第42話 我が道しか行かない娘とその母
こんにちは!
明日葉晴です!
公約通り何とか今日も投稿しました!
今回は舞ちゃんの過去のお話です!
普段はアホっぽい舞ちゃんですが、一番ミステリアスな部分が多いかもしれないですね。
あと今回は小夜ちゃんのお母さんが再登場!
私、結構小夜ちゃんのお母さんの性格が好きなんですよね。
それでは、本編をどうぞ!
ウチには両親の記憶がない。
「小夜と出会ったんはこの山や」
「そうなんだ」
正確には幼い頃、小夜と出会う前の記憶がない。
「そんで、ウチの記憶もそこからしかないんや」
「…うん」
せやからこれはウチにとって、ウチとして生まれてからの記憶に違いあらへん。
◯
side.舞《過去》
「あら。ここはうちの敷地なのだけれど、貴女は一体誰なのかしら?」
誰や…?
声を掛けられたんに気付いて目を覚ますと、目の前に人形みたいな顔立ちの子がおった。凛としていて、でも脆そうな、ガラスの人形のような子や。そんな子がウチのことを怪しいもんを見る目で見とった。
「アンタこそ誰やねん」
「確かに名前を名乗るなら自分からが基本だけれど、この場合は適用されないわね。ここはうちの敷地で貴女は不審者。どう考えても貴女から名乗るべきね」
「アンタの敷地…?」
どう考えても幼い子が自分の敷地やと言う方が怪しいんやけど、ここで問答してもしゃあない。ここは一つ話を進める為にウチが折れることにした。
「ウチは……?」
ウチは…アレ…?
「貴女は?まさかここまで言って名乗れないのかしら?」
「わからん…」
「は…?」
「ウチは…誰や…?」
自分の名前を言おう思た時、ふと気ぃつく。ウチはウチのことが分からん。名前も素性も、なんでこんなとこにいるんかも。何もかも分からんかった。
「言い訳にしてはお粗末ね。それとも本気で言ってると言いたいのかしら?」
「ウチは誰や…?ここはどこや…?なんでおんねん…?」
なんや辛辣なことを言われたような気ぃするんけど、ウチはそれどころやなかった。完全にパニックになっとった。せやのに、考えることを止められん。それが余計に混乱を招いて、完全にドツボや。
「ふぅん…」
「誰や…?どこや…?思い出せん…?わからん…!」
「落ち着きなさい」
「あだっ!?」
ウチが混乱しとると、頭に衝撃が走った。叩かれたんと気付いたんは、目の前の子が手刀を作ってたんで分かった。見た目の割に乱暴な手段に出る子やと思うと同時に、頭ん中が冷静になったんを感じ取れた。けど痛いもんは痛い。
「痛いやん!」
「私も手が痛いわ」
「そら自業自得やろ!?」
「ついでに心も痛いわ」
「涼しい顔で言われても説得力あらへんわ!」
ウチが文句を吐くと、当たり前のように言い返された。全く以て理不尽にも程があるその言い様は、それでも圧力があって納得させられてまうような力があった。せやけどウチは騙されん。徹底抗戦や。
「てかパニクっとる人間普通殴るか!?」
「貴女が普通じゃないからいいじゃない」
「せやな!でもおかしないか!?」
「お菓子はないわ」
「誰も茶菓子のことなんざ言っとらんわ!」
「冗談よ。自分のことだけじゃなくて、人とのコミュニケーション手段も忘れてしまったの?」
「このタイミングで冗談抜かすもんにコミュニケーションを説かれたないわ!」
この短時間でこの子が普通の感性をしとらんのは理解出来た。初対面の、しかも混乱しとる人間に、チョップかますもんを普通やと思いたない。自分のこととか思い出せんが、そこまでの感性まで忘れたんと思いたない。
「それで、貴女は誰なの?」
「ここでなんでもっぺん聞いたんや!?分からん言うとるやろ!?」
「ふぅん…貴女は自分と自分周辺のことだけが分からないわけね。意思疎通には問題なさそうだもの」
「せやな!そんで少なくともアンタよりは意思疎通出来とる思うな!」
「そうね…どうしようかしら」
「ウチに聞かんといて!?自分で努力しぃや!」
「私の意思疎通能力は問題ないわ。そうではなくて貴女のことよ」
「……は?ウチ?」
あまりにも自分本位な会話やったけど、どうやら一応ウチのことを考えとったらしい。正直最後の発言だけは怪しいと思うが、それ以上にウチのことを考えとったことに戸惑った。
「えぇ。流石に本気で困っている子を揶揄う趣味は持ってないわ」
「お…おぉ…?」
「まぁ、貴女の反応が多少面白いと思ってしまったことも事実ではあるのだけれど」
「ほぉ?それは喧嘩売っとんか?売っとんやな?」
「それも加味して貴女に手を差し伸べてもいいと判断するわ」
「なんやこれ…素直に頷けへんのやけど…」
言っとることはめちゃくちゃ。せやのに至極真面目そうにそう言ってのける子。簡単に崩れそうな見た目しとるクセに、徹頭徹尾態度を崩さん芯を持っとる不思議な子。不思議なんに、その不思議な異様さが自然で似合っとるのが、妙な説得力と魅力を放っとって、信じる気持ちになってもうた。
「それで?貴女はどうするの?」
「せやな…ここで問答してもなんも分からんし、頼むわ」
「賢明ね。その面白さと賢さが貴女の価値よ」
「アンタに言われると褒められとる気ぃせぇへんわぁ…」
「気のせいよ」
改めて聞いてきたこの子に、ウチはとりあえず乗っかることにした。今は頼るもんが必要なんは、何も思い出せんウチに断る選択肢はない。一言余計なんがどうにも引っ掛かるが。
「あぁそうそう。大切なことを忘れていたわ」
「なんや?」
「私の名前は志那崎小夜。短い間かもしれないけれど、よろしくお願いね」
「お…おぅ……わかったわ、小夜。よろしくな」
「………」
不意に、全然大切そうにも思えない程度の気軽さで、自ら名乗った小夜。初めは妙な言い回しで頑なやったのに、簡単に名乗ったことに戸惑うもウチも挨拶を返した。すると何故か知らんがようわからん顔で見つめられた。
「なんや?」
「いえ。存外悪い気はしないと思っただけよ。気にしないで頂戴」
「…?そうか」
ウチが用を聞くと、聞いても分からん事を返してきた。そんでも言われた通り気にせんことにして、なんも分からへんウチは、小夜について行くしか無いんやった。
◯◯
小夜に連れてこられたんが、山小屋と言うにはいささか豪華な、事件でも起きそうな別邸とも言えるような建物やった。
あ…そもそもウチの記憶無いんが事件や…
「さて、お母様は心配してないでしょうけど、帰って来れて良かったわ」
「おっとぉ?二人で迷うパターンも合ったんか?」
「敷地内の散歩が長引く程度よ」
「敷地内の規模を考えぇや…」
小夜がなんや第二の事件の可能性を匂わせつつも、ウチのツッコミを無視して別邸に入ってく。山を敷地内という発言も、この別邸に迷わず行く様子を見ても、ええとこのお嬢なんが分かる。
ま…長い物には巻かれとこか…
「あらあら小夜!お帰りなさい!散歩にしては長いわよー?」
「ただいま戻りました、お母様。微塵も心配してないようで何よりです」
この母あって、この子ありやな…
「だって私の子よ?運に見放されるわけないわ!」
「そんな不確かなもので我が子を見放さないで下さい」
ぐう正論やな…
親の記憶がないウチでも、このオカンが普通やないんが感じ取れる。ただ小夜の容姿と纏う雰囲気がオカンとよう似とる。性格は全く似とらんようやけど。
「ところでそっちの可愛い子は?どこで拉致したの?」
「迷わず犯罪と思うのはどうかと思います。あと、わさび畑の奥の崖の下です」
「あらそう…なんで入れたのかしら…?生えてきた…?」
「現実的にあり得ないでしょう…」
ウチもそう思う…
「やんっ!小夜冷たいわ!でもそんなとこが好きよ!」
「どんなとこやねん!」
あんまりにも漫才を続けるもんで、堪えきれずにツッコミをいれてもうた。二人とも自分を貫き過ぎやねん。
「あら、ようやく喋ってくれたわね!」
「お母様へ躊躇なく指摘出来るなんて、やっぱり面白いわ」
「どこまで我が道行くねん!」
そんでもウチのツッコミをガン無視して、自分のペースで喋る二人。そんなとこばっか似ぃひんでもええやろと思う。
「自分の人生、自分の道しか行けないわよ!」
「そないな壮大な話しとらんて!」
「お母様、彼女は…」
「小夜のお嫁さん?」
「なんでそうなんねん!?」
「二人とも話を聞いて頂戴」
「「…はい……」」
「もう…」
…あれ?なんでウチも怒られとんの…?
なおもボケ続ける小夜のオカンに、ウチがツッコミを入れた。見兼ねた小夜が説明しようとするも、それすらボケられツッコミを入れると、小夜から冷たい声が聞こえてきた。それによってウチと小夜のオカンは同時に黙り、小夜がため息を吐く。
「彼女は記憶がないそうです。言語、思考に問題がなく、自分にまつわるもののみ消失しているようです」
「あら…そう…そうだったのね」
小夜の説明を聞いて、途端に笑顔が寂しそうになった小夜のオカン。寂しそうな、けれどもどこか安心を覚える微笑みのまま、ウチに近付いてきてゆっくり抱き締めた。
温かいわ…
「今きっと、あなたは自分が寂しいかもわからないわよね…」
「ぇ…あ…」
「自分がわからない、感情も、存在も、わからない。ただ一つ分かるのは、どうしようもない不安だけ…」
「ぁ……ぅ…あっ…」
引き込まれていく。小夜のオカンの言葉の一つ一つで、ウチがさっきまで見ようとすらせんかった暗闇に、引きずり込まれてく。息が上手く出来んくなってく。温かい闇が、ウチを飲み込む。
「落ち着いて。不安と向き合うのは、怖くないわ。それは未知。知らないままなら怖いけど、知ろうとすれば楽しくなるものよ」
「あっ…はっ…はぁ…」
「私は知ってる。あなたが可愛いこと、元気なこと、優しいこと。あなたは何を知ってる?」
「ウチ…は…」
…うちは………
(ま……。ふつ…まい……ね…)
まい…?
(こっち………わ…。ひたち……)
ひたち…?
暗闇の中、なんとか聞き取れた言葉を頭ん中で反芻した。それで辛うじて名前と取れるものを取り出す。
「まい…?ひたち…?」
「それが、あなたのお名前?」
「わからん…でも、そう聞こえた気ぃする…」
「まい、ひたち…ひたちまいかしら?」
「もしもし、小太郎さん?私、私。何?愛する妻の声も分からないの?」
「お母様、こんな時までお父様を揶揄わないで下さい」
ウチがフワフワした感覚で単語を言うと、それを名前と判断して小夜のオカンが動き出した。小夜のオカンがどこかに電話するとすかさずボケて、小夜がツッコんどった。ウチはそれを少し夢見心地な気分で見守った。
「そうね、イチャイチャするのは二人の時にしましょ?もう、照れないで。それで小太郎さんにお願いしたいことがあるの」
「全く…相変わらずね…」
相変わらずなんか…
小夜のオカンと電話してんは多分小夜のオトン。小夜がその様子を見ていて呆れとる。こんなんを日常的にやっとるって、小夜のオトンももしかすると相当なんやろか。
「うん。ひたちまいって女の子。小夜と同い年くらいで関西弁の子。行方不明とか捜索願とか出てないか調べて。え?ご褒美?うふふ、もちろん…あぁん!……もう、照れ屋なんだから…」
「お母様、あまりお父様を揶揄うのはよして下さい。私の教育に悪いです」
「小太郎さんも満更じゃないのよ?少し照れ屋なだけで」
「話を聞いて下さい」
あぁ…小夜のオカンが都合良く解釈しとるだけか…
「さて。じゃあ呼び方に困るし、仮にまいちゃんと呼ばせてもらうわね?」
「そうね。呼び方がないと困るもの」
「大丈夫…です」
小夜の文句を総無視して、小夜のオカンがウチに向き直って改めて聞いてきた。そのころにはさっきまでの浮遊感も消えていて、意識がはっきりしてきていた。
「まいちゃん…まいちゃん…うん!可愛くてピッタリね!」
「あ…ありがとう…ございます…?」
まだそうと決まったわけでもあるまいに、小夜のオカンがまるでそれで決まっているかのようにそう言った。ウチはどう反応したらええか分からんかったけど、とりあえずお礼を言っとくことにした。
「そうそう、私の名前は志那崎香夜。ここにいる可愛い可愛い小夜の母親よ。よろしくね」
「よろしく…お願いします…迷惑掛けます」
「んぅ…!ダメっ!固いわ!さっきまでの調子でいいのよ?」
「わ…わかったわ」
「うんうん!いいわねぇ!小夜もこのくらい気軽に接して欲しいのだけれど…」
「無理です、お母様。各方面に怒られてしまいます」
「今くらいならいいじゃない…もう…小太郎さんに似て頭が固いんだから…素敵よねぇ…」
どっちや…
今更やと思うがウチが態度を改めると、香夜さんがようわからんとこで文句を言われた。ウチもそっちの方がええから甘えさせてもらうと、香夜さんが今度は小夜に文句を言うた。小夜はそれをしれっと流すと、香夜さんが何故かうっとりする。ようわからん人や。
「その…小夜…?」
「なにかしら?」
「あー…いや…香夜さんて普段からこうなん?」
「そうよ。そして私の母親だけれど、全く分からないわ」
「お…おぅ…」
ウチが小夜のことを躊躇いながら呼ぶと、小夜はなんも気にせんと応じてきた。なんでド直球に質問すると、小夜が匙を投げたようなことを言ってきた。ウチが言うんもアレやけど、よくこの人と結婚しよ思たな、小夜のオトン。
「あ、そうそう。御飯にしましょ?お腹すいたでしょ?」
「そう言えばそうですね。まいもそれでいいかしら?」
「せやな…なんか混乱しとって気付かへんかったけど、言われるとそうやわ」
「なら決定ね!さあさあ!食堂にいきましょー!」
そんなわけで、香夜さんに押されながらウチは小夜達に保護される形になったんやった。
◯◯◯
side.茜
「てなわけで、ウチと小夜、そんで奥様に出会ったんや」
「そうなんだ…なんて言うか…そんなことがあったなんて、想像もしなかった」
舞はそうして小夜と出会った昔話を区切った。舞から語られた話は、今の舞の性格からは想像もできないほどに壮絶だと思った。例えば私に過去の記憶がなかったとして、こんなに明るく振舞うことは出来るだろうか。
「そらそやろ。自分から言いふらすことやないし、記憶ない人間なんて、幽霊より少ないんちゃう?」
「そうかもしんないけどさ…」
「せやからそう落ち込むことないねんて!」
私がありきたりなことを言うと、あくまでも明るく冗談めかす舞。そのことに私は心が軽くなるのを感じつつも、やっぱり複雑な気持ちだ。
「それで…小夜のお父さんとお母さんに舞の事を調べてもらってどうなったの?」
「まぁ、ウチが小夜んとこいるんで大体察しはついとるやろけど、なぁんも分からんかった」
「そっ…か…」
確かに予想はついてた。今の話を聞いてまだ小夜のとこにいるってことは、舞のことが分からなかったか、舞の両親に何かあったか。今回は前者の確率のほうが高い。
「舞は凄いね…」
「凄い?」
「そんなことがあったのに、いつも元気で明るいじゃん」
「あはは…ウチかて最初からこうやったんと違うよ」
私は過去の嫌なことから立ち直れてないのに、多分私より辛いはずなのに元気な舞を見てそう言うと、舞は少しだけ苦笑しながら否定した。
「ウチがこうして元気なんは、やっぱ小夜と奥様のお陰やな」
「小夜と小夜のお母さん?」
「せや。そしたらまだ時間ありそうやし、さっきの続きも話そか…」
そうして、舞はまた自分の過去の話を始めるのだった。
第42話を読んで頂き、本当にありがとうございます!
舞ちゃんの過去の話はまだ続きます!
次回は舞ちゃんがどうしてオカルト好きになったかって話になっていきます!
あとそろそろ気付いた方もいるかもしれませんが、この舞ちゃん編で幽霊を挟む余地があるのかってとこですね。
小夜ちゃん編でちょっと話しましたが、舞ちゃんの話は小夜ちゃんとの通しで考えた部分もあるので、幽霊が二編にわたってたんですよ。
なので今は別内容で考えてもいます。
上手くまとまりそうなら次回かその次に出てくる予定ですが、出てこなかったら、あ、上手くまとまらなかったんだなって思って下さい。
先にまとめとけよって話なんですけどね…
それでは今回はここまで!
こんなグダグダなのにお付き合い頂いてる皆様に最大級の感謝を!
ブクマして頂いてる皆様!
そうでない皆様!
いつも読んで頂き、本当に嬉しく思ってます!
次回の更新は8/23を予定してます!
これからも引き続きお付き合い頂ければ幸いです!




