表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/50

35話 すべすべおしくらまんじゅうがに

 

 でっかいクモの死体を引っ張って小屋に持ち帰る頃にはもう雨は上がっていた。

 でっかいインコは牽引しなくとも後ろからちょこちょこ着いて来たのでそこは幸いだったけど、このでっかいクモの重さたるや、クマ時代の私くらいあるかもしれない。

 とにかく、二人がかりとはいえそんな重たいものを森の奥から入口あたりまで運べば時間もかかるというもの。雨が止んでいても不自然ではなかった。


「はっくしょいっ」

「ずいぶん濡れたな」


 今のところ風はそこまで吹いていないけど、とっても寒い。もしこのままびゅーびゅー吹かれれば凍死も十分あり得る程度に命の危険を感じる。


「もっと火に近付いたほうがいい。本当は濡れてる服は脱いで体を拭いた方がいいんだが……」

「む、むり……」


 まあ! としごろの女の子になんてことを言うのでしょう。 このきんにくめ!


「あー……いや、すまん……そんなつもりじゃなかったんだ」


 沢渡が照れてるぅ。なんだか最近は表情豊かになってるきがする。


 ……いや、まてよ?

 沢渡が恥ずかしがっているということはチャンスなのでは。

 ネコさんも言っていた。理性のモンスターをやっつける事が、沢渡とその、ナカヨシになる第一歩だと。

 ネコさんは手を繋ぐとか甘い事を言っていたけど、もっと良い方法があるじゃないか。


「はぁ……はぁ……」

「どうした? 顔が赤いぞ……大丈夫か?」


 今まさにネコの知識とクマの知識が合わさりさいきょうの技が生まれようとしている。

 それぞれの知識だと貧弱かもしれない。だけど、二人の知恵があわさることで相乗効果が生まれるのだ!

 もはや1+1は2じゃない。せくしーネコさんとインテリ大熊の1+1で200だ! 十倍だぞ十倍!

 しかし頭がぼーっとしてきた。いつのものアレだ。ちえねつだ。

 十倍の計算処理をしているのだからしかたない。


「ふぅ……ふぅ……さわたりぃん……」

「……なんだ?」


 ネコさんになりきったつもりで、くねくねと体をよじらせる。今のわたしはパーフェクトボディ状態だ。

 そしてッッ


「お……お、おようふく。ぬれて、うまく脱げないぃん……あう」

「何をばかな事を……おいっ!? 大熊!」


 突然目の前がまっくらになって、足に力が入らなくなっていく。

 ――ああ、これはアレだ。お腹がすきすぎてなるやつだ。



 ――――



 ――



 あたたかい。

 ぱちぱちと火のはじける音が聞こえてくる。

 天国にいるみたいた。

 さっきまで寒くて死ぬかと思ってたのに。

 さっき……さっきって何してたんだっけ。


「あ……!」

「起きたか」


 目の前には勢いよく燃える焚き火。

 すぐ後ろからは沢渡の声が聞こえる。


「これで暖はとれてるか?」

「うん……あったかい」


 まるで直接肌を暖めてもらってるかのような……?

 ちらっと下を向くと、ぱんつ一枚状態な私の脚が切り株の上に乗っている事に気付いた。すぐ両隣に沢渡のマッシヴな脚が伸びている。

 なるほど。私は今、裸で沢渡に密着しているらしい。


「ってうわああああっっ!?」

「お、落ち着け……」

「だって私、裸に!」

「まだ立つな。さっき火の方に倒れそうになってたんだぞ。今は何も考えずにじっとしていてくれ」

「あう……うん」


 後ろから肩をつかまれて、ぐいっと抱き寄せられる。沢渡の暖かい、ふにふにきんにくが当たって気持ちいい。


「さわたり、脱がしてくれたんだよね」


 こんな状況だけど、沢渡から伝わってくる熱が背中に波紋のように広がって、すごい安心感がある。

 ちょっと気をぬくと寝てしまいそうなくらい。

 だから、私は自然と言葉を紡いでいた。


「まあ……緊急自体だったからな。許してくれ」

「……どうおもった?」

「ど、どう……とは」


 あんまり聞くべきではないのかもしれない。

 でも、聞いておかなきゃ前にすすめない。


「さわたりにとって、わたしはただの小さな子供?」

「俺はロリコンじゃないからな。子供の肌を見ても何とも思わん」

「そっか……」


 なんとなく予想はしてたけど、やっぱりきつい。

 そのまま何も言い出せずにじっと火を見つめていると、沢渡はいっそう強く抱きしめてきた。


「すまん。素直じゃなかった……お前は18歳以上だからな。この限りじゃない」


 ああ。もしかして沢渡もツンデレってやつなのかな。いつもど直球なくせに、肝心なところで歯切れが悪くなるんだから。


「さわたり、まだ素直じゃないでしょ。もっとはっきり言って?」

「それは得意の心音とやらで判断してくれ。 ……いつだって俺とお前は対等だと思ってるよ。18歳と5億歳。俺の方がちょっとだけ "おにーさん" だけどな」

「あはは、なにそれ。ジョーク上手くなったよねぇ」

「お前のせいでこうなってるんだからな」


 沢渡がすごく近い。声も耳元でささやくようにやってくる。きっとこの前の意趣返しだね。

 心臓ばっくんばっくんなの丸わかりなのに。


「もうちょっと寝ていい?」

「ああ。おやすみ。お姫様」


 私は沢渡に頭をなでられて、もう一度短くて深い眠りに落ちていった。



 ――



 ――――



 そして私は目がさめた。

 ぱちぱちと火のはじける音が聞こえる。

 背中は服越しになんだか柔らかくてもふもふとした感触がする。

 私はいつもの青いワンピースを身につけていた。


「よくねたー」

「おう。ちょうどいいな、肉が焼けたぞ」

「おおー! ……あれ?」


 沢渡が対面で肉? を天高く掲げている。

 じゃあ私が今寄りかかってるのはなんだ?


「ぴゅいっ♪」

「おわぁ!?」


 例のでっかいインコだった。ぴゅいって可愛らしいけど、耳元でやられるとすごい爆音なので心臓が止まりかけた。


「いいヤツでな。お前が起きるまで静かに暖めてくれてたんだぞ」

「ぴゅいぴゅいぴゅいみゅみゅみゅ♪」

「ぎゃあああ!? うるっさ!」


 堰を切ったように大音量で歌い出すヒュージインコ。あげく私の耳をかぷかぷと甘噛みしてくる。


「これから俺たちの腹に収まると考えると心が痛むな」

「えっ、 この子食べちゃうの……?」

「もちろん。そのために狩に出たんだからな」

「たしかにそうなんだけど……。やっぱり無しにしない?」

「それなら仕方ない。こいつを食べるしかないな!」


 沢渡がニチャァと笑いながら焼けた肉……毛の生えたクモの足を手渡してきた。

 すでに焼き終わっているあたり、もとからインコを食べる気は無かったのかもしれない。

 ……それにしても。


「おえ……どうやって食べるのこれ」


 私の腕よりもひとまわり太いクモの足。毛むくじゃらで、触ってみるとかなり硬い。

 ぽっきり折られた部分から、白い中身が飛び出しててかなりグロい。


「この白身を引っ張り出して食べるんだ。うまいぞ」

「へえ……。やっぱりチョコの味がするの?」

「何の話だ? まあ、これはカニの味だな」


 もぐもぐと美味しそうにクモ肉を食べる沢渡。

 グロいことこの上ないけど、背に腹はかえられない。私も餓死するわけにはいかないのだ。それに、これらゲームだし平気平気……。


「もぐ……」


 お、おおお? 柔らかくて、口の中でとろけるようで、味はコクがあるようであっさりしていて……これは美味しいのでは!


「うまいだろ?」

「ザリガニよりおいしいかも!」

「まあ……殻ごと食ってたからな、お前……」

「むかしのはなし」


 この前食べたシーフードバーガーにエビやカニがふんだんに使われてたらしいけど、なっとくの味だ。きっとクモも入っていたに違いない。

 しだいに私たちは無口になって、ひたすらクモの足を食べ進めていった。


「ぴゅいっぴゅっぴゅっ♪」


 そしてヒュージインコは捨てられたクモの殻をバリバリと食べ始める。


「うわ。あごの力すごいね……」

「もしかしたらクモと闘って勝てたかもしれないな」


 足を全部食べ終わる頃には、沢渡も私も満腹になっていた。

 ヒュージインコは体が大きいせいか、まだまだ食べ足りなかったようなのでクモの胴体もあげたら喜んで食べ始めた。

 その食いっぷりたるや頂点捕食者を思わせるほどの荒々しさだった。元クマの私がそう思うのだからまちがいない。

 沢渡よかったね。この子の首をひねろうものなら、逆に屠られてた可能性が濃厚だよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ