終演
終演
北原高校演劇部の「人魚姫」は無事に演目を終えることができた。
開演すれすれで、しかもずぶ濡れで戻ってきたため、俺は赤木に怒鳴られ、誠也にしかられた。
土壇場での演技ではあったものの舞台は大会以上の出来で、文化祭が終わった後も、学校ではしばらくの間舞台の話で持ちきりだった。
3年生は文化祭の発表で引退が決まっていたから、もう俺が王子様として舞台に立つことはない。
「ちっ。煙草切らした。唐都木、持ってない?」
昼休み、中庭で暗記カードを捲っていると、機嫌の悪そうな赤木がどかりと隣に腰を降ろし、購買で買った牛乳を啜っていた。
「生徒が持っているわけないでしょう? 昼練、見に行かなくていいんですか?」
「あいつらで勝手に出来るからいいの」
空を見上げると、赤とんぼが飛んでいた。赤木は口寂しいのか、牛乳パックのストローを咥えて遊んでいる。
「先生は、アンデルセン童話の『人魚姫』どんな物語だと思います?」
「は? 突然どうした唐都木。らしくない質問だな」
「いいから答えてくださいよ」
「どんな物語、ねえ・・・」
ストローをパックに突き刺し、赤木はほうと息をついた。
「片思いの物語じゃないかな。王子が人魚を選べば、姫は恋に敗れるし、姫を選べば、人魚は消える。何も知らずに幸せになるのは、王子ただ一人だよ」
「・・・」
「でもな、唐都木。僕は思うよ。王子がもっと察しがよかったらってね。ありゃ鈍感すぎ」
・・・どうしてか、赤木が俺を見下すような、蔑むような目で見ている。
「・・・赤木先生。俺、なんかしました?」
予鈴が鳴る。赤木は大きくため息をつくと、持っていた古典の教科書の角で頭を小突かれた。
「こりゃ、相川も苦労するわ・・・授業遅れんなよ」
俺にさりげなく空の牛乳パックを押し付けると、赤木は教室へ向かった。
空には叢雲が、魚の鱗のように一面に広がっている。
クレアもこの空を眺めているのだろうか。そんなことを呑気に考えてる俺が相川の気持ちに気づくのは、少し先の話だった。
北澤様の綺麗な人魚のイラストをもとに、お話を書かせていただきました。
大切なイラストを拝見させてくれた北澤様、最後までこの物語を読んでくれたあなたに、心より深い感謝をもちまして、終演とさせていただきます。
閲覧ありがとうございました!




