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28話 ゲームのお誘い

 

「にゃはあぁぁぁぁぁん……」


 ここは辺郷(へんきょう)リンバス。その辺境にある馬小屋。のさらに地下にある大浴場。

 私はお風呂に入れない長旅(からだは洗ってたよ)から帰って一息、久々にネコさんとお風呂に入っていた。


「う、うへへへ。だいじょぶ?」


 ネコさんはとってもセクシーな身体つきの私の先生だ。

 胸が大きいとかお尻が大きいとかそういうセクシーとはちょっと違う。バランスがすごいのだ。

 くびれというか、腰のラインというか、おへそというか……もう全部だ。全部セクシーなのだ。


「にゃあぁぁぁんはにゃあああぁん」


 そのネコさんが身体をくねらせて身悶えている。がんぷくである。

 何故かというと、どうやら私の土産話が原因らしく、沢渡の看病のくだりを聞くやいなや「あまぁぁぁぁい!」と吠えたあと、いつもみたいにごろごろ転がり始めてしまったのだ。

 いつもは笑いながら転がっているんだけど、今日はちょっと違う。目を閉じて、はないき荒くして、顔を真っ赤にそめて転がっている。あれ? いつもと変わらないかも。

 ともかく、ネコさんの肢体は最高でおじゃるな。


「ぐふふ……」

「ふぅ……。ありすちゃんまたすごい顔してるよ。それで沢渡くんとはどこまでいったの?」

「ど、どどどこまでって……お城に行った」

「あー! そこまで話してとぼける気? ほらほら〜〜おねーさんに教えなさい」


 で、でたー! ネコさんのふみふみ攻撃だ!


 ――説明しよう! ネコさんは人にちょっかいを出したいけど、あんまりやって嫌われるのがイヤだなって時に肩をふみふみと揉んでくれるのだ!


「ふぇ〜気持ちいい」

「こってるね〜。ありすちゃんよく頑張ったよ。えらいえらい」

「ぶっちゃけ戦闘とかより、沢渡の看病してる時がつらかったかなぁ。もう暴れ馬のごとくばったんばったんと……」


 はっ! しまった。自然と話をもどしてしまった。

 ネコさんのふみふみが続きを催促するように加速する。


「え、えーっと……なにもなかったよ?」

「ほんとぉ? だって、沢渡くんが回復したあと、こう……」

「……あたまなでてもらっただけ」

「えっだって聞く限りすごくいいムードに」

「あたまなでてもらっただけ」


 本当になにもなかった。

 なんだろう。考えたくないけど、もしかしたら対象外的な話も考慮しないといけないのかもしれない。

 からだ、ちいさいし……。


「ネコさんとボディを交換できればなぁ」


 なんて、ちょっと猟奇てきな発想が出てくるくらいには悩んでいるけど、こういうのは思っても口に出さないようにしないとね。


「こわっ!? ……でもそっかー。それでちょっと悩んでるんだね。ありすちゃんは」


 口に出てたらしい。


「やつは理性のモンスター」

「なにそれ……まあ、沢渡くんはそういうとこあるよね。それならもう、ありすちゃんがやっつけるしかないよ、理性のモンスター」

「……どうやるの?」


 巨大な仏像をイメージしてしまった。

 勝てる気がしない。


「そ、そりゃぁ〜〜あれでしょ、まず手をつないで……あ、もうハグまでしたんだっけ。えーっと。あとはナデナデ?」


 いや、だからそれは終わってるんだけど……?


「……ネコさんってもしかして」


 ふみふみふみふみふみ。


「ふぇ〜きもち〜〜」

「とにかく攻めるにゃん! 守りを捨てて攻めるにゃん!」

「なるほど〜」



 こうして久々のお風呂は楽しく過ごすことが出来た。

 ネコさんはやっぱり癒される。あと、今後の課題もみえてきた。

 私は私なりに鍛練していくぞ沢渡。



 ★



 翌日の生徒会室。

 いつものようにハンスがこそこそと内職をしていると、幽霊役員が二人、姿を現した。


「おっす」

「久々だな。ハンス」

「あああ! 不良ども! いったいどこまで遊びに行ってたんだ? 何日も音信不通になるなんて!」


 ハンスは嬉しいのか寂しいのか複雑な表情で二人を迎え入れた。


「異世界いってきたんだよ。勇者とか魔王とかがいて……それを裏で牛耳る魔法使いをぶっころした」

「物騒だなぁ」

「なかなかハードだったが、あとから報酬をもらえるらしい」

「未知世界にゲートをつないだってことは、かなりの高額になるぞ。うらやましいな。え? なんでかって? それは説明すると結構長くなるんだけど――」


 現在のリンバスは十分に発展の余地があるのと、物流も安定しているので、ゲートは既知世界のもののみが使われている。

 危険をおかしてまで(最悪、亀裂の先で即死する)未知世界とゲートを開通させようとする者はごくわずかで、そういった者は命を金に換えたいと願う者か、命を投げ捨てたいと望む者くらいであった。

 需要はあまり無いのだが、実際のところ未知世界には貴重な資源や発見、技術などが埋もれている可能性が高いため、その報酬は危険度も相まって高額となるのだ。


「――というわけなんだ」

「……zZZ」

「ああ寝顔も可愛いよアリス」

「きも! ちかよるな!」


 ハンスはそのまま大熊の横を通り過ぎると、バッグの中から金色のカードを二枚取り出した。


「ふふふ。君たち、お金が欲しいんだってねぇ……?」


 振り向いた彼の顔は少し痩せこけており、セリフと相まって怪しいことこの上ない雰囲気をかもし出している。

 連日のハードワークのせいなのだが、その事実を知る者はまるっこくらいである。


「悪いやつみたいだぞ」

「……ゲームは好きかい?」

「げーむ?」

「ふっ、いい食いつきだねアリ――」

「きょうみないね!」


 ハンスは出鼻をくじかれた。


「いや全部聞いてからにしてよ! おねがいだよ!」

「なんでそんな必死なのよ……。分かったから話してみて」

「ありがとうアリス! 恩に着るよアリス!」


 沢渡がするような合掌を真似して、ハンスは説明を始めた。


「このカードはね、ウームオンラインっていう新作のVRゲームに挑戦するためのカードなんだ」

「ぶいあーる?」

「バーチャルリアリティ。仮想現実か」

「お、サワタリは見た目によらず詳しいんだね。でもきっと想像してるよりも、もっと現実に近い……というか現実を超えた体験をすると思うよ」


 ハンスはまるで通信販売の宣伝でもしているかのように声のトーンを上げて力説する。


「そのゲームをプレイするための施設がもうすぐオープンするんだ! この地区だけじゃないぞ。リンバス各地はもちろん、インフラの整った既知世界でも一斉オープンだぞ! オイ! スゴイ!」

「ほえー」


 大熊は白目をむきながら全自動で相槌を打っている。興味が無いのは明白である。


「……でまぁ最初の話に戻るんだけど、このカードはお金の代わりになるんだ。ゲームをプレイして、条件をクリアしていくとカードにポイントが貯まって、それを現実で使えるようになる」

「電子マネーみたいなものか」

「そうだね。大手金融を始めとして多くの企業と提携しているから、本物のお金といっても差支え無いよ。これは世界中で注目されてる革新的な事業で、広告もバンバン打ってる。ゲーマーだけじゃなくて、普段ゲームをやらないような人達も沢山巻き込んだ一大ムーヴメントになるんだッッ」

「ほえー」


 ハンスは早口でまくしたてると、ふらっと糸の切れた人形のごとく椅子に座った。

 そして口元で手を組み、うつむき加減にぼそっと呟いた。


「……ゲームジャンルはMMORPG。結婚システムもある」

「ほえ……なにぃ!?」


 大熊が再起動する。


「花火もある?」

「……もちろん。夏祭りクリスマス恵方巻きイースターエッグ。あらゆる世界のあらゆる人種が集まるとなれば、そこにイベントが生まれるのは必然的だ」


 ハンスは営業勝利を確信した。二人の行動決定権をもつ大熊がやる気になったのだ。


「待て、ハンスは参加しないのか? そんなに美味しい話なら――」

「参加するとも! 僕はこのビッグウェーブに乗る気満々だぞ。そのうちゲーム内でチームを組もう、こういうゲームはグループ行動が強いんだ」


 食い気味にそう言うと、ハンスは二人に金色のカードを手渡した。


「あ、あと店員さんにはハンスの紹介でって一言いうんだぞ!」



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