50話 また明日
初めての家の初めてのホームパーティは盛況に終わり、それからまた数日後。
澄んだ空気と月明かりの豊かな夜更けのテラスにて、二人はのんびりとした時間を過ごしていた。
「静かすぎてなんだか寂しい気もするね」
「そうは言うがな。向こうじゃどこに居ても人の目があったから、こういう事もできなかった」
「あうぅ……」
沢渡は大熊の腰に手を回し、そのまま持ち上げた。
とくに抵抗せずに、ちょこんと膝の上に乗る大熊。
「沢渡がこんなに積極的だったなんて……」
「お前がそうさせてるんだ」
このやりとりも幾度となく交わされている。
まれに大熊が攻めっ気を出すこともあるが、たいていは自爆に終わり沢渡に軍配が上がる。
「へへへ……」
「なにか言いたそうだな」
「今、しあわせかも」
しかし大熊も満足してこの状況に甘んじているので、勝ち負けの基準で考えればどちらも勝者である。
「だが……いつまでもだらだら過ごすわけにはいかないな」
「また冒険に出るの?」
「それもいいけどな。手に職をつけるのもひとつの生き方だと思う」
「一児のパパは安定をのぞむ……か」
「なんの話だ」
「アイちゃん。私たちの子供でしょ?」
「半身のPちゃんはペットなわけだが……」
ヒュージインコは暗くなるとすぐ寝てしまうので、今は子供部屋で熟睡中だった。
「手に職というと……どんなことするの?」
「さてな。まだ何も考えてない」
「私たち、もう何でもできちゃいそうな気がするよ」
二人同時に空を見上げた。
紺色の大海に広がる星々は、この先に広がる二人の可能性を示しているかのように瞬いている。
「何でも、か」
「なんでも出てくる食べ物屋さん」
「飲み屋の大男がどうしても脳裏にチラついてくる」
何を注文しても「あるよ」と返すバーテンダー。そして本当に用意してくれる。
「でもああいうの楽しそうじゃない?」
「確かにな。それなら旅行と合わせて食材開拓なんかも楽しめそうだ」
「クモラーメン美味しそうに食べてたもんねぇ」
手に職をと言う沢渡の原動力は向上心。
対する大熊は好奇心で動いている。
そして、二人は誰よりもお互いの意見を尊重している。
その結果……
「じゃあ異世界ラーメン屋」
「……一応何をするか聞いておこう」
「屋台を引いて、あらゆる世界の食材を使ったラーメンを提供!」
テンションが上がり拳を突き上げる大熊。
密着状態でそんなことをすれば沢渡のアゴに突き刺さりかねないが、沢渡は涼しい顔で首だけ動かし回避した。
「せっかく家を買ったのにな」
「帰る場所があるってのは、それだけで十分意味がある思うよ」
「確かに。Pちゃんアイちゃんは力が強いから大きな屋台でもいけそうだ」
「子どもを酷使する〜」
「ペットだ」
寝る前の連想ゲームのようないい加減さで二人の行く先は決まった。
これから彼らが行く場所がどんな世界なのか、どんな人たちが暮らして、どんなルールで生きているのか。それはきっと、この夜空の星の数よりも多くて明るい。
それでも、彼女たちの日常は続いていく。
毎日の非日常が日常で、たくさんの刺激を受けながら二人は寄り添って前に歩き続けるのだ。
「寒くなってきたし、戻るか」
「じゃあ、続きはまた明日ね」
二人の生活はまだまだ続いていきますが、この話はこれでおしまいです。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。




