第20話 逃げる足取りは重く、心残りは深く
こんにちは!
明日葉晴です!
今回から小夜ちゃんのお話です!
大体4、5話くらいになる予定です。
今回はプロローグみたいな感じでちょっと短めですが、小夜ちゃん視点になるので変わった雰囲気で読んで頂けると思います。
合わせてサブタイトルの雰囲気も違いますね。
てなわけで、本編をどうぞ!
私は幽霊を信じてはいないの。
「小夜、珍しく一人?なら一緒に帰らない?」
「ええ、構わないわ。茜」
私のメイドは幽霊を始め、オカルト全般は信じているし、この子は幽霊が視えるという。それを否定する気はないのだけれど、私は幽霊を信じる気はないの。
「茜も珍しいわね」
「美和は今日、家族でご飯食べに行くんだって」
「……そうなのね…」
この子の親友であるあの子も幽霊を信じているのだったわね。そう思うと、幽霊を信じている人が多いようにみえるのだけれど、多分、大多数の人が私のように幽霊を信じていないと思うわ。
「そうそう小夜、ご飯で思い出したんだけど、この間美味しそうなお店見つけたから一緒に行かない?」
「そうね…ええ。大丈夫よ」
「よしっ!行こ行こ!」
だって…幽霊を信じてしまったら、後悔を抱える人はもっと辛くなるのだから。
〇
私と茜は二人で放課後の帰り道を並んで歩く。幽霊が視えるというこの友人は、時々とても眠たそうにして学校に来る時があるけれど、今日は比較的に元気そうだったわね。
「茜、それで今日はどこへ行くのかしら?」
「多分、フランス料理のお店…」
「なんで自信ないのよ…」
先程、舞に食べて帰ると連絡したから、私の夕食は用意されないでしょうけど、これでフランスのお菓子のお店だったら困るわね。
「大丈夫。看板にはフランスの国旗が描いてあったから!」
「確かにそれでイギリス料理が出てきたら驚くけれど、それだけで判断するのもどうかと思うわ」
察するに、店名がフランス語で読めなかったのかしらね。しょうがないと言えばしょうがないわ。
「それで、目的のお店はどこなのかしら?」
「もうちょっと先だよ。オシャレなとこだから小夜も気に入ると思う」
「あら、それは楽しみね」
同じ美術部で分かったのだけれど、この子はなかなかに良い感覚を持っているの。人の好みを見つけるのが上手いと言えばいいのかしら。残念ながら絵のセンスはまだまだだけれど。この子が勧めてくるものは大抵外さないから、今回も私の好みに合うのが期待できるわね。
それが料理の味に期待できるかは別なのよね…
「あ、あそこあそこ」
「へぇ…確かに良さそうなお店ね」
白を基調としたシンプルだけれど全体的に整っていて質素な感じはしない。洗練されているというのが正しいようなお店ね。
「でしょ?店長さんもいい人なんだよ」
「店長さんと知り合いなのに料理は食べてないの…?」
「あはは…話せば長くなるんだけど…」
「ストップ。まずはお店に入りましょう?」
「そだね」
話が長くなるという茜を遮り、私はお店に入るように誘導したわ。立ち話が疲れるからというのもあるけれど、そもそもの目的は食事なのだから。
「こんにちはー」
「いらっしゃい。おや、君はいつだったかの…」
「どもです。約束を守りに来ました」
「今日はお客さんなんだね。それに…貴女は…!」
「あら、聖さんじゃない。お久しぶりね」
「お久しぶりです。お嬢」
茜が挨拶しながらお店に入ると、そこにいたのは私も知っている、健康的な黒い肌と体つきをした人。阿澄聖さんだった。
「あれ?知り合い?」
「ええ。彼は私が高校に上がるまで私のうちで料理をしていたのよ。まさかここにお店を出していたとは知らなかったわ」
「お嬢。一時期はお世話になりました。お陰様で自分の店を持つことが出来ました」
「もう雇っていないのだから、その呼び方はしなくていいのよ?」
「お嬢はお嬢ですから。恩もございますし」
「そう…好きにすればいいわ」
顔は濃いけれど、暑苦しさを感じない爽やかな笑みで私を懐かしい呼び方をする聖さん。人が良いと言うか、義理堅いというのかは判断がつかないわね。
「待って。ついていけないんだけど」
「彼はうちで働いていた。それだけよ」
「そのウチって、会社とかのウチじゃなくて家って意味だよね?マジのうちだよね?」
「今更驚くのかしら?舞もうちで働いてると言ったわよね?」
「言ってた。知ってる。だけど驚くよ?」
確かに私の家は一般的とは言い難いけれど、使用人がいれば料理人がいてもおかしくはないと思うのだけれど。想像力というか、発想の違いなのかしら。
なおも信じられないといった表情の茜。その茜を見ながら聖さんは私に近づいてきて耳打ちをしてきた。
「お嬢。彼女には舞さんが働いているのは言ったんですか?」
「ええ。成り行きだけれど大丈夫よ。全部は言ってないけれど、信用できるわ。大事な友人だもの」
「そうですか…変わられましたね。よかったです」
私の言葉を聞いて、安心したような、どこか意外と思うような顔になった聖さん。確かに中学までの私とは変わっていると思うから、そう思うのもわからなくもないわ。
「おっと。立ち話が長くなってしまいましたね。失礼しました。お席にどうぞ」
「ええ。久しぶりに聖さんの料理を頂くわ」
「しつれいしまーす」
「ごゆっくりどうぞ」
結局、お店に入ってから立ち話してしまったけれど、これで料理の味も保証されたわね。聖さんの料理は文句なく美味しい。本当のところ、やめて欲しくは無かったのだけれど、彼は言っていたようにお店を持つのが夢だったらしく、私が今の高校に行くきっかけと同じでうちを止めて行ってしまったわ。
まぁ…楽しそうだからよかったのかもしれないわね。
そのあと、私達は聖さんの作る料理に舌鼓を打ちながら、茜が聖さんのお店に来るきっかけを聞いた。聞けば意外でもなく幽霊がらみだったけれど。食後にお茶を飲みながら少しだけゆっくりした後、私と茜は聖さんにお礼を言って帰って行った。
〇〇
帰宅。私が家の門の近くまで行くと、分厚い鉄製の身の丈を超える扉が、私が帰ってきたのを計ったかのように自動で開き始める。私はそれになんの疑問も持たずに門をくぐり抜けて、左右が綺麗にガーデニングされたアプローチを歩き家の玄関に近づくと、これも私の足が止まらないよう開き始める。こちら人の手で開かれたもので、開いた人物はさっきまで一緒にいた茜も知っているうちのメイド、舞だった。
「おかえりなさいませ。お嬢様」
「ええ、ただいま。何か変わったことはあったかしら?」
仕事中の舞は普段とは違い、張り詰めた糸のような雰囲気をもっていて標準語になる。いつもの軽く明るい態度からは全く持って想像つかないほどに冷たい印象もあるわ。
「旦那様がご帰宅されました。お嬢様が戻り次第、執務室に来るようにと」
「…そう…わかったわ」
お父様。その単語だけで気が重くなる。仲が悪いわけではないわ。ただ、私から見れば何を考えているか分からず、その上厳しく育てられてきたために、勝手に苦手意識を持っているだけの話ね。
久しぶりに帰ってきて、何の用かしら…
普段は自分の会社に閉じこもっているお父様。ここ二年ほどでは帰ってくる頻度もめっきり減っていて、三か月に一回帰ってくれば多い方ね。さらに言えば、帰ってきても私に会わずにまた会社に行くことの方が多いわ。
おかげで余計なことを気にしなくていいのだけれど…
使用人はほとんど帰ってしまっている時間で、誰もいない長い廊下は静か。舞は別の仕事があり、私一人の足音が冷たく響く。やがて指定された執務室にたどり着き、私はノックをする。
「誰だ」
「小夜です。お父様」
「入れ」
入室の許可をもらい、私は一息おいてから静かにドアを開けた。正面に大きなデスクがあり、その背後には大きな窓から裏庭が一望できる。書類が山積みになっているデスクには、せわしなく書類に目を通しているお父様の姿があった。
「舞から呼んでいると聞きましたが」
「あぁ。用がある」
お父様は書類から目を離さずに、厳しい見た目通りの硬い声で私に告げたわ。
「最近、学業の成績が芳しくないようだが?」
「成績は維持しております。芳しくないというのは些か語弊があると思うのですが」
何かと思えばそのことなのね…
「維持、では困る。お前はもっと上に行ける素質があるというのに、進学校でもないただの公立校で成績を維持するだけで満足されては困る」
あぁ…この話の流れは読めたわね…
「やはりお前を…」
「お言葉ですがお父様」
私はお父様の話を遮り、次の言葉を封じた。
「その話はもう終わったはずです。成績に満足されていないようなら上げれば済むのですよね?ならば一言、成績を上げろとだけおっしゃってください」
「違う。私は…」
「何が違うというのですか?成績に満足されていないのですよね?でしたら解決策は先ほど私が言ったことのみです」
なおも食い下がるお父様に対し、私は突き放すように言葉を畳みかける。そして私は話は終わりとばかりに踵を返し、ドアに手を掛けた。
「これまで以上に勉学に励みますので、ご心配なさらず。おやすみなさい」
そしてお父様の顔を見ずに逃げるように執務室から出ていき、私は早足に自分の部屋へと戻って行った。
〇〇〇
自分の部屋に戻ると、私は制服のままベッドに体を沈め、深く息を吐いた。
また…逃げてしまったわね…
早く話を終わらせたいがために、子供が駄々をこねるのと同じく、言いたいことだけ言って自分勝手に逃げてしまった。終わった話を蒸し返そうとするお父様も悪い。そう思ってしまうのは、自分が子供だからなのかしら。
それでも…昔より押し付けてこないのは、約束があるからなのかしら…
譲歩するのが大人で、逃げるのが子供だというのなら、私は紛れもなく子供なのでしょうね。そんな自己嫌悪に陥っていると、私の部屋にノックの音が響いた。
「どうぞ」
「失礼します。お嬢様、制服にしわがついてしまいますので、せめて着替えてから休まれて頂けませんか」
恭しい態度で舞が入ってくると、私の体勢に苦言を呈してきた。学校とは全く逆の立場ね。
「今は自然にしていいわよ」
「では…落ち込むんなら着替えてからにしてくれや。誰がアイロン掛けるとおもてんねん」
「それが貴女の仕事でしょう?」
「自然なしわと無理にできたしわ、後者の方が直り辛いんやで。笑い皴はええけど、苦労皴はダメやねん」
「わかるようでわからない例えね」
雰囲気は元通りに戻ったけれど、やっぱり注意されてしまったわ。なかなかない機会だから、少し新鮮で気が幾分かまぎれたわ。
「また旦那様と喧嘩したんか?」
「喧嘩…ね。どちらかが謝って済むのなら、楽なのだけれど」
一方が押し続け、一方が逃げ続けている状況は、果たして喧嘩と言えるのかしら。正確な言葉は出ないけれど、喧嘩ではないように思うわ。
「ウチも、小夜と旦那様との今の状況はわかっとるよ。拗れた原因も含めてな?」
「そうね。舞も他人ごとではなかったものね」
「せやで。そやから抱え込まんと、ウチにも相談してな?」
「ええ。ありがとう」
今は…その気持ちだけで充分よ…
「それはそうと、そろそろ着替えてくれへん?ウチも仕事終わらして、休みたいんやけど」
「そうね。しわになったら大変だものね」
「ウチがやけどな!?」
舞の突っ込みを聞き流しつつ、私は部屋着に着替えて舞に制服を渡す。舞はそれを受け取ってから廊下に向かう。
「それでは失礼しますが、ご無理を為さらぬ様。お休みなさいませ」
「ええ。おやすみなさい」
仕事の姿勢に戻った舞は、言葉を告げてから部屋を出ていった。舞がいなくなった途端、なぜだか部屋の中が寒く思えた。
ホントに…子供ね…
一人になった部屋で、私はベッドの上で膝を抱えた。
「お母様…私は…間違っているのでしょうか…」
呟いたところで答えは返ってこない。知っていても声に出さずにはいられなかった。二度と返ってこない答えを、私は何よりも求めているのだから。
第20話を読んで頂き、ありがとうございます!
小夜ちゃん編初回、めっちゃ重くなりましたね。
まぁこうなることを予期して前回まで明るくいったんですけど、カバーしきれないですね。
ちなみに小夜ちゃんのお家は、別に危ない自由業とかではなく普通に会社の偉い人です。
次回は茜ちゃん視点に戻ってお話を進めていきます!
それでは今回はここまで!
ブクマして頂いてる皆さん!
そうでない皆さん!
いつも感謝してます!
次回の更新は11/24になります!
またお会いできるのを楽しみにしております!




