46話 再会/再開
「いやぁ……ハンスの趣味わかんないよね」
「あの兜か……性能がいいのかもな。とりあえずコンタクトを取ってみよう」
仲間に引き入れる事ができるかもしれないと双子に伝えると、すぐに納得した。
沢渡がハンスたちの前に現れると、とくに驚いたりもせずに手を振って応えた。
「やあ。やっぱりまだ生き残ってたね。よかったら組まないかい?」
「こちらもそのつもりだった。話が早くて助かる」
「ハンスはなんでそんな変な兜つけてるの?」
「これ強いんだぞ! 防御力はさることながら、毒耐性も増えるすごい兜なんだ!」
力説する兄からそっと目をそらすまるっこを沢渡は見逃さなかった。
毒も防御力もこの大会においてあまり意味のないものなのである。
それからは特に順調だった。多勢に無勢、現れるチームを次々と打ち倒していく。
大熊と沢渡が偵察し、ハンスとまるっこが突撃してヨールキ・パールキが隙を突いた。
この3チーム6人のグループは敵無しに思えた。
しかし――
『敵発見。グループだ。向こうもこちらと同じ規模と思われる』
どうルールで縛ろうとも、数が多い方が有利という戦いの原理は覆せない。賢いプレイヤーほど、その原理に忠実だった。
『他と交戦するまで様子を見よう』
『そうだね。6対6じゃ確実性に欠けるかもしれない』
『――いや』
方針が決まりかけていたところで、双子が反応した。
『仲間になるよう取り入ってみる』
『なんだって? もうほとんどプレイヤーはいないんだぞ。これ以上大所帯にするメリットはないだろう。向こうだってそう思ってるはずだ』
『うん。断られるだろうね。そしたらオイラたちが合図をするから、奇襲をかけてほしい』
『……真っ先に狙われるぞ?』
『十分稼がせてもらったよ。本当はもっと早くに君たちにやられてただろうから、これはオイラ達からのお礼みたいなもんさ』
返事を待たずして双子は敵グループへと進んでいった。両手を上げて敵意のない事をアピールしている。
「大丈夫なの?」
「こうなったらとりあえず戦闘準備だな。念のため、大熊は動かずにそこで待っててくれ。……例のスティックを構えてな」
「おっけー!」
双子は土下座をするようなポーズから、両手を上げて、ぱんっと一回だけ大きな拍手をした。
「うおおお! くらえええ!」
「ほらほら! いきますわよ!」
「とうッ」
三方向から6人の敵へ奇襲をかける。ハンスは兜を使った突進、まるっこは鋭いレイピアの突き、沢渡は槍を持っての跳躍。
しかし――
「なっ!?」
しかし、それは全て受け止められた。
3対6。一人に対して、敵二人で対応されてしまったのである。しかもその奇襲は完全に見抜かれていた。
「どういう事だ! あの双子は一体何を――」
パンッ、と風船の爆ぜる音が鳴る。
ハンスは脱力してその場に倒れる。首だけを動かして横を見やると、双子の片割れがナイフを握っていた。
「あ、ああああ! お前ら裏切ったな!?」
「ひひひっ! オイラたちどれくらい稼げたかなぁ? ヨールキ兄さん」
パンッ、とさらにもう一つ風船が爆ぜる。
別の場所にいたまるっこも地に伏せた。
すぐそばではもう片方の双子が立っている。
「ああ……なんてこと……兄さん」
「そうさなぁ。10万はかたいなぁ。だがもっと稼げるぜパールキ」
双子、および6人のグループが沢渡の周囲を取り囲む。
8人対1人。絶望的なこの状況において、沢渡は動じる事なく、首を回して敵全員を視界の中に捉えた。
「ふむ。全員いるな」
「ずいぶんと余裕だなぁ? 筋肉。 もうひとりの少女はどうしたんだ?」
「いるぞ」
「どこに? どうせ知らないやつにやられるくらいならオイラたちの1万LPになってくれなくちゃあ!」
「上を見ろ。これを飛ばすために離れたところにいたんだ」
その場の全員が沢渡の指した方を見上げると、そこには巨大な火の玉が浮かんでいた。
――というより落下していた。
「……なんだこれ――」
沢渡は8人分の断末魔を聞く前にその場から姿を消した。
その頃、大熊は少し離れたところで目を閉じてぶつぶつと呟いていた。
「……さわたりさわたりさわたり」
「もう戻ってるぞ。ただいま」
「あっおかえり! 冷や冷やしたよ……」
「まあ花火でも見て落ち着こうか」
沢渡が8人に囲まれていた地点――″結婚ワープ″ を使った場所――は大きく爆発し、あちこちに火の粉を撒き散らした。
「たーまやー……ってやば! 森火事だよ!」
火は少しずつ、その領域を広げ始めている。
「どうせ狭まる範囲だ。問題ないだろう」
「たしかに。えっと今の範囲は……あれ?」
「どうした?」
「今の6人しか倒せてない! 2人逃げてるよ」
「……追いかけるか。ハンス達へはもっと景気の良い土産話を用意したいからな」
「ほいきたっ」
沢渡たちが爆発地点へ戻ると、燃えさかる炎に照らされた双子の背中を発見した。
「やい双子! やっつけてやる!」
「ひいいいっ! お助けー!」
双子は声を合わせて猛ダッシュした。
――それぞれ別々の方向へ。
「む……。土壇場で賢い選択だな。どちらか片方を生かす作戦か」
「二手に分かれよう沢渡!」
「また妙なフラグを……いや、アリ……か?」
「ふふふ。いいでしょ?」
「……よし。絶対逃すなよ」
★
大熊の考えていることはよくわかった。何かあれば俺を呼び出すつもりなのだろう。それなら、どれだけ遠くに行っても大丈夫だ。
……不意打ちさえもらわなければ。
少し不安が残るが、大熊はこっちの世界で強敵の蜘蛛を何匹も倒してかなりの強さになっている。
おっちょこちょいなところもあるが、やる時はやる奴だ。信用しなければ大熊に失礼というもの。
とにかく、まずは目前の仕事をこなさねば。
見えなくなった双子の背中を追いかけていくと、森を抜けて荒野にたどり着いた。
しかし、開けた視界のどこにも人影は見当たらない。
「くそっ……手負いじゃなかったのか? いったいどこに――」
「探し人か? 沢渡」
「お前は……!」
探していた双子の片割れは血を流しながら、黒い鎧を着た男に担がれていた。
男の右手には血にまみれた白銀の剣が握られている。
「ほら、トドメを刺したければくれてやる」
「アザレア……どうしてここに」
「相方がどうしても遊びたいと駄々をこねるものだからな」
「イーリスも来てるのか」
アザレアが放り投げた双子の片割れは、少し時間を置いてから、びくんっと一度だけ大きく身震いして死亡した。同時に風船も割れる。
「死んでしまったではないか。……もちろんイーリスも来ているぞ。もしかしたらお前のツレと交戦中かもな?」
「そうか。どうやら最後のチームは俺たちとアザレアたちのチームらしいな」
マップを開いて確認する。生存者を意味する点は合計四つだけになっていた。双子は死に、向こうも大熊とイーリスが接触しているようだ。
「となると、やる事はひとつだな」
「いつかの続きか。いいだろう」
この世界では俺の能力は使えない。
使えないが、レベルだけはかなりの高水準になっている。
だから俺は先手を取るべく、アザレアへ槍を投げて己も飛び込んだ。
「とうッ――ぐぬっ!?」
「相変わらずの突進だな……沢渡!」
アザレアが光の剣を振ると、俺の投槍が粉砕された。そして、閃く剣を視界いっぱいに入れてしまったため、俺は狙いをつけられなくなった。
「ホワイトロータスだと? なんでこの世界に……」
「よく似てるだろ? どういうわけか全く同じものが宝箱に入っていたんだよ。使用回数が決まってるのが難点だな」
複製品? もしかしたら、大熊が持っているスティックも何処か別世界のアーティファクトなのだろうか。
「ブラックロータスもあるぞ? イーリスは一番最後になるまで使わないと言っていたから、最終戦になった今は思う存分振り回しているだろうな」
「ふむ。それなら悪いが、先を急がさせてもらおう」
「減らず口を……。さあ、この剣をどう破れるというのか。かかってこい沢渡!」
今はゲーム中。あくまでゲームルールに則って戦わせてもらうぞ。無垢なアザレアよ。




