第16話 今時料理は男でもやる。それだけ重要な能力だということ。相手の胃袋を握りつぶすのは誰だ
こんにちは!
明日葉晴です!
今回はいつもより少し長めになってます。
私は料理が得意ではないです。
漫画のように鍋から火を噴きださせることはできませんが、アルミホイルを電子レンジに入れたことはありますね。
あれは危険なのでやめましょう。
それでは本編をどうぞ!
私には幽霊が視える。
「………」
今も目の前に、顔を伏せて体育座りをした人が電柱のそばにいた。
「…………」
ずっと観察していても埒が明かないので声を掛けようか。
「あの…すいません…生きてますか…?」
「………寝かせてほしい…」
「…起きてください」
〇
私が必死に呼び掛けること数分。ようやく顔を上げてくれたその人は、髪の長め男の人だった。触ろうとしたら触れなかったから、幽霊であることは確定した。
「すごく眠いんですけど…?」
「その前に幽霊って眠れるんですか?」
「現に俺は寝ていたんですが…?」
「あ…それはすいません…じゃなくて!」
不思議そうに頭を傾けながら、眠たそうな目を私に向けてきた。顔を向けられてわかったけど、整った顔立ちをしていてイケメンと言っても文句のない顔をしていた。
「なんでこんなところで寝ているんですか?」
「だって…他にやることないですし…?」
「いや、ほら、未練とか…?」
「未練…未練ですかぁ…」
「あ…あのぉ…」
「はぁ…」
私が未練を尋ねると、あからさまに落ち込んだ様子で体育座りで立てていた膝に、顔を沈めた。
うわぁ…聞いちゃまずかったかな…
「そりゃあ未練もありますよ…?でもこんな幽霊の体じゃあ何もできやしないじゃないですか…だったらここでひっそりと寝ていたほうがいいじゃあないですか…」
うわぁ…拗らせてんなぁ…
「えっと…私にお手伝いとかってできないんですか…?」
「お手伝いぃ…?」
「は…はい…」
男の人は疑わしそうに私のことを見てからため息を一つ吐いた。
「手伝っても無駄ですよ…いまさら孝行したくなってもさぁ…喜ばせることなんかできないんですよ…」
「孝行…」
「そぉですよ…孝行ですよ…無理でしょう…?」
うーん…確かにそれは私が代わりにやったとしても難しいだろうなぁ…
「うまいもん食わせたくて料理人になったってのにさぁ…」
へぇ…この残念なイケメン、料理人なんだ……ん…?料理人…わかった…!
「じゃあ料理を届けましょう!」
「はぁ…?」
私が自信ありげに言うと男の人は、意味不明だというように私を見た。まぁこの説明だけではわかるまい。
「私があなたのレシピで料理を作って、それを食べてもらうというのは!?」
「いや…仮にそれやったとしますよ?どうやって俺のレシピと信じてもらうんですか…」
「あ…えっと…あなたの名前は?」
「坂巻満太」
「坂巻さんの名前出して、弟子と言うことに…」
「いや無理あるでしょ…」
「ですよねー…」
く…いい案だと思ったんだけどなー…
「だから俺はここでひっそりと寝て永遠に…」
「それはさせません」
私は坂巻さんのやろうとしたことを強く止める。
「な…なんですか…」
「永遠に幽霊でいることはできないんですよ」
「そんなの…」
「わかります。私は…永遠に幽霊でいられないことを知っているんです」
「っ…!」
私の強い姿勢に押されたのか、坂巻さんが僅かに息を飲んだ。
「なら…なおさらいいでしょ…じっとしてても成仏できるな…」
「駄目です。アレは……成仏じゃない…」
私は思い出したくない過去を必死に抑えながら、それでも必要な情報だけを坂巻さんに伝えようとした。
「仮に…私の知ってる最悪な最期が成仏なんだとしても…私は笑顔じゃない成仏を、成仏とは認めない…認めたくない…」
「…………」
「だから…その…」
私の言葉にじっと耳を傾けているみたいだけど、私は言葉の先を繋げないでいた。
「はぁ…わかりました…」
「え…?」
「俺も…いつになるのかわからないものを待つよりかは、さっさと成仏したいんで方法を考えますよ」
坂巻さんため息を吐きながらゆっくりと立ち上がって、歩き出した。
「…!はい!考えましょう!」
私は大きく頷きながら、少しだけ怠そうに歩く坂巻さんの隣に並んで歩くのだった。
〇〇
「そういえば、私名乗ってませんでしたね。三葉茜って言います」
「そぉですか。どうも」
「それで…どこ向かってるんですか?」
「俺の職場です」
「え…?なんで?」
なぜにいきなり…?
私が純粋に疑問をぶつけると、坂巻さんは不機嫌そうに私の方を見てきた
「いや…三葉さんが俺のレシピ使って料理しようって言ったんでしょ?」
「えっ…と…それは却下の案では…?」
「代案があるならそうしますが?」
「…ないです」
「なら、やってみるしかないでしょ…ダメな時にまた別な方法を考えればいいんですよ」
「なるほど…」
トライアンドエラー。坂巻さんは考えこそ後ろ向きだけど、別に失敗が嫌なわけではないんだろう。後ろ向きというか、やる気がないだけというか。
「でも…職場にどうやって入るんですか?」
「それもさっき三葉さんが言ったでしょ…」
「あー…弟子…」
「そ」
なんて言うか、さっき却下された案が、逆にどんどん採用されてなんだか釈然としなかった。が、確かにそれ以外方法が思いつかなかなかったので黙っておいた。
さっきまでの態度は本当にやる気がなかっただけなんだろうか…
そんな疑いもあったけど、どっちにしろ未練を晴らすことに前向きになったのなら、私としては嬉しい。
「逆に言えば、俺が突っ込んだとこは突っ込まれる可能性があるわけだから、なんか言い訳考えといてくださいよ」
「はい…」
厳しい指摘に落ち込みつつも、一定の速度で坂巻さんの隣を歩く。そして、一軒のお店の前で坂巻さんは足を止めた。
「ここですよ」
「ほぉ…」
建物は白色で、入り口を含む正面がガラス張りのお店。ウッドデッキのテラスはシェードがあって雨でも使えそう。店内も大部分が板張りになっていて家具類も全体的に黒と白で統一されていて、カウンターは茶色の落ち着いた雰囲気のお店だった。店名であろう看板の文字は読めなかったけど、フランスの国旗が書いてあったから、フランス料理のお店なんだろう。
「入りますよ」
「えっ!?ちょっ…心の準備…」
私の制止もむなしく、坂巻さんはお店へと入っていた。
えぇい!ままよ!
私は腹をくくってガラス張りの扉を開け、お店の中に踏み出した。
「いらっしゃい」
カウンターから声を掛けてきたのは、髪の毛を全部後ろにもっていき一括りにしている渋めの男の人だった。健康的な黒い肌に引き締まった筋肉が見えていて、料理人には見えない。
「あ…えっと…私は料理を食べに来たんじゃないんです…」
「へぇ…それならなんの用なんだい?」
堂々と料理が目的じゃないと宣言した、明らかに怪しい私に対しても柔らかい笑みを崩さずに、男の人は優しい口調で私に問いかけてきた。
「私は三葉茜って言います。えと…坂巻さんの知り合いで…ここで働いていたって聞いたので来たんですけど…」
「そうか…満太君の…」
弟子と言うのはなんとなくためらって、私が坂巻さんの知り合いだと告げると、男の人は寂しそうに目を伏せた。
「それで…ここに坂巻さんのレシピがあると思うんですけど…」
「…?レシピ?んー…彼の私物はまだ少し残ってると思うけど…何に使うんだい?」
「坂巻さんの両親に渡したいと思いまして…」
私がそう言うと、男の人は笑みを崩し、疑わしそうな目を向けてきた。
「ん?彼の両親はもういないはずなんだけどな?」
へ…?ちょっとまって?それは聞いてないよ!?
「君…本当に彼の知り合いなのかい…?」
そうなりますよねぇ!?
「あ…えと…その…」
依然と疑わしそうな目を向けてくる男の人に、ただならぬ雰囲気を感じたのか、何人かのお客さんがこっちの方を見てきた。
やばいやばいやばい…!!
どうしようか迷って内心パニックになっている私のところに、店の奥から坂巻さんがやってきた。
「遅いんですけど…」
「そんなこと言われても…!」
顔を伏せて小声で坂巻さんに事情を手短に話した。
「あー…うまいもん食わせたいの、俺のばあちゃんですから」
それを早く言えよ!
そう叫びたいものの、そんなことできるわけもなく私は顔を伏せ続けた。
私のミスで…未練を果たせなくなったら…
私はそう思うと、自然と悲しくなってきた。
「ふむ…なんか事情があるのかい?」
何も言わなくなった私に男の人はそう言ってきた。それに対し、私はただ頷くことしかできなかった。
「んー…正直、君のことは疑わしい」
ですよね…
「だけど、なんだろうね、君に悪意があってきたようには思えないんだ」
「そ…れは…ない…です…」
恐る恐る顔を上げると、私のことを真っ直ぐ見透かすような瞳と目が合う。私はそれを真っ正面から見つめ返した。
「ふむ…わかった。ちょっと来てくれるかい?…済まないけど少し任せたよ」
私に付いてくるように言った後、もう一人いた店員さんに指示を出してから店の奥に歩き出した。私はそれに黙って従い歩き、その後ろを坂巻さんが付いてきたのだった。
〇〇〇
いくつか扉を経由してたどり着いたのは、事務所のようなとこだった。私はその部屋の一つの椅子に座るように促された。
あぁ…ここで警察くるの待てってやつかな…
「コーヒーはいるかい?ミルクと砂糖も」
「ふぇっ!?は、はい…頂きます…」
「どうぞ」
私が内心諦めていると、入ってきた時と同じような優しい声で私に飲み物を差し出してきてから、正面にすわった。
えーっと…なんだろ、この状況…
「さて、私の自己紹介がまだだったね。私は阿澄聖。この店の店長をやっているよ」
「店長さんでしたか…」
「あぁ。それで、君をここに呼んだ理由なんだけど」
「警察が来るまで待たせる為ですか?」
私は辛い事実を告げられる前に自分から聞いた。こういうのは他人から言われるよりも自分から聞く方がいくらかダメージは少ない。
「ははは。違うよ。怪しいだけなら警察に出さなくても、店から追い返すだけでいいからね」
「ならなんでですか?」
「君から本当に来た理由が聞きたいからさ。ここなら私以外誰もいないから、存分に話してもいいよ」
私は優しい店長さんの言葉に悩んだ。
「どうしても話せないというなら、裏口から帰ってもらっても構わない。あの状態では、表からは出づらいだろうからね」
優しく諭すような言葉で語りかける店長さんに話すべきかどうか。話しても信じてくれる保証はない。けれど…
「その…私…幽霊が視えるんです…」
「ほぉ…」
私は結局、全部話すことにした。幽霊が視えること、坂巻さんに会ったこと、育ててくれたおばあちゃんに恩返しがしたいこと、私が坂巻さんを成仏させてあげたいこと。
「なるほどね…満太君の両親が死んでたのを知らなかったのは最初に聞いていなかったからなんだね」
「はい…信じられませんよね…?」
「俄かには」
「そうですよね…」
「だけど、信じない根拠もない」
「え…?」
私の話を聞いてから何かを考えるような姿勢をとった店長さんの言葉に、私は耳を疑った。
「私は幽霊を視たことがないからすぐには信じられない。だけど、騙そうとしてここに来る理由も見当たらない」
「でも…」
「彼は…満太君は今いるかい?」
「あ…はい…」
私は坂巻さんがいるほうを一瞬視てから答えた。
「そうか…満太君。君が私のところに来た時に最初に言った言葉を覚えているかい?」
「はい」
「はい、と言ってます」
「それを言えるかい?」
店長さんは私が視たほうを見ながら問いかけた。
「俺はあなたの料理を超えたい。そのためにここで働かせてください」
私は、坂巻さんの言った言葉を一言一句間違えないように伝えた。すると店長さんは考える姿勢を解いて、深く息を吐いた。
「なるほど…確かに満太君の言ったことと同じだ。私はその言葉を誰かに言ったことはないし、彼が君に直接言っていなければわからないだろう」
「こんな恥ずかしいこと、他の人にいう訳ないじゃないですか…」
「こんな恥ずかしいこと他の人には言っていないそうです」
「ははは。だろうね」
実は私も聞いててちょっとだけ恥ずかしくなっていた。けど、だからこそ店長さんは坂巻さんを雇ったのかもしれない。
「満太君のレシピは、彼が成仏するのに必要なのかい?」
「少なくとも、今はそれしか方法が見つからないので」
「いいよ。持っていきなさい」
「…いいんですか?」
「あぁ…私が持っていてもいいものじゃないからね。役に立てるといいよ」
どうやら信じてもらえたようだ。本当にありがたい。
「ありがとうございます!」
「阿澄さん…ありがとうございます…」
「坂巻さんも、ありがとうと…」
「あぁ…お婆様を喜ばせるんだよ」
そういって、店長さんは更衣室の方にいって、しばらくするとノートをもって戻ってきた。
「これが彼のレシピノートのようだよ」
「これが…」
手渡されたのは使い込まれたのが一目でわかるノートだった。表紙は擦れて薄くなっていて、端っこの方はよれていた。
「裏口はそっちだよ。鍵は掛かってないから使うといい」
「本当に…ありがとうございます!」
「あぁ。それと…出来れば今度は食べに来てもらえるといいかな」
店長さんは少し溜めを作った後に、柔らかい笑顔でそう言った。
「はいっ!!」
私はそれに大きく返事をした後に、深くお辞儀をしてからお店をあとにするのだった。
〇〇〇〇
「次はいよいよ、坂巻さんのおばあちゃんのお家ですね」
「あぁ…場所はここから遠くはないです。付いてきて」
「はい」
坂巻さんの案内によって私は坂巻さんのおばあちゃんの家に向かった。すると、最近慣れ親しみ始めた道に入っていることに気付いた。
あれ…この辺って…
「おや?三葉さんじゃないかい」
「シゲさん!こんにちは!」
「こんにちは」
風景に気付くとちょうどそのことに関係した人物が現れた。前に犬の幽霊を成仏させた時に出会ったシゲさん。あれ以来、時々遊びに来ている。私が幽霊を視えることを信じてくれてる人だ。そのシゲさんの家の近所である。
「今日も遊びに来たのかい?」
「いえ。今日は用事がありまして」
「三葉さん、シゲじぃと知り合いなのか?」
私がシゲさんと挨拶を交わすと、坂巻さんが不思議そうに私に尋ねてきた。
「はい…最近知り合いましたけど…坂巻さんも?」
「俺も知ってるけど…いいんですか?人前で話して…」
「あぁ…シゲさんは…」
「坂巻…?ヨシばぁの事かい?」
「え…?」
私が坂巻さんにシゲさんについて説明しようとしたとき、今度はシゲさん私を驚かせることを言った。
「シゲさん…ヨシさんって…」
「なんだい。ヨシばぁのことじゃないのかい?」
「えっ…?えぇっ…!?」
「ヨシばぁってのが、俺のばあちゃんですよ…」
「はぁぁ!!?」
私の叫び声が、住宅街に響き渡ったのだった。
〇〇〇〇〇
それから私は、混乱しつつも、シゲさんに坂巻さんのことを話し、坂巻さんにはシゲさんの出会いのことを話した。
「ほほぉ…世間は狭いもんだのぉ…」
「ホントですね…」
「俺は三葉さんのお人好しにびっくりしましたけどね…」
「だって…幽霊は見逃せませんし…」
一通り話した後、シゲさんは感心したように、坂巻さんは呆れたように感想を漏らした。
「満太の坊主が、幽霊になるなんてなぁ…まぁ心の優しい子だったからのぉ…少しものぐさなとこが目立ってはいたがの…確か…」
「シゲじぃ…余計なお世話ですよ。過ぎたことを言わんでください」
「あはは…」
シゲさんが懐かしむように坂巻さんの小さい頃の話をして、坂巻さんはシゲさんに聞こえないとわかっているだろうに突っ込む。時々、私経由で坂巻さんとシゲさんが会話したりする。そんな感じで私達は坂巻さんの実家に向かった。
「まぁ当初はヨシばぁも落ち込んでおったが、最近は開き直ったようでのぉ…」
「ばあちゃん…」
シゲさんと坂巻さんはヨシさんのことを思ってか、少しだけ寂しそうにつぶやいた。だけど私は悲しむ前に確認しなきゃいけないことに気付いて焦った。
「あの…坂巻さんが亡くなったのっていつ頃ですか…?」
「ん?そうだなぁ…確か三週間くらい前だったかのぉ…」
「あぁ…幽霊になったのも確かにそれくらい前でしたね」
「あ…そうなんですか…」
三週間…まぁまだちょっと余裕はある…か?いや…でもこの作戦がダメだったとしたらよく考える余裕はないか…
私は考えを読まれないように何気ないように息をついた。坂巻さんには少し話したけど、シゲさんには幽霊のタイムリミットのことは話していない。心配は掛けさせたくない。
「三葉さん、どうかしたかね?」
「あ…いえ!坂巻さんが亡くなった後すぐだったら、突撃するのもわるいかなぁ…なんて思いまして」
「そうか…三葉さんは優しいのぉ」
「いえ…」
私は本当のことを言えないことの罪悪感によって、シゲさんの言葉を素直に受け取れず、心が痛んだ。
「さぁ、ついたのぉ」
「そうですね」
そうこうしているうちに、ヨシさんの家に着いた。私が心を落ち着かせようとすると、私の心の準備が整う前にシゲさんがインターホンを押した。
「え!?シゲさん待って!?」
「なんだ?尋ねるんだろ?」
「いや!そうだけど!!」
すっとぼけるシゲさんに慌てる私。そんな状況にもかかわらず開いた扉からヨシばぁが現れた。
「ばあちゃん…」
久しぶりに見るのであろうヨシさんの姿に、坂巻さんは憂い気につぶやいた。
「なんだい、シゲじぃ…に、おや、茜さんじゃないかい」
「えっと…こんにちは。ヨシさん」
「はいはい、こんにちは」
「今日はヨシばぁに三葉さんと満太の坊主が用があるみたいでなぁ」
「はい…その………って!え!?シゲさん!?」
「シゲじぃ!いきなりですか!?」
いきなり坂巻さんのことをカミングアウトしたシゲさんに、私もびっくりしたけど、さすがの坂巻さん驚いたようだった。
「あぁ…なんだい…本当に満太も幽霊になったんかい?」
「はい…って!ちょっ!!ヨシさんなんで!?」
「はっはっはっ!三葉さんには悪いが、実はヨシばぁに全部話しちまったんだよ」
「えー……」
いや…確かにシゲさんと私の接点聞かれたら困るけど…言うなら言ってほしかった…
「安心しなよ、ワタシゃシゲじぃみたいに誰かに言ったりしてないからねぇ」
「わ…ワシだってヨシばぁ以外には言っとらんぞ!」
「ほんとかねぇ…」
うん…私もちょっとシゲさん疑ってる…
「いぃ…言っとらんぞ!?ワシはヨシばぁを元気付けるためにだな!」
あ…なるほど…そういうことか…
「わかりました。シゲさんいいですよ。でも、今後は言うの止めてくださいね?」
「お…おぉ…悪かった…すまなんな」
「シゲさんの気持ちはわかりましたから」
「お人好しですね…」
「坂巻さん、それはシゲさんに言ってます?」
「どっちもですね…」
そんなひと悶着もあったけど、ひとまず私達はヨシさんに連れられて家の中に入っていくのだった。
〇〇〇〇〇〇
ヨシさんに茶の間に通されてお茶を出された後、一息ついてから私がここに来た経緯を話した。なんだか今日は説明してばっかりだ。
「なるほどねぇ…いやいや、うちの満太が迷惑かけてすみませんねぇ…」
「いえ…私が好きにやってることなので」
「全く…家を出てってからろくに顔もださなかったのに、死んでから孝行したいとか何様なんだかねぇ」
「それについては悪いと思ってるよ…」
「えと…坂巻さん…満太さんも悪いと言ってますし…」
ヨシさんが坂巻さんのことを受け入れないと、坂巻さんが成仏できなくなってしまう。それだけは回避しなければならないので、私も必死にヨシさんを宥めた。
「三葉さん、気にせんでいい。ヨシばぁは照れてるだけだからのぉ」
「え…いや…えっと…」
「シゲじぃ、余計な事言うんじゃないよ!」
あぁ…そうなのか…死んだと思ったお孫さんが会いにくればそりゃ嬉しいか…
だけどそれだけに余計、ヨシさんがかたくなにならなければいいと思いつつも様子を見た。
「ヨシばぁは素直じゃないのぉ…」
「シゲじぃが率直すぎるんだよ!」
「正直に生きてると言ってくれんかのぉ」
「武蔵ちゃんが死んだときは、ずいぶん捻くれてた癖に」
「それを言うならヨシばぁだって、みんなの前では強がってた癖に、一人になると泣きよって」
「なっ…!なんで…!?いや!そんなことないからねぇ!」
あー…うん…この二人すっごい仲いいな…
「はぁ…三葉さんがいるってのに…みっともない…」
「二人は昔から?私がいるときはそうでもなかったんですけど」
「そうですよ…幼馴染らしいんです」
シゲさんとヨシさんがわぁわぁ言い合ってるのをぼんやりと見つめる。が、いつまでもこうしているわけにはいかない。
「あのー…とりあえず…満太さんの料理食べていただけませんか?と言っても、作るの私なんですけど…」
そういうと、二人は争うのをぴたりと止めた。
「そうだのぉ…とりあえず、満太の坊主の飯、食ったらどうだ?」
「はぁ…わかったよ…」
よし…とりあえず成功だ。
「じゃあ…キッチンを…」
「ただし!」
「はいっ!?」
私がキッチンの場所を聞こうとすると、ヨシさんにきっぱりと遮られた。
「ワタシも一緒に作ろう」
「えぇっ!?」
それじゃ意味ないんじゃ…
どうすればいいかわからず、助けを求めるように坂巻さんの方を見た。すると坂巻さんは好きにさせろと言わんばかりに首を振る。
「えと…じゃあお願いします」
「フフフ…ワタシに勝とうなんざ十万年早いことを教えてあげようじゃないかねぇ」
えぇ…そういう話…?
思わぬ流れになったけど、キッチンに移動して私とヨシさんはエプロンを装着した。
「坂巻さん、私、何作ったらいいですかね?」
「料理の経験は?」
「あんまり…」
「なら簡単なものにしますか」
そうして、私は坂巻さんのレシピノートを捲っていき、坂巻さん一緒にレシピを見ていく。
「これでいいんじゃないですか?」
「ムニエル…私にも出来ますか?」
「レシピ通りにやればできると思いますよ。俺も指示するんで」
「わかりました」
作るものを決めて材料を確認。幸いにも材料はあった。ひとまず材料を取り出し、レシピを攫っていくとふとヨシさんの方を見てみた。
「へ…!?」
見てから後悔した。ヨシさんが尋常じゃない手際で調理をしている真っ最中だった。
「流石ばあちゃんだな…」
「その一言で済ませていいレベルじゃなくないですか!?」
「年季が違うってことですよ」
「いやいやいや……」
そばの調理台に目を移すと、すでに二品完成している。正直おかしいと思う。
「まぁ…こっちは一品でいいと思いますよ。多分、久々にお客に腕を振るうってんで張り切ってるだけだと思います」
「あ…うん…はい」
もうそれしか出なかった。
私の理解が及ばない光景を目にして時間を取られて、ようやく私も遅れながらに調理を開始した。が、普段料理なんてしないので不手際が目立った。
「えと…切り身に下味…」
「その前にキッチンペーパーで水分取ってください」
「あ!はい!」
「フライパンがあったまる前に焼こうとしないでください」
「ごめんなさい!」
傍から見ると料理をしようとしながら虚空に謝ってる怪しい人だ。自分の料理がひと段落したのか、ヨシさんが私の方を心配そうに見てきた。
「大丈夫かい?」
「だ…だいじょ…」
「なんでニンニクを丸ごとフライパンに入れようとしてるんですか…」
「え…あ!ごめんなさい!」
全然だいじょばなかった。
「ふふふ…ニンニクは乾燥スライスがあるからこっちを使い。女の子が砕くにはきついでしょう」
「ありがとうございます…」
「いいよ…バターは有塩かい?」
「えと…」
「無塩」
「無塩だそうです…」
「はいよ」
そんな感じでダブル坂巻さんにサポートしてもらいながら私は調理を進めていった。
「で…出来た…」
「お疲れ様です」
「よくがんばったねぇ」
「いえ…お二人のおかげです…」
心の底から本当にそう思うよ…
「なんだか…昔に満太と料理してた頃を思い出すねぇ」
「俺はもうちょっと手際よかったぞ」
「ぐ…具体的にはいつ頃ですか…?」
「「八歳くらい(かねぇ)」」
は…八歳に負けた…
心を抉られるような事実を身に受け、シゲさんの待つ茶の間へと料理を運んだ。
「おぉ…!出来たのか。腹が減ったぞ」
「待ってるだけだった癖に、偉そうだねぇ」
「審査員はいるだろう?」
いや、百パー負けるんで。
「はっ。馬鹿な舌しか持ってないだろう?」
「いやいや。ワシは舌は肥えてるぞ?」
「だとしたら、ワタシとあんたの嫁さんのおかげじゃろ。学生んときはワタシがさんざんうまいもん食わせてやったんだからねぇ」
なんでこの二人は結婚しなかったんだろう…純粋に疑問なんだけど…
「「いただきます!」」
「召し上がれ」
しばらく二人の言い合いが続いた後、私達は食事を始めた。
「美味しっ!!」
「ふふふ…ありがとう…」
ヨシさんの作った料理は絶品だった。もうなんか、プロだ。だけどどこか懐かしさを覚えるような優しい味がして、身構えるような気難しさはなかった。
「ヨシばぁ…腕落ちたか?味が濃いぞ?」
「そりゃ若い三葉さんに合わせたんだからそうだろうよ」
「あ…なんか気を遣って頂いたみたいで…」
「いやいや。いいんだよ。ワタシが好きでやったんだから、シゲじぃの言うことなんざ聞き流しておきなねぇ…」
そういいながら、ヨシさんが私の作った料理を口に運んだ。
「んん…美味しいよ」
「ホントですか!?」
「あぁ…初めてにしちゃ…上出来…だねぇ…」
「え…?ヨシさん…?なんで泣いて…」
私の料理を嬉しそうに食べながら、ヨシさんは涙を流していた。
「あれ…なんでだろうねぇ…あまりに美味しすぎて…」
「ヨシさん…?」
「おぉ…ワシにはこっちの方があうのぉ…洋食もバカにしたもんじゃないのぉ」
「え?シゲさん。本当ですか?」
「あぁ…塩っ気があんまなくていいのぉ…」
まさか…
私は思わず坂巻さんの方を見た。幽霊の体はすでに透け始めていた。
「……ばあちゃんに合うようにしましたから…」
「やっぱり…」
だとすると…ヨシさんはそれに気付いて…
「ヨシさん…そのレシピはヨシさんに合わせたそうですよ」
「あぁ…そうかい…そりゃ…美味しくなきゃ恥ずかしいねぇ…」
「あぁ…だから喜んでくれて嬉しいよ」
あぁ…お孫さんにまでそんなツンデレしなくても…
「それと…満太さんがもう…成仏します…」
「そうなのかい…そりゃよかった…」
「ふん…素直じゃないのぉ」
「いいんだよ…ワタシももうしばらくしたらいくからねぇ…」
「ばあちゃん…ゆっくり来てくれよ。その間に向こうで料理の腕上げて、うまいもんもっと食わせるから」
私は坂巻さんの言葉をそのまま伝えていく。
「あぁ。そこまで言うなら少しでも上達しとくんだよ…出来るだけ、ゆっくりいってあげるからねぇ」
「シゲじぃもお世話になりました」
「ワシも楽しかった。ヨシばぁは見とくから、安心しな」
「お願いします…」
いよいよ坂巻さんの体が宙に浮き、ほとんど透明になっていった。
「三葉さん…ありがとうございました…ばあちゃんの喜ぶ顔が見れて、本当に良かったです…それでは…さようなら」
その言葉を最後に、坂巻さんは光になって消えていった。
「満太さんが…成仏しました…」
「そうかい…よかった」
「あぁ…ほんとにのぉ」
そのあと、私達は改めてご飯を食べた。坂巻さんの昔話や、シゲさんよヨシさんの昔話で盛り上がったりして楽しい時間を過ごしてから、私は家に帰っていった。
はぁ…これからは時々、お母さんの手伝いでもしよっかな。ヨシさんにも料理教わろうかな…
そんな計画を立てつつ、とりあえず料理は出来るようになろうと思ったのだった。
第16話を読んで頂き、ありがとうございます!
シゲじぃとヨシばぁが再登場!です!
さらに新キャラの聖さん登場!
個人的に、シゲじぃとヨシばぁの掛け合いがいつまでも書けそうな気がしました。
微笑ましいご老体達の喧嘩ってなんかいいと思います。
ついでに聖さんの謎の包容力も気に入ったので、再登場させたいですね。
では今回はここまで!
ブックマークして頂いてる皆さん!
そうでない皆さん!
いつも読んで頂き、ありがとうございます!
次回の更新は9/22予定です!
なんだかんだ隔週になってますね。すいません…
次回もお付き合い頂ければ幸いです!




