第51話 普通、普通と言うけど、普通を考えれば考える程、普通とかけ離れる
こんにちは!
明日葉晴です!
投稿予定が1日遅れてしまいました…
本当に申し訳ないです…
予定は言わない方がいいんでしょうか…
反省します…
気を取り直しまして。
今回も1話完結です!
やりたかったくだりをやっただけなので、幽霊にこれといった特徴がありません。
わりと名前つけるのによく迷うんですが、それすらなかったですね。
それでは本編をどうぞ!
私は昔から幽霊が視える。
「私でも怖がる映画ってなんだろ…?」
そんなわけでホラー耐性はマックスな私に、舞が私でも怖がると言う映画を貸してきた。
「やたらスプラッタとか?それは怖いって言うより気持ち悪くなりそう…」
ちなみに音や演出で驚かせるところには驚く。怖いとかじゃなくて身体が反応するのはノーカンだ。
「お前を呪うぞぉぉぉ!!?」
「え?」
「えっ…!?」
まぁ、反応しない時もあるけど。
◯
家の塀をすり抜けて出てきたから確実に幽霊と分かる男の人を、ひとまず神社まで連れて行くことにした。多分、人には視えないのをいいことに遊んでいたのを、いきなり視える私が現れたから驚いたのだろう。さっきから少しだけ気まずそうにしている。
真面目そうな人だけど…幽霊になってはっちゃけた…?
見た目は真面目そうな普通の若めの男の人だ。大学生か新卒くらいの年齢だろうか。それが、「お前を呪う」とか言っていたと思うとちょっと不思議だ。普通は視えないとしてもなかなか言うセリフでもない。幽霊になったから悪戯心が湧いたというところだろうか。
まぁ…話してみればわかるか…
大人しく付いてきたのを視ても、話が通じないわけでもないだろう。もしかしたら未練に関係する話にもなるかもしれない。どのみち話し合うことになるのだからと、私はひとまず置いておくことにした。そうこう考えているうちに、目的地の神社に辿り着いた。
「さて、付いてきてくれてありがとうございます。ここなら人も来ませんし、落ち着いて話が出来ます」
「そう…ですか…」
「…?」
目的地に到着して誰も来ないことを言って話を始めると、男の人は何故か落ち込み始めた。その態度に私に疑問を持ち首を傾げた。
「あっ…あのっ…!」
「はい?」
「僕は…このまま除霊とかさせられてしまうんでしょうか…?」
「……はい?」
意を決したように顔を上げた男の人は、何故か私が除霊をすると勘違いしたようだ。ただいきなりのことに、私は再び首を傾げる羽目になった。当然、私にそんなことは出来ない。
「なんでそんなこと思うんですか?」
「だって…ほら、人を呪うって言っちゃいましたし…悪霊って思われてもおかしくないじゃないですか…」
「あー…」
「幽霊を視れるってことは、そういうことも出来るんじゃないですか…?」
あ、ヤバい。凄い普通の人だ…
私が理由を聞くと、男の人が落ち込んでいた理由が判明した。自分が人を呪ったバツとして、除霊をされると思ったんだろう。だけどなんども言うが、私にそんなことは出来ない。けど凄い普通の感性と普通の思考の為に、私は弁解するのが遅れた。
「やっぱり…除霊って苦しいんですかね…?」
「あー…あの…」
「怖いなぁ…改心しますから、なんとか見逃してもらえませんか…?」
「いや、私、除霊出来ませんよ?」
「え?」
「私は幽霊が視れて会話出来るだけです」
「ええっ…?」
何とか私は男の人の思い込みに割り込んで、私がほぼ普通であることを説明した。私の能力で他人に干渉出来ることは何もない。何も気にしなければ私は普通だ。気にしなければ、の話だけど。
「除霊出来るなら会った時点でやってると思いません?」
「あっ…確かに…でも儀式とか必要?みたいな…ここ神社ですし…」
「ここは使い勝手がいいので、使わせてもらってるだけですよ」
「へぇ…そうなんですかぁ」
「そうなんですよ」
「「あはは…」」
……はっ!?いけない!なんか和んだ!
あまりの自然で普通な会話に、思わずほっこりしてしまった。だけどまったりしている場合でもない。この人が幽霊になってどれくらいかはわからないけど、成仏してもらうのは早いに越したことはない。
「さ、さて。誤解も解けましたし、自己紹介ということで…」
「あっ!はい。僕は田中明です。新卒の中小企業で、営業をやってました」
「ご丁寧にありがとうございます。私は三葉茜です。高校二年です」
「よろしいお願いします」
「こちらこそ」
「「………」」
…お見合いかっ!
なんとか方向修正しようかと思って自己紹介しあったけど、田中さんが丁寧過ぎてまたもやタイミングを失ってしまった。おかしい。もっと丁寧な人やおとなしい人はいたのに、何故か距離の詰め方に困る。
「あっ…あの…ご趣味は…?」
「えっ!?あー…お菓子作りです?」
「それはいいですね」
「あ、ありがとうございます…ってだからお見合いかっ!」
「す、すいません」
「あぁ…いや、私こそすいません…」
やりにくい…
沈黙に耐えかねたのか、田中さんが何故か私に趣味を聞いてきた。突然のことに素直に答えたけど、私は遅れてツッコミを入れた。だけどそれに謝られると、私が悪い気がしてくる。非常に反応に困る。
「えっと…じゃあ…好きな食べ物は…?」
「んっ!?っとー…オムライス…ですかね」
「あぁ、美味しいですよね」
「はい…って違う!」
「すっ!すいませんっ!」
「私も悪いからいいです!」
「えっ!?あっ!はいっ!」
またも私が悩んでいるうちに、田中さんがお見合いのようなテンプレ過ぎて外してる質問をしてきた。それに素直に答える私も悪い。だけどこのままじゃ埒が明かないから、私は空気とか流れとか全部ぶった切る覚悟を決めた。
「あぁっ!もう!私のキャラじゃない!単刀直入に聞きます!」
「はっ!はいっ!」
「田中さんの未練って何ですか!?」
ビシッとしたポーズを決めて、私ははっきりと宣言した。この時点でも私の性格とかに全く合っていないけど、そんなことを気にしている場合でもない。私の羞恥心が限界を超える前に半ばヤケクソで言いきった。
「未練…ですか…?」
「そうです!幽霊になるからには絶対に未練があるんです!それを晴らすお手伝いをさせてください!」
なんかもう…穴があったら入りたい…
不思議そうにしている田中さんを無視して、私は勢いのままに私のお願いを伝えた。冷静に考えれば手伝いを申し出る人間の態度ではないけど、そこも勢いで押し切る。だけど私の内心はとっくに限界を迎えていた。そうでもしないと今すぐ逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
「未練って…なんでしょうね…?」
「え…?」
だけどそんな私の勢いは、田中さんのたった一つの呟きだけですぐさま止められた。ここまで普通を貫いてきた田中さんだから、普通に未練もあるのかと思いきや、意外なところでイレギュラーが出てきた。
「普通、皆さんってどんな未練があるんですかね…?」
「えぇぇ…」
◯◯
田中さんが自分の未練が分からないと考え込んで数十分。その間、私は盛大な啖呵を切った分の反動を受けて、一緒になって考え込んでいた。こんなことになるなら勢い任せにするんじゃなかったと、ずいぶんと落ち込んだ。
いやぁ…普通に未練があるって思うじゃん…真面目そうな人が幽霊になってはしゃいでたら、ストレス的なやつとかあっても良さそうじゃん…
過去にも自分の未練が分からないと言っていた人はいた。その人はその人で、ずいぶんと好きなことをやっていた人だったから、今なら割と納得出来る。だけど田中さんは違うように視える。好きなことを出来ていたわけない、と言うつもりは微塵もないけど、悩みとか願望とか一つくらいあってもいいように視える。
「あの…三葉…さん?」
「なんでしょうか…?っと…」
隣り合って座って、お互いが考え込んでる中で、田中さんが恐る恐ると言った調子で私に声を掛けた。完全に意気消沈してた私は、若干投げやりな態度で田中さんに返事をする。だけど何か思いついたならと期待して、ゆっくり姿勢を正した。
「三葉さんは、他の幽霊も視えるんですよね?」
「はい、そうですね」
「皆さんはどんな未練があったんですか?」
「どんな…」
うー…ん…どんなかぁ…
田中さんの質問に私は首をかしげた。どんな未練か聞かれても、一言で言い表せるようなものでもない。何を言っても言わなくても混乱させる気がする。
そうだなぁ…なんて言うか…
「人それぞれですね」
結局、私は答えになってない答えを出した。そうとしか答えようがないとも思う。
「やりたいことやった人もいれば、やり残したことをやった人もいますし、自分以外の人の為に残ってた人もいます」
「えっ…」
「自分の言ったことを達成出来なくても成仏した人もいますし、なんなら、田中さんと同じように未練がわからないって言った人もいました」
「そう…ですか…」
私がどんな人がいたのかを挙げていくと、田中さんは困ったような表情をした。どんな未練があったか聞いてきたから、具体例を挙げるのがいいのかもしれないけど、なんとなくそれではダメな気がしたからだ。
「私、未練ってどうしても譲れないたった一つの願いだと思ってます。その願いを叶えたり、見つけたりして、心に整理がついたら成仏が出来る。そういうものだと思ってます」
「心の整理…」
「まぁ…私もあまりよくわかってないんですけどね」
私は、今までの成仏の手伝いの中で思ったことを田中さんに話した。どういう形であれ、そこに願いがあったのは確かだと思う。中には私は理解出来なかったものもあるけど、ちゃんと成仏したのならそれはその人にとって大事なことだったはずだ。
「僕にも…あるんでしょうか…?」
「あります。でなければ幽霊になっていません」
考え込む田中さんに、私は断言した。私にも、幽霊について分からないことは沢山ある。だけど未練があることは断言できる。これは私の経験則からとかじゃない。他の人からすれば理由にもならないけど、私にはそう言い切れる理由がある。
神様にだって未練がある。なら、人間にだって絶対ある。
「僕は普通に生きてきました。どこにでもいるような、平凡な人間です。だから、譲れない願いなんてないと思ってたんですけど…」
「普通、自分のホントの願いなんて早々分からないですよ。むしろ、普通だからこそ分かり難いかもしれませんね」
誰だってやりたいことがあっても我慢するときがある。その中に本当にやりたい事とかあっても、他の我慢や、他のやらなきゃいけないことに埋もれて、いつしか見えなくなっているんだと思う。それが普通なんだと思う。
というか…
「自分で言ってなんですけど、普通って何でしょうね…?」
「普通は…普通じゃないですか?みんなと同じ…」
「私は普通だと思いますか?」
「えっ…と…はい…普通だと思いますが…」
「みんなとは違う能力がありますよ?」
「そう言われると…」
私は、自分で散々田中さんに思っていたはずのことを疑問に思った。哲学みたいなことを、初めて本気で思った。私の質問に田中さんが戸惑う。それでも私は質問するのを止めなかった。
「私は昔から…多分今でも普通じゃないって言われると思います。田中さんは、そんな私をどう思いますか?」
「それは…その…」
「私は自分を普通だと思ってます。幽霊が視えるとは関係なく、私は普通です」
ずっと私が思っていたこと。私はどんなに普通じゃないって言われようが、自分が普通だと思ってる。幽霊とも出来るってだけで、出来ることは視て話すだけだ。
「雑な言い方をすれば、視て話せる相手が普通じゃないだけです」
「そう言われると…そうですね…」
「いきなりですけど、例えばすごく頭が良くて、運動神経も良くて、お金持ちで、育ちも良くて、見た目もいい人がいたとします。その人は普通だと思いますか?」
「いや…普通じゃない…と思います…」
「私もそう思います」
私はものすごく極端な言い方をした後に、軽く小夜のことを思い浮かべながら田中さんに質問した。こんな時に思うのもおかしいけど、小夜のステータスはだいぶ普通じゃないと思う。
言ってなんだけど、私よりよっぽどおかしくない…?いや、そんなことを考えてる場合じゃないか…
「じゃあその人と話が出来る人はみんな普通じゃないってことですか?」
「そんなことはないと思いますけど…ぁ」
私の質問に答えた田中さんは、おそらく私の言いたいことに気付いたんだろう。答えた後に、小さく息を漏らすように納得したような声を出した。
「私は、その人と話が出来るみんな。と同じようなものなんです。少なくとも、私はそう思ってます」
「………」
私の話を聞いて、田中さんはすごく考え込んだ様子を見せた。いきなりこんな話をされても困るかもしれないけど、普通ってことに困ってるように視える田中さんには、必要な話だと思えた。それに、私も自分で話してすっきり出来た。改めて普通だと思えるようになって良かった。
「その理屈だと…」
「はい…?」
「その理屈だと、普通じゃないのは僕ってことになります…よね…」
「あー…まぁ、幽霊だから…今は少なくとも普通じゃないと思います」
「そうですか…」
また深く考え込んだ様子を見せた田中さんが、おもむろに口を開いて私に質問してきた。確かに私が言った話だと、極端な話、今の田中さんは普通じゃないってことになる。あくまでどちらかと言えばの話だけど、それでも田中さんは何か納得したように呟いた。
「田中さん?」
「僕でも…普通じゃないことってあったんですね…」
「え…?」
私が不思議に思って声を掛けても、一人で確かめるようにまた呟いた。それが切っ掛けなのか、田中さんの身体が透け始める。
「なるほど。心の整理って、こういうことなんですね」
「どうしたんですか…?」
「なんて言えばいいかわからないんですけど…知らないうちにあったモヤモヤが晴れたと言うか…晴れて初めてあることに気が付いたと言うか…」
「モヤモヤ?」
「はい。それがなくなった感じです。いつからあったかはわからないんですけど…」
そうなんだ…初めて知った…
一人納得している田中さんに私はどうしてか聞くと、未練の内容じゃなくて今の心境みたいなのを話した。今まではお別れを言うのとかで精一杯で、向こうもそうだっただろうから聞いたことのない話だ。
それって…もしかして…?
「僕は普通なんだと思ってました。平凡で、 それでいいってたはずなんですけど、知らないうちに嫌になってたんですね…」
私の気付いたことはさておき、田中さんが自分の心の内を語った。それは誰もが思っていそうで、気付けそうにないことな気がする。
「田中さんは…私の会った幽霊の中では、変わってる方ですよ」
生きてる内に会っていれば普通だったかもしれないけど、幽霊なら別だ。普通に悩んでる幽霊なんて、そうそういないだろう。
「それは…良かったって言っていいんですかね…?」
「それで迷うのがまた変わってると思います」
「あはは…」
私の評価に、困ったような笑顔で聞き返した田中さん。やっぱりそれは私の会ってきた幽霊の中では変わってるほど、普通過ぎる反応だと思う。
「生まれ変わるなら、もうちょっと変わりたいですね」
「私は別に、今のままでいいです」
「変わってますね」
「よく言われます」
結局、普通とはって答えなかったけど、そこには触れずに田中さんは光になって消えていった。なんとなく、最後のやりとりが答えに近いような気がする。
ま、普通が一番だよね。
そうして、私は普通の家族が待つ、普通の家に帰るのだった。余談だけど、舞から借りた映画はホラー映画ではなく、普通の人達が繰り広げる愛憎劇で、変わった意味で怖かった。
第51話を読んで頂き、ありがとうございます!
ホントにありがとうございます…
意識して特徴を出さないって結構難しいなって思いましたね。
気を抜くと特徴がなくなってるのに、意識すると難しいって言うと、なんかそれっぽく聞こえますね。
ちなみにやりたかったことは最初と最後に集約されてます。
ただ舞ちゃんが悪戯を仕掛けただけです。
それでは今回はここまで!
遅れようが読んで頂いてる方々は神様的な人でしょうね!
感謝申し上げます!
ブクマして頂いてる皆様!
そうでない皆様!
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
次回の投稿予定は12/20を予定します!
……言いたいことはわかりますが頑張ります!
また次回もお付き合い頂ければ幸いです!