ってみてください。力になれるかもしれませんし」

「お、おう…そうだね。俺の未練っていうのは、同人誌を描き終えてないことなんだ」


 どう…じん…し…?それって…


「いわゆる、エッチな本ですか?」

「いやいや。俺が描いてるのは趣味本みたいなものだよ。18禁は描いてない」

「あ、そうなんですね。すいません」

「いいよ。同人誌っていうとそっちをイメージする人が多いのは知ってるから」


 そう言ってさらっと流してくれた手越(てごし)さん。本当に申し訳ない。偏見や先入観はよくないよね。


「それでもすいません。それで、その同人誌を描き終えたいってことですね?」

「そう。正確には、描いて、次のマーケットに出したいんだ」

「あー…ニュースでたまにやってる…アレですか?」

「そう。アレ、だね」

「…………」


 普通だ。普通にハードなやつだ…


 ○○


 手越(てごし)さんの未練について考え直した。未練自体はシンプルかつ普通。自分の最期の作品をちゃんと世に出したい。何かを作る人なら誰しも思うことだろう。だけど今までにないハードルがいくつもある。


 まず、手越(てごし)さん自身は同人誌を作ることはできない。これは私が代理で描くことでクリア。


 次に、私は同人誌を作ったことがない。聞けば普通にマンガらしいけど、マンガも描いたことはない。幸いにも私は美術部だから絵を描くことには慣れている。これはギリギリクリア。


 次は、描くマンガの内容を知らないこと。描き途中のものが一人暮らしの部屋にあるとのことで現在向かっているのだけど…


「問題は私が部屋に入れるかですよね」

「カギは消火器の箱の中に入ってるよ。友達が勝手に入れるようにしてるから。俺が死んだの事故だし、割とさっきみたいだし、部屋にいてもなんも疑われないと思うよ」

「だとしても私はまずくないですか?」


 倫理的にと言うか…大学生の部屋に女子高生がいるのはまずいような…


「あー…アレだ…アシスタントで通そう」

「無理やりっぽくないですか?」

「そんなことないよ?その制服、綾目(あやめ)高校のだよね?」

「え?あ、はい」

「俺、OB、しかも美術部」


 おぉ…それなら?


「OBとして訪問した時に勧誘したってことにすれば…アレ?でもなんで一人暮らしなんですか?」

「邪魔だからって追い出された。独り立ちしろって。実家は割と近いよ」

「それは何というか…」


 なんだろ、結構ヘビィな家庭なのかな…


「まぁそれなりに充実してるし、不便ないからいいけどね。あ、別に家族と仲悪いわけじゃないからね?」

「そうなんですね。変な考えしそうでした」


 と言うかしてました。


「ははは!よかった。気にしなくていいよ」

「わかりました。…でも例えOBでもやっぱり変かもしれませんね。女子高生がいるのは…」

「んー…でも他に手はないしなー…」


 何とか誤魔化す方法…あ。


「あの…失礼ですけど彼女いますか…?」

「え?いや…生まれてこのかたいないけど………え?まさか?」

「はい…その考えで合ってると思います…」

「「………………」」


 気まずい沈黙が流れた。でもこれが最善だと思う。


「ま、まぁそれはアシスタントで疑われた時でいいんじゃないかな…」

「そ、そうですね…そうします…」


 どうやら気を遣ってくれたようだ。ホントにいい人だと思う。顔を背けてるけど、どんな顔してるか少しだけ気になった。ちなみに私は自分でもわかるほど顔が熱くなっている。きっととても赤くなっているだろう。


「あ、あれあれ。あれが俺の住んでるアパート」

「へぇ…思ってたより綺麗なとこですね…」

「あはは…まぁ独り暮らしって言っても家賃とか親に出してもらってるし、家も親が決めたとこだからね」

「そうですか…って!すいません!なんか勝手に古いとこ想像してて!」


 でも、男の人の独り暮らしって言ったら、なんかボロいアパートを想像しちゃうんだよね…


 手越(てごし)さんが示したのはクリーム色の綺麗な二階建てのアパート。建物の前にちょっとした花壇があって、手入れされているのがわかる。


「いいよ、いいよ。俺はもっとボロいとこでもいいと思ってたし」


 うーん…また気を遣わせてしまった…


「それに今は良かったと思うよ?ボロいアパートにかわいい女の子呼ばずに済んだわけだし」

「…その発言だけ聞くと、とんだ女好きですね」


 不覚にも若干ときめいてしまったけどね…


「ん?……あ。いや違うよ!?俺、彼女いた事ないから!全然そんなつもりないから!」


 凄い焦ってる…なんかかわいい…


「ちょっと冗談言っただけですよ。手越(てごし)さんが軽い人だなんて思ってないです」

「そ、そう?はぁ…からかわないでよー」

「いやぁ…反応が面白そうだったのてつい…」


 そんな雑談しつつ、いよいよアパートの手越(てごし)さんの部屋に入室。


「おぉ…」

「な、なんか恥ずかしいね…」

「整ってて、綺麗な部屋だと思いますよ?」


 ちゃんと掃除がされていて、散らかってない。本棚には漫画が所狭しと埋まっているけどちゃんと並べられている。男の人の独り暮らしは普通はどれくらいかわからないけど、綺麗だというのはわかる。なぜなら私の部屋より綺麗だから。


「いやぁ…そうじゃないけど…まぁいいや」

「…?」

「気にしないで。それより、机の上にあるのが描きかけの漫画だよ」


 そう言われて示されたのは、綺麗な部屋に似合わず乱雑に紙の束が置かれている机だった。


「へぇ…これが…」


 少なからず漫画自体は読んだことあるけど、本になる前の漫画は初めて見た。


「やっぱり絵が上手いですね」

「ははっ…ありがとう」


 ひとまず、描きかけの漫画を読んでみる。内容は、手越(てごし)さんがコスプレをしているゲームを主人公ではない視点で描いたスピンオフみたいなものだった。


「これ…面白いですね!」

「お世辞でも嬉しいよ」


 お世辞じゃなくて本心でそう思った。ゲーム自体はやったことないけど、やってみたいと思うような内容で、ゲームの内容を知らなくても、マンガの中で繰り広げられる人間ドラマや戦闘シーンは心が躍るものがあった。


「描きかけって言ってましたけど、内容自体は全部描き終わっているんですね」

「うん…それはラフでね。あとは描き起こすだけだったんだ。その前にこのコスプレを取りに行って、そこで死んでしまったんだ」

「そうだったんですね…」


 確かにそれは悔やまれるかもしれない…まぁ実際、それが未練でこうして幽霊になってしまったんだ。なら、その未練は晴らしたい。


「気にしないで。起こったことはしょうがない。それで、漫画はどうしようか?」

「そうですね…漫画の描き方は知らないので教えてください。絵は真似します。これでも美術部ですから!なので、手越(てごし)さんが描いた漫画は他にありませんか?それも参考に真似します」

「なるほど、わかった。俺が描いた漫画はそこの棚に置いてあるよ」

「はい!」


 そうしてひとまず、漫画を読んで絵を覚える作業に入る。これは別に漫画を読みたいからやるわけじゃない…決して他意はない。ホントに。……正直漫画は面白かったけど…


 ○○○


「ふぅー…面白かったですー…」


 一通り手越(てごし)さんの作品を読み終わり、私は一息ついた。


「あはは。気に入ってくれて嬉しいよ」

「はい!絵がとってもかっこよくて内容も読みやすかったです!」

「ありがとう。それで、絵は真似できそう?」

「あ、はい!それは大丈夫そうです!少し時間かかるかもしれませんけど…」


 忘れていたわけじゃない。あまりに面白かったからつい感想が先に出ただけ。それと問題ないのも本当だ。模写の要領で描けばできなくもない。


「あ、時間で思い出しましたけど、いつくらいまでに描けばいいんですか?」

「んー…印刷所の関係もあるし、今週金曜の午前までかな」

「今週!?」


 待って。それは厳しくないかな!?あと三日しかないよ!?金曜午前って実質二日だよ!?


「ははは…やっぱり驚くよねー…無理だよねー…」


 しまった!弱気にさせてしまった!!と言うか無理でもやるしかない!


「大丈夫です。こうなったら学校休んでででもやります」

「えっ!!いやそんな!そこまでしなくても…」


 手越(てごし)さんがそう言ったその時。


 ガチャリ


 玄関が開き、一人の女性が入って来た。


「母さん…」


 どうやら手越(てごし)さんのお母さんのようだ。


「あなたは…誰ですか…?」

「あ…えっと…私は三葉(みつば)(あかね)って言います。綾目(あやめ)高校の美術部で…」

「もしかしてあなた…」


 手越(てごし)さんのお母さんは私が自己紹介するのを遮った。


 もしかして…問答無用で通報…!?まぁ確かに死んだ人の部屋に知らない人いたら普通は通報だよね!?手越(てごし)さん普通の人だし、その親もきっと普通の対応のはず…!!


 私は想定していた対応では普通は乗り切れないことを悟り、素直に謝る決意をした。


光也(みつや)の彼女!!?」

「はい!すいません!…はいぃ!!?」


 しかし手越(てごし)さんのお母さんはさらに予想を裏切ってきた。


「やっぱりそうなの!?ごめんなさい。光也(みつや)は何も言わないから、私あなたのこと知らなくて…あ、ごめんなさいね。私は光也(みつや)の母です」

「あぁ…はい…」

「それと重ねてごめんなさい。あなたのこと知らなかったから、教えることができなかったけど…光也(みつや)はついさっき事故で…死んでしまったの…」


 そう言って、本当に悲しそうに、そして申し訳なさそうに頭を下げた。


「母さん…ごめん…」

「そう…ですか…あの…すいません…なんて言えばいいか…」

「いいんです。あなたも突然こんなこと言われても混乱しますよね…恋人が死んだって言われても…」


 あぁ…なんて言うか…二重で心が痛い…


 騙しているということと、自分の子供をさっき失った人を見ているのは本当に辛い。


「遺体は病院からすでに出していて見せることは出来ないの…それで、葬式は身内だけでやるけど、あなたには通夜には参加してほしいわ。土曜日にやるから、是非…」

「は、はい…行きます」

「ありがとうね。これが会場の案内よ」

「はい…」


 そうして、場所と時間を書かれた紙を渡された。


「じゃあ、他になにかあったら私に連絡して頂戴ね。ここの整理は葬式の後にやるから、それまではいつでも来てもいいわよ」

「あ…はい…分かりました…」


 そう言って立ち去ろうとする手越(てごし)さんのお母さん。勢いで色々進んだけど、ちょうどいいからちゃんと許可を取ろうと思った。


「あの…すいません…一ついいですか?」

「なにかしら?」

「その…手越(てごし)さん…光也(みつや)さんの描きかけの最後の漫画を完成させたいんです!必要なものを持ち出してもいいでしょうか!?もちろん、ちゃんとお返ししますので!」

「そう…構わないわ。と言うより、欲しいものがあればあげるわよ。思い出の品とかあるでしょうし」


 いや…ないんだけど…まぁちょっと心が痛むけど許可は取れた。これで漫画に専念できる…


「ありがとうございます!」

「こちらこそ。あの子の彼女になってくれてありがとうね」


 そして、手越(てごし)さんのお母さんは帰って行った。


 んー…心が痛い…


「母さん…ごめん…それに三葉(みつば)さんもごめんね?母さんが勘違いして…昔からちょっと変わってて…」

「いえ…もともと信用されなかったら取る手段だったので大丈夫です…でもなんか意外でした。もうちょっとおとなしい人だと思ってたので…」

「うん…性格は全然似てないからね…言いたいことはわかるよ…」


 何というか…パワフルな人だったな…


「ま、まぁとりあえず、宣言もしてしまいましたし、早速今日から始めてしましょう!必要なものを教えてください!持って帰って徹夜でもなんでもして完成させましょう!」

「わかった…ありがとう」


 そうして、必要なもの一式を持って家に帰るのだった。

第8話を読んで頂き、誠にありがとうございます!


前書きでも話した通り、今回は二話構成です。

続きは来週になってしまいます。すいません…


さて、この物語では初の普通の人の幽霊です。

まぁ跳流ちゃんも普通と言えば普通かもしれませんが…

跳流ちゃん以外の人 (人外含む)で考えれば、常識ある普通の性格ですね。

性格を加味しない、純粋に未練の難易度だけが高いものを考えた結果がこの話になります。

続きはまた来週。


ブックマークして頂いてる皆さん、そうでない皆さん。

いつも読んで頂き、ありがとうございます!

次回の更新は6/16です!

それでは、引き続きお付き合い頂ければ幸いです!

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