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36話 続・雑なDIY

 

 俺たちはすっかりこのゲームをプレイするのが日課になっていた。

 学校には行かなければならないので、ゲームは一日4時間まで。と、大熊とそう約束したのだが、最近は少しずつルーズになり始めている。


 その原因は──


<もう少しでスキルが次の段階に上がりそうですよ>

<明日は休みですよね? Pちゃんも寂しいと言っています>

<ぴゅいっぴゅいっ……似てますか?>


「アイちゃんなんか必死……」

「本当に人工知能なのかお前は」

「沢渡よりも人間っぽいよね! あはは」


<人工知能ではなくアイちゃんと呼んでほしいです>

<さあさあ。沢渡さんのお召し物を作りましょう>


 今、俺たちの足元には大量の綿(わた)が転がっている。

 ヒュージインコのPちゃん(大熊命名)が俺たちにとてもよく懐いていて、つい先日綿花の群生地に案内してくれたのだ。

 人工知能(いわ)く、Pちゃんには一定水準以上の知能があるらしい。俺が半裸なことを気にしてくれていたのだとか。

 しかし綿から服をつくるという知識を野生の鳥がどうやって手にれたのだろうか。人工知能の開示する情報はたびたび疑問に思うところが多い。というか他のプレイヤーもこんなお喋りなAIが案内しているんだろうか……。


「ぴゅいっぴゅいっ♪」

「おー! えらいぞーPちゃん♪ 種はそのまま食べちゃっていいからね」


 綿を糸にするにはまず中に入っている種を取り除かなければならない。種と繊維はかなりしっかりと癒着しているので、この種取り作業が非常に面倒だ。

 円柱状の木の棒を二本くっつけるように並べた単純な装置で、その中に綿を押しつぶすように通してやれば、手でやるよりも効率よく種取りができる。できるが、やっぱり面倒くさい。

 そんな感じで困っていたところ、Pちゃんが種取りを買って出てくれたのだ。

 本当に意思疎通が出来ているのかは少しあやしいが、かなりありがたかった。


「ぴゅいっ」

「なんでも食べるよねーPちゃん」

「不思議生物だな……」


 ぽりぽりと器用に種だけを取り出して食べている。


「じゃあ俺達はとりあえず糸をつくるか」

「どーやるの?」

「まず綿ををほぐさなきゃならん。持てるだけ両手いっぱいに持ってくれ」

「こう?」

「そう。そしてそのまま……ダァン!」

「ダァン!」


 めいいっぱい床に投げつける。正直かなり効率が悪いが、もう色々と面倒になっていた。

 本来なら弓をつかって衝撃を与えてほわほわとほぐしていくのだが、弓なんかまだ作ってないし、今から作ろうとしているのは伝統工芸品などではない。


「よし。いいぞだいぶほぐれたな」

「あんまり変わんないような……」

「次は細長い形にある程度ととのえる。テキトーでいいぞ」

「ほいほい」


 正直服なんか着なくたっていいのだが、まわりがどうしても許してくれなかった。

 止むを得ず糸づくりの真似事なんかをしているが、しかし俺だってその道の専門家ではないのだから、ちょっと力んだら破れてしまうシロモノが出来上がっても文句は出まい。

 ……だれに言い訳してるんだろうな俺は。


「そうしたら先っぽをつまんでひねりながら引っ張る」

「ぐりぐりー……おお、糸が出てきた!」

「それを()ると言うんだ。細かい繊維(せんい)をねじり合わせて強固な一本の糸にしてるわけだな」

「へえー。なんだか面白い」

「ねじるのを忘れるとあっさり切れるから気をつけてくれ」


 大熊はなかなか器用だ。

 こういうのは性格がよく出る。一見がさつな大熊だが、実は結構繊細だったりするところが手つきによく表れている。

 しかしそろそろ限界かな。


「ぬわああん! 疲れるぅ!」

「そこでこのコマの出番だ」

「道具あったなら早く言ってよぉ……」


 木を削って作ったコマだ。

 普通に正月に遊ぶコマと、一点を除けば形状は変わらない。


「頭が長い……へんてこなコマだね」

「この細長い頭に糸を巻きつけるんだ」

「ぐるぐるっと……こう?」

「うむ。そしてゆっくりと回す」

「おお……自動で撚ってくれるのね」


 大熊の手にある綿から、回転するコマの方へと糸が紡がれていく。


「まっすぐ、平行に回転させればそうそう切れたりしないはずだ」


 とはいえ、ほぐしの段階からすでに雑だったからすぐ切れるかもしれない。


「たのしー!」

「ぴゅいっ♪」

「ん……? もう全部の種とったのか!?」

「ぴゅいぴゅいみゅみゅみゅ♪」


 綿を足でたんたんとやり始めるPちゃん。

 すると、みるみるうちに地面にある綿たちがふわふわと膨らんでいった。


「多芸だな……」

「Pちゃんいいこだねー!」


 しかしこれだけの綿があれば心強い。釣り糸にしてもいいし、包帯にもなるし、種火にも困らない。


「沢渡ー。結構ながい糸できたよ」

「おお。これだけあれば十分だ、ありがとう」

「もういいの?」

「うむ。これで服ができる」


 集めた綿を体に巻きつけて上から糸で結ぶ。


「これで服の出来上がりだ」

「は!? 雑すぎでしょ! スケスケじゃん」

「だってお前、ちゃんとした服作るのにあの作業何回繰り返すと思ってるんだ……」

「大変なの?」

「作った糸同士でさらに撚って、その撚った糸と糸でさらに撚って、そうして出来た太いやつを今度は編まなきゃいけないんだぞ」

「うへえ……じゃあ仕方ないのかな」


 なんとか納得してくれたみたいだ。

 それよりも俺は、綿花の群生地の奥にちらっと見えた洞窟が気になっていた。

 その事を話せばまたログアウトを延長にされそうなので、今回は黙っておく。


「よし、今度こそ今日のゲームはおしまいだ」

「たのしかったー。Pちゃんまたねー」

「ぴゅいっ♪」


<ぐぬぬぬ>

<3……>


 人工知能は唸りながらもログアウトのカウントダウンをしていく。

 そんなに名残惜しいのだろうか。


<1……>

<0……二人がいない時、私はどこの世界でもない真っ暗な闇の中──>


 ぷつん。





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