第54話 寒さに震える冬には甘い奇跡を
こんにちは!
明日葉です!
またもや遅れてしまって申し訳ございません…
新年二連続遅れ…
気を付けます…
今回は初心に戻ったようなお話です!
が、いつもより結構長めになりました…
前半はいつも通りふざけてます。
後半がシリアスパートの流れですね。
それでは本編をどうぞ!
私は昔から幽霊が視える。
「さむっ…」
だからと言って霊的な力を使えるわけでもなく、大寒波の影響に抗えず、凍えるような寒さと大雪に心が折れそうになっていた。
「早く帰ってコタツに入りた…いぃっ!?」
そんな中、厳しい環境に負けたのか、公園で倒れている女の子を発見した。こういう場合は救急車だろう。番号は117だっただろうか。混乱すると上手く思い出せないのは本当らしい。
「いやまず意識の確認かっ…!あのっ!生きてるっ!?」
「死んでる!」
「元気かよっ!?」
◯
よく視ると女の子は幽霊の雰囲気があったし、何より倒れているところは全く雪がへこんでいない。という事はこの子は確実に幽霊だ。死んでるって自己申告もあったし。
でも…この雪の中倒れてたら流石に焦るって…
吹雪と言うわけではないけど、しんしんと降り注ぐというのがふさわしいかの如く、粒の大きい雪が降っている。おかげでくるぶしくらいまで雪が積もってるし、視界も悪いからぱっと視分からなかった。
おかげで人っ子一人いないのが幸いか…
雪の影響でみんな引き籠っているんだろう。誰もいないおかげで私が幽霊に話し掛けてるところ見られずに済んだ。不幸中の幸い、と言うには、寒さと雪という不幸が大きい気がするけど。
これ…早く解決しないと…アタシが凍える…
「ね、ねぇ?何しているの?」
「探し物!」
私が声を掛けると、よっこいしょ、という掛け声と共に元気に返事をしてくれた。一瞬、子供は元気だなと思ったけど、幽霊だから寒さも関係ないかと思い直す。
「お姉さんは何者?」
「何者って…私は三葉茜。高校生だよ。あなたは?」
「知らない人に名前言っちゃいけないって、お母さんと先生が言ってた」
まさかの防犯意識…!?
何者か聞かれたから普通に名前を教えて聞き返すと、まさかの返答が返ってきた。こんな子に罠に掛けられるなんて思ってもいなかった。だけどここで引き下がると成仏させる目的が果たせない。
「いやぁ…私は名前言ったし、あなたの目的も知ってるから、知らない人じゃないんじゃないかな…?」
「んー……?そっか!」
素直か…
私はなんとも理由にならない説得を試みた。それこそ不審者のようだけど、目の前の女の子はしばらく考えたのちに、考えを放棄したかのような顔で頷いた。それはそれで心配になるけど、今は考えてもしょうがない。
「あたしはた…横屋小恋亜!小さな恋の亜種で、ココア!」
…?亜種…?
「小恋亜ちゃんかぁ…良い名前だね」
一瞬詰まったのとずいぶんと斬新な説明の仕方に疑問を覚えたけど、可愛い名前なのは間違いないからとりあえず褒めることにした。最近の子はずいぶんと横文字に近い名前が増えたもんだとも思う。
「うん!美味しいし!」
「うん…?」
「ココア美味しい!」
「あ、飲み物の方ね」
話が飛んだ…
独特な気に入り方なのか、それとも素で言っているのかよくわからない。というか、小学生くらいの子の思考はなかなか読めない。幽霊含めて知り合いの小学生を思い浮かべても、男の子の方はまだ分かるけど、女の子は分からない気がする。
あれ…私…小学生男子並み…?
軽くへこんだ。
「ところでお姉さんは何してるの?誘拐?」
「誘拐はしたことないし、今後含めてする予定はないよ」
「そうなんだ!意外!」
待って、私はこの子にどう見られているの!?
私が自分の女子力は小学生にも届かないのかと悩んでいると、不思議そうに小恋亜ちゃんが質問してきた。質問内容にも驚いたけど、その後の返しにはもっと驚いた。私は小恋亜ちゃんから不審者に見られているのだろうか。
いやまぁ…傍から見れば何もないとこに声掛けてる不審者だけどさ…
それを小恋亜ちゃんが考えてるとも思えないし、純粋に私が不審者に見えるのだろう。それはすごくへこむ。
「と、ところで…小恋亜ちゃんは何を探していたのかな?」
へこんでいても仕方ないから、私は気持ちを切り替えて未練と思えるものを聞いた。小恋亜ちゃんの今までの突飛な思考から、全く無関係の可能性がなくはないけど、今のところ手掛かりはこれしかない。
「ここあ!」
「はい…?」
えっ…?この歳で自分探し…?それとも飲み物…?
自分の名前を指しているのだとしたら、小恋亜ちゃんが物凄い闇を抱えている可能性が出てくる。不意に、明るいのに闇を抱えてた女の子の幽霊と姿が被った。
待て…早とちりは危険だ…
飲み物を指しているのだとしたら、単純に意味がわからない。まさかココアがそのまま雪に埋もれてるわけじゃあるまい。ココアの缶でも埋めたのだろうか。
冬前に餌埋めて場所を忘れたリスかっ…!
「えっと…どういう意味かな?」
「あ、噛んだ」
考えても埒が明かないから聞き返すと、単純に間違いという答えが返ってきた。色々考えた時間も返して欲しい。
「えっとね…心!」
「うん、もっと意味がわからなくなったね」
ついに普通にツッコミを入れてしまった。だけど入れたくもなる。訂正されて返ってきた答えが哲学染みてたら、誰だってツッコミを入れたくなるはずだ。
「わから…ない?」
「え…いや…うん…私にはちょっとわからないかなぁ…?」
そんな、何でわからないの?みたいな顔されても…
私のツッコミ衝動はさておき、若干目を潤ませながら首を傾げてきた小恋亜ちゃん。そんなことをされてもわからないものはわからない。私には考えてることが全部わかる超能力者みたいな力はない。
「そっか!お姉さん、思ったより頭悪いんだね!」
おぅ…ナチュラルな悪口…
目を潤ませていたかと思えば、にぱっと笑ってストレートに罵倒された。最近の小さい子は恐ろしいな。無邪気な分、心にくるものがある。
「えっとねぇ…ハートの形した雪の結晶を探してるの」
「あ、なるほど。それで心」
「そういうこと!」
いやわかるかっ!
しょうがないといった表情で、小恋亜ちゃんは親切にも説明してくれた。一応納得出来たけど、初見でそれを理解しろと言うのはハードルが高過ぎる。高校生はそんなに理解力があるわけじゃない。
「私も一緒に探してあげようか?」
「いらない!」
即答されたっ!?
とりあえずそういうことならと、私が協力を申し出ると、満面の笑みで断られた。流石に悲しい。へこむどころか心が折れそうだ。
「ど…どうしてかな…?」
「知らない人と遊んじゃいけないって、お母さんと先生が言ってた」
ここで防犯意識が再燃した!?
理由を聞いてみると、さっき聞いた台詞を言われた。それについては解決したと思ったのに、まさかここで繰り返すはめになるとは思わなかった。
「えっと…知らない人ってわけじゃないと思うんだけどなぁ…なんて…」
「じゃあ誕生日は?」
「えっ…?四月四日…」
「住所は?家族は何人?貯金はどれくらい?好きな食べ物は?将来の夢は?長所短所は?友達は何人?彼氏は何人?」
多い多い多いっ!てか彼氏は何人って何!?いても一人じゃない!?いないけどっ!
私はまた同じく警戒を解こうとしたけど、今度はやたらと個人情報を聞いてきた。言わないで成仏の手伝いが出来なくても困るから、仕方なく私は全部答える。
「えっと、これでいいかな?」
「うん!」
「じゃあ手伝ってもいいかな?」
「ううん。通報する」
「いや待って?」
凄いなこの子…泣きたくなるんだけど…
個人情報を丸裸にされたあげく、出来上がったのが信用じゃなく不審者情報。誘われた先が落とし穴だった気分だ。
「そもそも、幽霊だから通報は出来ないんじゃない…?」
「あ」
「今気付いたのか…」
ただ一つ言うとすれば、この子は幽霊だ。電話を持てないから当然通報も出来ない。警察に駆け込んでもほぼ無意味。僅かな可能性としては幽霊を視れる警察官がいることだけど、どのみち幽霊に来られても困ると思う。
「お姉さん、頭良かったんだ!」
「そこで評価を修正されても、素直に喜べないな…」
さっきストレートに言われたことを再評価された。正直喜ぶべきところなのか微妙なラインだ。どこで評価されてるのか本当に読めない。
「ところでお姉さん」
「何?」
「幽霊でも使える電話とか持ってる?」
「持ってないし、多分世界中どこにもないと思うよ」
「そっかぁ…」
通報を諦めてないのか…てか持ってても渡さないよ…通報されたくないし…
私に対して改まった様子で声を掛けてきた小恋亜ちゃん。あまりに自然な感じで聞かれたから驚く隙もなく普通に答えた。仮にも通報する相手に聞くのは、なんとも豪胆な気がする。
「あのさ、小恋亜ちゃん」
「どうしたの?」
「仮に、仮にね?私が不審者だとして…」
「やっぱり不審者なの?」
「だから仮にだって。もしもの話」
「そっかぁ…」
私は小恋亜ちゃんを説得するべく、仮定の話を試みる。何となくツッコまれる気がしてたから驚かなかったけど、案の定話を止められた。本気で残念そうにしないで欲しい。
「でね?小恋亜ちゃんは幽霊なわけでしょ?」
「うん」
「そしたらさ、私は小恋亜ちゃんを触れないわけだから、何も出来ないよね?」
「あれ?そうなの?」
「あ、言ってなかったか。私、幽霊とお話出来るだけなんだよ」
「そうなんだ!よかったぁ」
私の不審者説は継続中かぁ…
私が説明していなかったのも悪かったけど、ようやく小恋亜ちゃんは警戒を解いてくれたらしい。だけど心底安心したような顔をされた。いつになったら小恋亜ちゃんは私が不審者じゃないと理解してくれるだろうか。
「だからさ、小恋亜ちゃん。私にもハートの雪の結晶探すの手伝わせてくれないかな?」
「んー………そこまで言うならしょうがないなぁ…特別に手伝わせてあげる!」
「よかったぁ…ありがと」
苦渋の決断そうなとこと、上から目線のとこを除けば本当に良かった…
何とか小恋亜ちゃんの警戒心を最大限解き、手伝いにこぎつけることが出来た。ようやくスタートラインに立てたと言っても過言じゃないけど。
「それじゃあ一緒に探そっか」
「うんっ!」
そうして私は、小恋亜ちゃんと一緒に大量の雪の中からたった一つの形を探し始めたのだった。
◯◯
公園でハート形の雪の結晶を探すこと約二時間。未だに近い形の物すら見つからずにいる。と言うか、そもそもハート形の雪の結晶なんて出来るのだろうか。ここまでくると少しばかり不安になってくる。
いや…弱気になっちゃダメだ…
「寒い…」
多分寒いせいで心が弱くなっているのだろう。きっとそのせいだ。さらに言えば雪も少し強くなってきている。相変わらず吹雪いているわけじゃないけど、量が多くなってきた。
静かだなぁ…
人は相変わらずいなく、物静かだ。小恋亜ちゃんも一生懸命探してる、と言うか埋もれているし、暗くなってきた雰囲気もあいまって、より一層静かに感じる。雪が音を吸収するって話もあるけど、本当かどうかは分からない。だけどただ静かと言う事実だけがある。
けど…やっぱり見てるだけが一番だなぁ…
温かい部屋の窓からこの景色を見ていたい。欲を言えばその環境下でアイスを食べたい。温かい部屋で幻想的な景色を見ながらアイスを食べる。この季節の一番の贅沢だ。
「お姉さん、何考えてるの?」
「アイス食べたいなって」
「正気?」
「正気だけど…って、ごめん。考え事してて手が止まってたね。またすぐ探すよ」
私の思考が飛んでいると、いつの間にか小恋亜ちゃんが近くに来ていて不思議そうに私を見つめていた。飛んだ思考のまま返事をしたら正気を疑われたけど、これは私が悪い。すぐに反省して雪の結晶を探し始めようとした。
「お姉さん、待って」
「ん?どうしたの?」
「もう…いい。探すのは、もういい」
「え…ちょっと、ホントにどうしたの?」
だけど小恋亜ちゃんに止められて、私は何事か聞いた。すると小恋亜ちゃんがハート形の雪の結晶探しは止めると言ってきた。一瞬、手が止まってたことと不審者疑惑のせいで解雇になったのかと思ったけど、雰囲気からするとなんとなく違う気がする。
「だって…見つからない…」
「それは…ほら、まだ探し切れてないだけかも…」
「でもいい。どうせもう、意味がない」
ちょっ…え?ホントにどうしたんだろ…?
急な態度の変化に、私は俯く小恋亜ちゃんに掛ける言葉が見つからなかった。別に私に不満があるという様子でもない。小恋亜ちゃん自身が諦めている様子だ。
「あたし、お母さんに何もしてあげられなかった。先生にも、何もしてあげられなかった」
「小恋亜…ちゃん…?」
「お姉さんの言う通り、あたしはもう幽霊だし、雪の結晶を見つけても、あげることも出来ない」
「私が代わりに渡すよ?」
「どうやって?どうしたら信じてくれるの?あたしが見つけたって、信じてくれるわけないよ」
何が起きて気持ちが変わったのか、それがわからない。元々気が変わり易い子ではあったけど、一体何が引き金になったのだろうか。
「正気じゃないのは、あたしの方だよ」
そういうことか…
多分、正気か聞いてきたのは、私に対してじゃなくて自分に聞いたのかもしれない。もしくは、私が正気だと言ったから、自分が正気じゃないと思ってしまったのか。もし後者なら、迂闊に喋ったことを取り消したい。
とにかく今は小恋亜ちゃんを元気付けなきゃ…!
「信じさせるのは何とかするよ!とにかく雪の結晶を探そ?」
「無理だよ。そもそもハート形なんて出来ないし。お姉さんもわかってたんじゃないの?」
「少し不安になったけど、本気で探してた…」
「やっぱり、お姉さん意外と頭悪いんだね」
真顔で言われると本気でショックなんだが…
後のことは後で考えればいいとして、物がなければ始まらないという事で探すのを再開させて元気付けようとした。だけどそれは失敗。むしろ衝撃の事実が判明してしまった。
「えと…もしかしたらあるかもしれないよ?小恋亜ちゃんが知らないだけで」
「雪の結晶は六角形。構造的にそうにしかならないって先生が言ってた。奇跡でも起きないと無理だって」
せんせぇぇぇ!!?
希望を持たせようとしたのに、まさかの先生が教えているという事態。先生が夢を壊していいのかとも思ったけど、間違った知識を植え付けるのも良くはないだろう。まさに八方塞がりだ。
く…こうなったら…!
「お姉さん?」
「ちょっと待って…」
不思議そうにしている小恋亜ちゃんを一度無視して、私は雪をかき集めて形を整える。これで騙せるとも思ってないけど、何もしないよりはマシだ。諦めるなんてことは出来ない。
「ほらっ!これでどう?」
「どうって…何?」
だから真顔で言われると傷付くんだけど…
私は雪を集めて固めたハート形の雪を小恋亜ちゃんに見せた。けどイマイチ伝わらなかったらしく、首を傾げられてしまった。
「ハート形の雪の結晶……の塊」
「……ふっ…あははっ…お姉さん、それはちょっと無理があるよ…!」
私が改めて説明すると、少しだけ元気になったのか、ようやく笑ってくれた小恋亜ちゃん。どちらかと言えば馬鹿にされているような気がするけど、今は笑ったって言う事実だけを受け入れよう。
「無理でも塊でも、ハート形の雪の結晶には変わりないよ」
「ふふっ…強引だね」
「私の知り合いの神様は、奇跡なんて強引に起こせばいいって言ってた」
「正気?」
「正気じゃないね」
「「あははっ…!」」
私はダメ押しで屁理屈をこねると、意外と気に入ってくれたらしい。それに完全に調子も戻ったようだ。私が神様の話をすると正気を疑われた。正直あの神様は正気じゃないような人だったし、それを今も信じてる私も正気じゃない。だから今度は否定しなかった。
「お母さん…!?と、先生っ…!」
「えっ…!?」
そうして私と小恋亜ちゃんが笑い合う中、雪を踏みしめる音が聞こえてきた。私としては一人で話している姿は見られたくないし、高校生にもなって一人で雪遊びしていると思われるのはもっと見られたくない。かと思えば、小恋亜ちゃんが驚くことを言ってきた。
どちらか一人だったら分かるけど…二人…!?色々大丈夫!?
何が大丈夫じゃないかと言えば、お母さんと学校先生が一緒にいるという構図だ。それは倫理観とか良いのだろうか。無粋にも、いけないことを考えてしまった。
娘を亡くした母親を先生が励ましてるってことなら…いやアウトだな…って違うっ!
「あのっ!横屋さん!」
「はい…?」
え、なんでそっちが向くの…?
私は考えることを放棄した結果、考えなしに小恋亜ちゃんのお母さんに近付いて声を掛けた。つもりだった。なのに何故か返事をしたのは先生の方。しかも小恋亜ちゃんのお母さんはほぼ無反応で、先生が向いたからこっちを見た雰囲気。どういう事だ。
「横屋先生、お知合いですか?」
「いえ…僕は覚えがありませんが…」
ちょっと待って?横屋先生?あぁもうしょうがないなぁっ!
「あの、小恋亜ちゃん…の、先生ですか?」
「「っ…!!?」」
多分小恋亜ちゃんは最初から私を警戒していて嘘をついていたんだろう。本当に抜け目がない子だ。今は先生に当てはまったことだけでも喜ぼう。だからそのまま押し切るように小恋亜ちゃんの名前を出すと、今度は二人とも反応を示した。どうやら名前の方は嘘じゃないらしい。
「あなたは…誰なんですか…?」
「小恋亜さんの知り合い…にしては、少し歳が離れているように思えますが?」
「ほらお姉さん、やっぱり信じないよ」
二人が訝しむように私の方を見つめてきた。その際、さりげなく先生が庇うように前に出て、お母さんの方は頼るように下がる。今はそれを気にしている場合ではなく、小恋亜ちゃんも諦めたように呟いた。
こんな目で見られたこと、今までいくらでもあった…それくらいじゃ私は諦めない…
「見てて小恋亜ちゃん、奇跡を強引に起こすとこ」
「っ…!おねえ…さん…!」
「一体何を…」
「私は幽霊を視ることが出来ます」
「「「っ…!!?」」」
私はわざと二人にも聞こえるように小恋亜ちゃんを呼び掛けた。おかげで先生はより一層私を怪しむように睨んできたけど、先生の言葉を遮って私は幽霊が視えることを打ち明けた。今度は三人が同時に虚を突かれたような反応を示す。
「ふざけたことを言わないでっ!」
「そうですよ。冗談にしてはタチが悪い」
「ふざけてもいませんし、冗談でもありません。私には幽霊が視えて、今ここに小恋亜ちゃんがいます」
小恋亜ちゃんのお母さんが信じられないと言うように叫んで、口調は落ち着いてるけど先生からは怒りを感じた。いつ聞いても悲痛な声は心が痛むし、怒りを向けられるのは怖い。だけど私は、それだけ思っているはずの、確かに今ここにいる大切な誰かを信じてもらえない方が辛い。
だから私は伝える。悪者にされても、気味悪がられても、それが私に出来ることだから。
「そんなの信じっ…ごほっ…ごほっ…!」
「縦谷さん、無理をしないで。退院したばかりなんですから…」
「すみません…」
「どこの誰だか知りませんが、この人を刺激しないで下さい。身体が弱い上に、ただでさえ弱っているのに…!」
そうか…だから小恋亜ちゃんは何もしてあげられないって…
「すいません。それは知らなかったので、そんなつもりはなかったんです。でも、だったら余計に小恋亜ちゃんと話したくないですか?私が通訳になりますが」
「あなたはまだっ!!」
「話したいに決まっているじゃないっ!なんであれ話せるものなら話したいわよっ!!」
「先生…お母さん…」
お母さんを刺激したのは不本意だ。だけど私は素直に謝った。知っていたとしても、刺激していただろう。ならどっちにしろ同じだし、やることも変わらない。
「小恋亜ちゃんは凄いと思います。頭が良い。それにちゃんと見知らぬ人への警戒心が強い。私に名前を言った時、自分を横屋小恋亜って言ったんです。まさか、最初から嘘を吐かれるとは思いませんでした。だから私、最初お母さんの方を呼んだつもりだったんです」
「それがどうしたと…」
「どうもしません。私の知ってる小恋亜ちゃんの話をしてるだけです」
「っ…!?付き合ってられない…」
人の心を弄ぶのを悪魔と言うなら、きっとこの二人には私が悪魔に見えるかもしれない。実際、私は今二人の興味を引くためだけに話をしてる。おかげで、先生は付き合ってられないと言いつつ、その場から去ろうとしない。本当に興味がないなら、何も言わずに立ち去るはずだ。
「じゃあ、先生の知ってる小恋亜ちゃんの話をしましょう」
「何を…」
「ハート形の雪の結晶は出来ない。それを教えたのは先生ですね?」
「っ…」
若干賭けではあったけど、私は先生に一つの質問をした。賭けたのは、小恋亜ちゃんが苗字を借りたことから、話に出てきた先生は全部共通でこの人だろうと思ったから。その賭けに勝ち、先生は正解と言ってるような反応を見せる。
「私、それを知らなかったんですけど、小恋亜ちゃんに教えてもらいました。奇跡でも起きないと無理だって」
「その話を知ってるからって、信じるとでも思いますか?」
「信じてもらいたいから話してるんです。小恋亜ちゃんともう一度話すって言う奇跡を起こす為に」
まずは小恋亜ちゃんのことを信じてもらわなきゃ始まらない。だから私は、小恋亜ちゃんが似た警戒心の強いこの二人を説得しなきゃいけない。
「最初は小恋亜ちゃんもハート形の雪の結晶を探してたんです。小恋亜ちゃん、ハート形の雪の結晶を探してたのは、先生に奇跡を見せたかったのと、お母さんにあげたかったからじゃない?」
「うん…」
「いきなり何を…」
「小恋亜ちゃんはお母さんの身体が良くなることを願ってたんですよ。あたしは何もしてあげられなかったからって。奇跡が起きないと見つからない結晶を探して、それをお母さんにあげて、良くなるように元気付けてあげたかったんですよ」
「お姉さん…やっぱり頭良いや…」
「小恋亜…!」
私はおもむろに小恋亜ちゃんに質問を投げかけた。そうして更に疑いを深めた先生を私は一旦無視して、語り掛ける相手をお母さんに変えた。お母さんの方は思うところがあるのか、少しだけ心が揺れているように思える。
「小恋亜…わたし…小恋亜がいなくなって、自分も死んでもいいかって思って…でもそれに反して段々体調が良くなっていって…もしかして小恋亜が生きてって言ってるのかもって…」
「お母さん…ごめんね…あたし…」
「縦谷さん…」
「横屋先生…奇跡はもう、一つ起きてるんです…一つくらい増えてもいいんじゃないですか…?」
「お母さんっ…!!」
「縦谷さんがそういうのでしたら…」
小恋亜ちゃんのお母さんが顔を覆って、嗚咽を漏らしながら話し始めた。その様子を小恋亜ちゃんが心配そうに見つめていると、お母さんが意を決したように先生を説得する。そして、その言葉を受けて先生も態度を軟化させた。
「お姉さんっ…!お母さんと先生がっ…!」
「うん。小恋亜ちゃん、何か言いたいことはある?」
「えっと…お母さんにごめんなさいって、あと、ありがとうって、それにそれに…」
二人が小恋亜ちゃんのことを信じると、小恋亜ちゃんが興奮したように私を見つめてきた。その様子には、私に最初から嘘を吐いていたような強かさはなく、本当に無邪気な子供だ。私はその様子と一緒に、小恋亜ちゃんの言葉を正確に二人に伝える。そして二人も自分の言いたいことを言っていく。
「それからそれっ…からっ…!」
「小恋亜ちゃんっ…!」
「おねぇ…さん…!」
そうするうちに小恋亜ちゃんの身体が透け始め、宙に浮き始める。奇跡の時間が終わりを迎えようとしている。
「お二人とも、小恋亜ちゃんが成仏します…!」
「小恋亜…!」
「小恋亜さんっ!」
「おかぁさんっ…!せんせぇっ…!おねぇさんっ!」
不意に訪れた最後に、三人ともまだ話したりないと言う顔をしているけど、上手く言葉が出て来ない様子だ。だけど成仏は着実に進んでいく。
「小恋亜っ!わたし、小恋亜の分もちゃんと生きるからっ!小恋亜に良くしてもらった身体で、頑張って生きるからねっ…!」
「小恋亜さん!明るくて素直で少し悪戯好きで、いつも元気をもらっていました!自分の娘にいたらどんなに良いだろうと思っていました!」
二人は視えていないだろうにも関わらず、小恋亜ちゃんに向けて懸命に叫ぶ。
「お母さんっ!先生っ!ちゃんと幸せになって!お姉さんっ!奇跡を先生に渡して!!早くっ!!!」
「えっ…!?あ、うんっ!!」
そんな二人を見て小恋亜ちゃんが私にお願いをしてきた。私は一瞬戸惑うものの、すぐに言う通り、手に持っていたハート型の雪の塊を先生に差し出した。
「お二人に、幸せになって欲しいと。これを先生に」
「「えっ…」」
先生が私から雪のハートを受け取って、二人が同時に固まった。多分、バレていないと思っていたのかもしれない。どういう流れでそうなったのかは分からないけど、二人はおそらくそういう間なんだろう。
「その縦谷さん…」
「はい…」
「僕と…結婚を前提にお付き合いしてくれませんか?」
「っ…はいっ!」
二人は向かい合い、先生がお母さんに雪のハートを渡しながら告白を行った。これも小恋亜ちゃんが起こした奇跡だろう。奇跡は何度だって起こして良いのだから。
「やったぁ!!お母さん!先生!バイバイ!」
「小恋亜ちゃんがバイバイと言ってます…」
「「小恋亜!バイバイ!」」
「茜お姉さんもっ!バイバイっ!!」
「うん、バイバイ。小恋亜ちゃん!」
最後にみんなでお別れを言い合って、小恋亜ちゃんが光になって消えて逝った。
「小恋亜ちゃんが…成仏しました…」
「そうですか…ありがとうございました…本当に…小恋亜と最期に話せて良かったです…」
「最初は疑ってしまい、申し訳ありません。それに、辛く当たってしまいまして…」
「私は自分に出来ることをしただけです。それに疑われて当然ですから、慣れてるのでいいです」
私が成仏したことを告げると、二人が揃って私に頭を下げてきた。だけど私はいつも通りのことをしただけ。出来ることを、したいことをしただけ。お礼も謝罪も求めたわけじゃない。だけど、このタイミングで聞くのもアレだろうけど、どうしても気になることが一つある。
「あの…ところで小恋亜ちゃんのお母さんは…その…ご結婚は…」
「はい…?あ、あぁっ!わたし、シングルマザーなんです」
「あ、そうなんですね…よかったです…」
私は非常に聞きにくかったからなんて聞こうか迷っていると、小恋亜ちゃんのお母さんが察してくれて、自分の事情を語ってくれた。昼ドラ的なものじゃなくて本当に良かった。
だとしたら…小恋亜ちゃんはもしかすると…
なんとなく、最初に名前で嘘を吐いたのは、警戒してとかじゃなくて、そうなればいいなって思ったことなのかもしれない。それを知ることはもう出来ないけど。
奇跡…かぁ…
そんなことを考えつつ、私達は少し収まってきた雪の中を、二手に分かれて帰ったのだった。
第54話を読んで頂き、ありがとうございます!
小恋亜ちゃんの名前はおそらく想像通りの方法で決まりました!
苗字はものすごく適当で、ぱっと思いついたものです。
ついでに言えば、先生とお母さんの関係はかなり後半を書いてから追加で思いついたものです。
つまり最初は普通に横屋だったんですよねぇ…
それでは今回はここまで!
遅れようが読みに来てくださる皆様に最大級の感謝を!
ブクマして頂いてる皆様!
そうでない皆様!
いつも読んで頂き、本当にありがとうございます!
次回の更新は1/31を予定して…ま…す…
頑張ります…はい…
次回もお付き合い頂ければ幸いです!