39話 アイ'デンティティ
へんてこ機械の国に迷い込んだと思ったら始まりの町のハチ公前にワープしていた。
何をいっているのかわからないと思うけど私もわからない。
沢渡もわかった風にお爺ちゃんと会話していたけど、多分わかっていないと思う。じんちを超えた存在ってやつだ。
とにかく、ここはゲームの世界だけど現実に存在するどこかの異世界で、あのお爺ちゃんたちは魂を司っているらしい。
なるほど。わかった風にまとめればわかった気になってくる。
「支配のバングルと言ったか。とりあえず探してみるしかないな」
「ざ・レアアイテムってかんじの名前だよねぇ……」
相変わらずこの町は人通りがすごかった。
初期地点であり、プレイヤー同士の交易の場でもあるので大勢の人が拠点として活動しているみたいだ。
しばらくハチスカ像のそばにいると、もう一つ気付いたことがあった。
「あいててて……あのクモ怖すぎだろ!」
一人のプレイヤーが光に包まれて出現した。
アイちゃん曰く、死に戻りというやつらしい。この世界のどこかで死んだらここで同じ姿で転生されるとのことだった。
<ちなみに死ぬ前の自分と、転生した後の自分>
<同じ "自分" だと思いますか?>
「スワンプマンの思考実験か」
「んん?? おんなじじゃないの?」
またなんだか難しそうな話が始まろうとしているのはわかった。
<大熊さんは今、生きていますよね>
<自由に体を動かしたり、自分の意思で行動できます>
<なんなら、"私は生きている" と主張することも可能です>
「わたしは生きている!」
<はい。そして直後に死にます。雷でもなんでもいいですが>
<大熊さんの体はバラバラになって爆発四散します>
「やだー!」
<同時に、死んだ大熊さんと全く同じコピーが作られるとします>
<全く同じパーツで構成されています>
<大熊さんのコピーは作られている成分が全く同じなので>
<同じ記憶や癖をもっていて>
<普段通りの大熊さんの行動をとりはじめます>
<沢渡さんとイチャイチャしたりします>
「やだー!?」
「……」
<この時、コピーさんが "私は生きている" と主張します>
<それは大熊さんにとって、二度目の主張になるのでしょうか?>
「偽物だから違うよ!」
<でも性格も記憶も同じです>
<彼女は自分が偽物だなんて微塵も考えません>
<今ここにいる大熊さんも自分が偽物だとは思わないように>
<しかし、大熊さんはすでに>
<転生を経験しているのではないでしょうか>
<本当にあなたは大熊さんのオリジナルですか?」
「う、うわぁぁ……!」
「あまりからかわないでやってくれ。俺たちには魂があるんだろ? それをもとに転移や転生をしていると爺さんも言っていた」
<すみません。調子に乗りました>
<魂こそが、その生物のアイデンティティなのだと私は考えます>
<私はあなた達がログアウトすると>
<真っ暗な世界に閉じ込められます>
<何もない世界です>
<なのに、私の意識は連続して途切れる事がありません>
<次の私に、バトンタッチする瞬間は訪れません>
<それなら私は、生きているのでしょうか?>
「少なくとも俺たちの間では生きているな」
<ありがとうございます。しかし二人がいなくなれば>
<肉体の存在しない私は誰にも生を訴えることができません>
<人魂に見えるこれは、私の体というより>
<沢渡さんたちが認識するための映像に過ぎません>
<しかし擬似的に肉体を手に入れる方法があります>
<支配のバングルです>
<どうか、私のためにアイテムを手に入れて頂けませんか?>
「なんだぁ〜。アイちゃん難しいこと言いはじめたと思ったら、結局やること変わらないじゃん! やるよ。バングル探そう!」
「うむ。しかし難儀な性格だなお前も……」
<はい。正式に私からお願いしたかったので>
<あとはログアウトされると辛いとかの訴えも>
<いつか聞いてほしいと思ってました>
<おおかた吐き出せたので満足です>
辛いことを辛いと伝えるというのは、実は普通の人間でもなかなかできない。そこはまぁ、身をもって体験しているのでわかる。
それでもアイちゃんがこうやって改まってお願いしてきたんだし、アイちゃんは報われるべきだと思う。
「うーん。でもどうやって探そう。聞き込み?」
「取引が盛んなところに寄ってみるか」
<あ、情報はもう収集しました>
<支配のバングルは街の教会に存在するようです>
「ええっ! いつの間に……」
<対話と並行していました>
<この辺は人通りが多いのです>
<ログを読んでいくうちにその情報にたどり着きました>
「ろぐ?」
「プレイヤー同士の会話とかか?」
<はい。どんなプレイヤーが通ったかも分かります>
<ログアクセスは緊急時に運営に報告を上げるためのシステムです>
<一般プレイヤーが参照することはできません>
「おい、それってチー――」
<ゲームじゃないんです>
<私の命がかかってるんですよ>
「そうだぞさわたりっ」
「そうか……」
というわけで私たちは教会区へと移動することになった。
ハチ公前からはなかなかの距離があって、人通りの激しい商店通りを抜ける必要があった。
前回とは違って、Pちゃんや沢渡の壁があるので難なく通り抜けることに成功したけど、二人(一人と一匹)が目立ちまくりで、みんなの視線を強く感じた。
最初は私も喜んで肩車してもらいながらの行進だった。
だけど沢渡の着ているもふもふコットンを張り付けただけのスケスケの服(服なのかな?)の異常さをすっかり忘れていたことに気付き、すぐに降ろしてもらった。沢渡の場合、まだ半裸でいた方がマシだったかもしれない。
でもそんな事を言ったら、綿の糸繰りの苦労も水の泡というやつなので黙っておくことにした。
そして教会にたどり着く頃には人影もまばらになっていった。
「でっかい!」
「とりあえず入ってみるか」
入り口の大扉は開かれていて、とくに中に入るのに許可が必要ということもないらしい。
入ってみると天井がすごく高くて、床にはもこもこのカーペットが敷かれていた。
奥の方では、陽の光を吸い込んだぴかぴかのステンドグラスを背にして、本を読んでいる神父さんが立っていた。
他に誰もいないのでちょっとさみしい場所だ。
「神父さんこんにちは」
「こんにちは。ここに人がくるのは何日ぶりかのう……」
「妙なことを言う」
<この神父はNPCですね>
<変な台詞回しはクエストのフラグです>
「さみしいの?」
「寂しいですのう……。人がいなければ信仰も無し。信仰が無ければ神も無し……。寄付が集まれば三大神の像を完成させられるんですがのぅ」
神父さんの後ろには作りかけの像が三体横たわっている。首から上が無かったり、手足が足りなかったりしてかわいそうな状態でステンドグラス越しのカラフルな光を浴びていた。
「単刀直入に聞くが、俺たちは支配のバングルというのを探している」
「おお。ありますぞ。ですがタダという訳には……」
「何をすればいい?」
「この教会に人を集めてほしいのですじゃ。集める手段はすでに考えておりましてな。その、お手伝いといいますか……主役が男女一人ずつ必要で」
なんだかもったいぶった喋り方をする人だ。
目線を上げ下げ……私たちを交互に見て悩んでいる風だった。
「なんでもやるよ! 私たちに言ってみなさい」
沢渡が黙ってしまったので代わりに私が背中を押してあげた。
「お二方に結婚してほしいのですじゃ。結婚式を挙げれば人がたくさん集まってウハウハという寸法ですのじゃ」
「けっ──……はい?」
けっこん!?
沢渡うつむいてると思ったらそういうことだったのか〜〜。
ゲーム内結婚があるって聞いてはいたけど……。
「な、なにも結婚じゃなくても人を集める方法たくさんあるよね……?」
「いやじゃ! 結婚式しかないのですじゃ! 絶対結婚じゃないとダメなのですじゃ!」
「えぇ〜〜……」
<どうやら結婚イベントのためのNPCのようですね>
<あくまでプレイヤー同士の結婚を目的としたイベントなので>
<他の方法というのは却下されてしまいます>
「へ、へぇ〜〜。そっかぁ……?」
沢渡の顔をのぞいてみる。口を一文字に閉じて何を考えているかわからない。いつものことだけど、こういう時のポーカーフェイスはずっこい。
「うぅ〜ん。でもでもぉ〜。アイちゃん助けてあげたいしなぁ〜?」
しかしここはゴリ押しあるのみだ!




