第3話 天才は何をしても天才だけど、能力が高いほど難がある
こんにちは!
明日葉晴です!
ゴールデンウィーク連日投稿!
皆さんの周りに天才…でもなくてもいいんですが、スッゴい有能な人っていますか?
私も友人にスペック高い人がいるんですけど、時々、こいつやっべぇなぁって思う時があります。
具体的なエピソードはまた気が向いた時にでも。
では、本編をどうぞっ!
私は幽霊が視える。
「ふぅ…」
今もそこに私と同じくらいの歳の制服を着た女子が、公園の花を見つめていた。
「はぁ…」
憂い気な瞳、艶めいたサラサラの長い黒髪、透き通るような白い肌に端正な顔立ち。はっきり言って美人だ。
美人薄命ってホントなのかな…
と、ついつい見惚れてしまったけど、とりあえず確認しなければ始まらない。だから声を掛けることにした。
「あのー…あなた、生きてますか?」
〇
とりあえず確認が取れたところで、私はそのまま人気のない公園で話をすることにした。
「私は三葉茜。あなたは?」
「私は城崎弥生と申します」
おぉ…お嬢様っぽい…
私は久々のまともっぽい幽霊に感動した。
「私は高二で、すぐそこの共学のとこに通ってるんだけど、あなたのその制服ってあの女子校よね?」
「はい。私も高校二年でした」
「えっ?ホント!?タメじゃん!」
「ふふっ。そうですね。出来れば生きているときに知り合えたら嬉しかったのですが…」
「あっ…そうだね…ごめん…」
しまった…まともっぽい人でタメってことでテンションが上がったけど、向こうは死んでしまってるんだった…
「いえ、お気になさらず。なってしまったものはしょうがありませんし」
そう言って、弥生さんは微笑んだ。死んでるということも相まって、とても儚げだ。
「ありがとう。お詫びと言ってはあれなんだけど、成仏する手伝いさせてくれないかな?未練とかあるでしょ?」
申し訳なさもあるけど、元々成仏させる気でいたから丁度いいと思い、未練を尋ねた。
「未練…はい。あります」
「何?聞かせて!私に出来ることなら何でもするよ!」
「いえ…でも…言ってもしょうがないですから…お気持ちだけ受け取ります」
そう言って、弥生さんは申し訳なさそうに顔を伏せた。
「そんなこと言わずにさ!私がダメでも他の案が浮かぶかもしれないし、言うだけ言ってみようよ!」
私はめげずにさらに詰め寄る。成仏しないなんてダメだ。
「いえ…本当に大丈夫ですから…私はこのまま幽霊として残ります」
「ダメっ!!そんなの絶対ダメだよっ!!」
幽霊として残る…?そんなことが永遠に可能なら、私だってこんなにも必死にはならないっ!
「幽霊として残り続ける事なんて出来ないのっ!あんたはそれがわからないかもしんないけどっ!私は知ってるの!」
成仏出来なかった幽霊の末路を…もう絶対に見過ごせない…
「でも…」
「でももだってもない!これだけ言ってもわからないのかっ!この馬鹿っ!」
「っ!」
私が詰め寄り叫ぶと、弥生さんは、はっと息を呑んだ後顔を伏せた。
あっ…やばっ…言い過ぎた…?
やがて弥生さんの肩は震えだした。そして…
「あぁっ!素晴らしいですっ!」
頬を上気させ、恍惚の表情を浮かべながら叫んだ。
「は?え?何?どうしたの?」
「私決めましたっ!茜さん…いえっ!ご主人様にお願いがございますっ!」
「ご主人様ぁ!?」
「私を…ご主人様の下僕にして頂けませんかっ!?」
「えぇぇぇぇっ!!?」
あ、この人やっべぇ…!
私はそう思いながら、絶叫したのだった。
〇〇
「ごめん。ちょっと驚いて…と、とりあえず、なんで下僕になりたいか聞いていい?」
叫んでしばらく呆然とした後、私は我に帰って理由を聞くことにした。
「すいません…私も取り乱しました。理由は茜さんが怒鳴った時にびびっときたからです」
「違うそこじゃない」
「あぁんっ!」
私は聞いた意図と違う部分を言われたからすかさず睨んで否定すると、弥生さんは嬉しそうに頬を染めた。
マジでヤバい人だ…
「なんで下僕に…というか、ご主人様を探してたのか聞いてるの」
今度はちゃんと伝わるように言い換えて理由を尋ねた。
「あぁ…その苛立ちを含んだ口調…投げやりな言い方…いいです…」
聞いちゃいねぇ…
「ねぇ?聞いてる?」
「あぁっ!…はっ!申し訳ございません!聞いてます!ありがとうございます!」
「お礼はいいから早く」
「いいっ…!」
「それはいいので早くしてもらえませんか?」
話が進まないから、私は出来るだけ笑顔で丁寧に言ってみた。
「あんっ!笑顔で丁寧なのにひしひしと伝わるプレッシャー…最高ですっ!」
もうどうやってもダメか…しょうがない。
「命令よ。早く理由を言いなさい」
「ありがとうございますっ!理由はですね…私はそれなりに格式のある家柄に産まれまして、厳しい教育を受け育ちました」
ふむふむ…まぁ見ればなんとなくわかる。
「私はそこ環境の中で、一応及第点を頂けるくらいには勉学や習い事に励み、褒められて成長してきました」
多分この場合の及第点は私からしたらかなり優秀な方だろうな…
「しかしある時に気付いたのです…何か物足りないと…」
ん?
「私は初め、努力が足りないと、もっと向上が足りないのだと錯覚していました」
錯覚したままで良かったんじゃない?
「それでも物足りなさを感じていた私は、同じクラスの生徒が怒られている時に気付いたのです…私は叱られたことがない。と…」
いいじゃんっ!それでいいじゃんっ!
「そこから私は少しずつ失敗を重ね、私が叱られる様に仕向けてきました」
なにしてんの?ホントに…
「しかしその失敗も、体調不良を気遣われたり、時には一周回って大成功に転じたりして、なかなか私を叱ってくれる人はいませんでした」
失敗が大成功にって…天才かよ!?
「だから私は無条件に叱ってくださる、ご主人様を求めるようになったのです…」
発想が飛び過ぎてついていけない…なんなの?天才って大体こうなの?理解出来ないわー…
「だから…だからっ!茜様が私の初めての方なんですっ!」
言い方を変えろ!言い方をっ!しかも様って!
「どうかお願いですっ!私のご主人様になって頂けませんか!?」
私には荷が重いっ!
両手を胸の前で組み、上目遣いで私を見つめる弥生さん。これが愛の告白なら女子の私でもきっとドキドキしただろう。だけどこれは違う。なんか違う。
でもなー…これが未練ならやるしか無いんだよなー…
成仏出来ないよりマシ。私はそう思い、腹をくくった。
「わ、分かったわ…やってあげる…」
「本当ですかっ!?ありがとうございますっ!」
老若男女落とせるだろう輝いた笑顔を浮かべた弥生さん。中身はド変人だ。
私に出来るだろうか…
私は遠い目で夕焼けを見つめるのだった。
〇〇〇
「ところでご主人様ってなにすればいいの?」
私は弥生さんを連れて公園から神社に場所を移し、内容を聞いた。正直な話、いつ人が通るかわからない公園ではなにもしたくない。
いや…ご主人様にもなりたく無いんだけど…
「はいっ!私に命令をくださり、遂行しても褒めず、貶して下さればなんでもいいですっ!」
そのご主人様像、だいぶ歪んでない!?
「命令…っていっても弥生さん、幽霊だしなー…」
「私のことは、弥生さん、ではなく、どうぞメスブタ、メスイヌ等とお呼び下さいっ!さん付けなんて丁寧過ぎますっ!」
注文付けてきた上にハードルが高いっ!
「う、うん…考えておくから…」
と、いい掛けて私はふと思い付く。
「んんっ!…誰があんたの言うことなんて聞くの?あんたを喜ばせるだけの呼び方なんてしないわ。とりあえず今は弥生でいいわ」
これなら言いたくない呼び方をしなくても済む。
「あぁっ!素晴らしいですっ!やはりご主人様は私の見込んだ通りの方っ!」
どうやら効果覿面だったようだ。ついでにご主人様も止めてもらおう。
「ふんっ!誰があんたのご主人様になると言ったのよ!私のことは茜と呼びなさい!」
「はうっ!はいっ!茜様っ!」
ちっ…様は取れなかったか…あ、なんか心が荒んできた気がする…
「まぁいいわ。許してあげる」
「あ、あぁ…ありがとうございます…!」
私は努めて不機嫌そうな顔をしながら次々と言った。とりあえずこの方向性でいいようだから、私は方針を固めた。
で…問題は命令かー…んー…とりあえず…
「まずあんたがどれだけ私に従順か確めさせてもらうわ。その場で三回回って、イヌの様にワンと鳴きなさい」
「は、はいぃっ!」
もうよくわかんない。とりあえず思い付く命令がこれしかなかった。
そして弥生は華麗なターンを見せて三回回った。
「わんっ!」
そして可愛らしく吠える。
なにこれちょっといいかも。美人ってなにやってもいいなー…って、これじゃダメなのか。
「ふ、ふんっ!ダメね!もっと無様に回って、情けなく鳴きなさいっ!やり直しっ!」
割りと可愛かったことに動揺しながらも、私は再び命令を出した。
「あぁんっ!申し訳御座いませんっ!すぐにやり直しますぅっ!」
最初にちょっとやらしい声出すの止めて欲しいんだけど…これは多分どうしようも無いんだろうな…
そんなことを考えていると、弥生は手を地面に付けてよつん這いになった。
待って待って!そこまでする!?私はもっとよたよたした回り方で良かったんだけどぉっ!?
私の心の叫びも虚しく、弥生はよつん這いのまま、回り始めた。
「あおぉぉぉん!」
鳴き真似うめぇぇ!
三回回り終えると、ビブラートを聞かせた素晴らしい鳴き真似を披露してくれた。
なにやらせても天才なの…?
「はんっ!無様でお似合いじゃない。いっそ犬でもなった方がいいんじゃない?」
「あんっ!無様で卑しいメスイヌで申し訳御座いませんっ!」
そこまで言ってねぇよっ!?くっ…本当に荒れてきた…洗脳されそう…まさかそれが狙いかっ!?
段々演技ではなく、心まで乱暴になって来たことに疑念を持った。でも私には幽霊を成仏させるという選択肢しかない。
もうどうにでもなれ!
「次の命令よ!私を楽しませる為にそこで踊りなさいっ!」
「んんぅっ!仰せのままにっ!」
そしてはたまた華麗なステップでダンスを披露した。なんだか劇場の様に見える。
なんだろう…一回スペックの高いの見なきゃダメなの?わざと?
「いっ!如何でしょう!?」
「ダメっ!あんたみたいなのにはそんな優雅なダンスは似合わないわ!もっと見苦しく、目も当てられない踊りにしなさい!」
「やぁんっ!申し訳御座いませんっ!やり直しますぅ!」
そう言うと弥生は木に近付き、身体をそっと寄せた。そしてその瞬間なにをするか予想がついた。
ダメダメダメダメっ!それ以上はダメっ!なんかよくわかんないけどダメな気がするっ!
「待って…待ちなさい!あんたの見苦しい踊りなんて見たくなくなったわ!見る価値もないからやめなさいっ!」
一瞬素が出たけど全力で、かつ止めてくれるように命令した。
「うぅ…かしこまりました…」
なんでちょっと残念そうなの!?けど素直で助かった…
ここでひねくれて、叱られたいが為に続行したらどうしようかと思った。本当に今のはギリギリだった。何がとは言えないけど。
「あんたに落ち込む権利はないの!次は…」
そうして次々に命令を出し、弥生を喜ばせていった。正直、もうどちらがご主人様かわからない。
確かに命令してるのは私なんだけどなぁ…
命令してるのか、命令させられてるのか。まぁそれももうどうでも良くなっていた。
〇〇〇〇
そうして命令し続けてしばらく、弥生の身体が透け始めた。
あぁ…成仏出来るのか…
「茜様…そんな顔をなさらないで下さい…」
自分でも終わりが来たことを悟ったのか、弥生は少し寂しそうな顔をしながら、それでも私を気遣った。
「弥生に気を遣われたくなんかないわ。あんただって酷い顔してるわよ?」
「ふふ…申し訳御座いません…茜様に無様な顔を晒してしまって…」
「ふん…元々無様よ…もう見慣れたわ…」
嘘。とっても綺麗な顔だと思うよ。
そう思うも、私は弥生のご主人様を続ける。
「ありがとう…ございます…」
やがて弥生の身体は宙に浮かび始めて、終わりの時を見せつける。
これで…終わりかな…
「弥生…最期の命令よ…大人しく…大人しく逝きなさいっ!」
私は最後に振り切り、毅然とした態度で言った。
「はい…はいっ!失礼を承知で先に逝かせて頂きます!」
「ふん、それくらい出来て当然ね」
私は涙を見られない様に顔を背け言い放つ。
「はい…これくらいしか出来ない、無能な私をお許し下さい…」
無能って…なんでも出来てたじゃない…
「……さようなら、弥生」
「……はい…さようなら…茜様…私の…たった一人のご主人様…」
そう言った瞬間、弥生は光となり消えていった。
「……はぁ…」
逝っちゃった…
出来れば生きていたときに会いたかった。それはどの幽霊にも言えることで、それでもきっと幽霊じゃなかったら会えなかった。
おかしな話ね…
不思議な一期一会の縁。どれも大事な縁。
弥生とも普通に会いたかったな…あんたのご主人様になんてなってあげない…私の下僕になろうなんておこがましい…普通の友達がお似合いよ…
「ふふっ…」
私はもうあり得ない出会いを胸に抱いて、家に帰った。
第2話を読んで頂き、ありがとうございますっ!
普通に見せ掛けてド変態な弥生ちゃんでした!
弥生ちゃんは前回の白虎くんより先に思い付いたキャラなんですけど、跳流ちゃんの後はちょっとな…って思って3話目での登場でした。
えー…次回、4話目にして幽霊が登場しません!
次回は茜ちゃんの日常回をお送りします。
では引き続きお付き合い頂ければ、幸いです!