27話 マーブル
「異世界ゲート、オープーーーーーーン!!」
帰還の宝石とブラックロータスが共鳴して巨大な亀裂を中空に作り上げる。
亀裂はすぐに大きく開き、向こう側に見覚えのある室内が映し出された。
「安定してるな」
「もう謎空間に飛ばされることは無さそうだね」
大熊・沢渡とイーリス・アザレアが互いに向かい合う。別れの時だ。
「お二方、本当にありがとうございました。これからは魔物と人類の共存を目指して頑張っていきたいと思います」
「たくさん殺しちまったからな。遺恨はすぐには消えないと思う。種族差別も当然あるだろう。だが、それをなんとかする責任が俺たちにはある」
二人の顔つきは、初めて沢渡たちが訪れた時よりもはるかに前向きなものに変わっていた。
「じゃーね。仲良く、すえながく、おしあわせに!」
「達者でな」
「また遊びにきてくださいねー!」
「その時には今よりも居心地いいとこにしとくぜ」
大熊の「せーの」の合図で亀裂をくぐる。
二人は元の世界であるリンバスの異世界ゲートビルの異世界ゲートフロアの地に立っていた。
後ろの亀裂は徐々にしぼんでいき、ばちんと音を鳴らしてかき消えた。
「さて」
「あやまりますか……」
二人は受付に破損した帰還の宝石を返却しなければならない。
くわえて、もともと受けていた "異世界キノコ狩り" の目標は未達成。収穫ゼロである。
「ええー!? ずいぶん長く滞在してたと思ったらそんなことに……。無事に帰ってこれてよかったです」
受付は優しかった。怒るどころか、二人の安否を心配してくれていたのだ。
そして真っ二つに割れた宝石を受け取ると、神妙な顔で虫眼鏡をあてはじめた。
「罰則金を……と言いたいところですが、これすごい馴染んでますね。復元すればあなた方の行った世界と半永久的にリンクできそうですよ。ちょっと私の判断で今すぐに功績を認める事は出来ませんけど」
「えーっと……つまり?」
「罰金とか無いから謝らなくてオーケー! むしろ後から報酬が支払われます! ……キノコ博士にはあとで私から事情説明しときますので、静かに帰ってください」
二人は言われるまま、そっと異世界ゲートビルを後にした。
時刻は夕陽の沈み始める黄昏時。
しかしリンバスの都市は明かりが多いので、イーリスがいた世界と違って視界が悪くなるような事はない。
「ふぅ~~…… かえってきたーって感じね」
「思っていたよりも長旅になってしまったな」
「とりあえず馬小屋にもどったらお風呂だー」
そして二人は馬小屋に戻り、日常に帰っていくのであった。
この日の地下大浴場で、大熊は例によってイェーネコへ大冒険の体験を報告するのだが、イェーネコはそれを聞いてたいそう身悶える事になる。
それもまた大熊たちが日常に戻った事を再確認できることがらの一つで、リンバスという世界に馴染んできたという事実でもある。
それでも日々成長を続けるリンバスは、彼らにこれからもより多くの刺激を与え続けていく。
たとえば、もうすぐハンスが資金繰りに大変苦労した施設のひとつが出来上がり、それはリンバスの人々に多大な影響をもたらすものであり……。
でもそれはまた、別のお話。




