プレイヤー「進まねえ」、キャラクター「休めねえ」、ゲーム機(元凶)「こいつら相容れねえ」、開発会社(黒幕)「修理費で儲かった」
「お、起動した。おお! ちゃんと俺の言葉が画面に出てるじゃーん! キャラにも聞こえてるってことだよな? レイアウトは、白い背景に黒文字だけ。逆のが好みだが、まあいっか! 一文字ずつの表示だが、声の読み取り速度も悪くねえ」
なんだろう? どこからか声が聞こえる。
この休まりの川には私一人しかいなかったはずだ。
誰かやってきたのだろうか?
私は辺りを見まわす。
周りには人が隠れられそうな木々や草むらがある。
しかし人の気配はまったくない。虫の鳴き声が聞こえるだけだ。
やはりここには私しかいなかった。
「幻聴だろうか?」
最近は旅先での戦いが多かった。
そのため疲れが出たのだろう。
私はふたたび視線を川に
「もしもーし! 勇者さーん! 聞こえてるかー!」
私の耳にまたもや声が届く。
先ほどよりもずっと大きな声だ。
今度ははっきりと聞こえた。
それは男の声だった。
いきなりの大声に少し体が震えたが、落ち着いてあたりを見まわす。
やはり誰もいない。
それに先ほどの声、特定の方向から聞こえたというよりは全ての方
「いつまでもつまらねー推測してんじゃねー! さっさと冒険に行きやがれ!」
男の怒鳴り声が耳に響く。
冒険、冒険だと?
この声の主は、わざわざ休息のために故郷帰りしている私に、今から冒険しろというのか?
ああ、なんて理不尽な話だろうか!
「声の主よ! あなたは何者なのだ!」
私はあくまで冷静に、怒りの感情を表に出さないように呼びかける。
本当ならば怒鳴りたいのはこちらなのだ。
「はあ? なんで俺の個人情報を聞くわけ? 俺はオメー・バーカだよ」
男は不機嫌そうに答える。
コジン……、というのはよくわからない。
だがオメーというのは珍しい名前だ。
「オメーというのか。オメーは、……なんだ? なぜ姿を現さないのだ?」
先ほどからオメーの姿は見当たらない。
オメーにもなにかしらの事情があるのかもしれないが、訳くらいは聞いて
「さっきからオメーオメーうるせえなあ! 俺はなぁ、おめーを今すぐ殺すことだってできるんだぜ! わかったなら礼儀ってもんをわきまえろ!」
オメーの叫びが、私の頭に響き渡る。
オメーを殺すだと? 一体どういうことだ?
まさか彼は自らの命を絶とうとしているのか?
オメーの精神が不安定なことからも、その可能性はた
「高くねえよ! てか、マジふざけんなよ、おい! さっき俺の台詞は『おめー』ってひらがな表記だっただろーが! 機械が識別できてんだからキャラにも識別させとけよ! 今も二重括弧つけてるじゃねえか! 絶対おちょくってるだろ!」
オメーは吐き捨てるようにほとんど理解不能なことを叫ぶ。
あれ?
高くねえよ、というのは私への返事だろう。
だが、さっき私は思ったことを口に出していただろうか?
いや、口に出してはいないはずだ。
ということは、オメーという者は心が読めるのか?
「オメー、……じゃなくてバーカ。あなたは心が読めるのか?」
私は名前を呼ばぬように気をつけながら、恐る恐るバーカに尋ねた。
「呼び方悪化してんじゃねーか! 読めるよ! 機械、ってか、なんだ? つまり魔道書だ! 魔道書にお前の発言やら思考やらが書かれていくんだよっ! あと名前戻せポンコツ!」
なんと、そのような魔道書がこの世にあったとは!
私は驚きを隠せなかった。
私はこれまでに数々の魔道書を見て来たものの、人の心を読む魔道書などというのは
「いいから冒険しろよ! お前の故郷を滅ぼしてやろうか!」
オメーの心ない一言が、私の胸に深く突き刺さる。
故郷を、滅ぼす?
ありえない話ではなかった。
人の心に影響する魔道書というのは聞いたことすらない。
未知の魔法。未知の力。そんなものを使われては村は大混乱になるだろう。
それどころか、オメーが人々の心を惑わす魔法を使えるかもしれない。
村の住民同士で争いが起きれば、人々は互いを信用しなくなり、村は滅ぶ。
私は、言葉では言い表せないような、寒気のようなものを感じた。
これが恐怖というものだろうか?
しかしそれだけではない。
私の家族、知り合いの命が敵の手中にある。
その事実が頭によぎると、私の中には恐怖とは別の感情が湧き上がってきた。
こいつが許せない、絶対に許さない!
なにかするようであれば、殺す!
怒りだった。
私は始めて、相手を殺したいと思うほど
「もうちょっと苦しめよ。あーあ。こりゃ本当に滅ぼすしかないかなー」
オメーの飽きれたような声が聞こえる。
私は、怒りを隠そうともせずに叫んだ。
「やってみるがいい。だが覚えておけ。そのような真似をしたら貴様を必ず殺す!」
勇者らしからぬ本気の叫びだった。
自分の息の荒さ、手の震え、高過ぎるほどの体温。
私の体の全てが、私の心に渦巻く心情を表していた。
オメーよ、私の心が読めるのだろう?
ならばわかるはずだ! 私の本気の怒りが! 貴様への殺意が!
「文字でわかるわけねーじゃん。それに冒険行けば滅ぼさねえつってんだろーが! 早く行けよ、死ね!」
オメーの真意はわからないが、とりあえず冒険すれば故郷に手を出さないらしい。
少しだけ心が落ち着く。
私の選択は一つだった。
旅に出る、という選択である。
私はひとまず、今から冒険に出ることを伝えるために村へ
「余計な会話イベントなんか挟むんじゃねーよ! すぐ行け!」
オメーはなんて横暴な男なのだ。
私がいきなり居なくなって、家族はきっと心配するだろう。
会う約束をしていた友人にも迷惑をかける。
私は、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。
久々に会えた村のみんなや家族たち。
彼らとの別れが、これほどに無粋なものであるのが辛い。
そんな気持ちとは裏腹に、私は村とは反対側へと歩いていった。
「ちんたらしやがってよー。手間かけさせんじゃねえよ、ったく!」
私は川に沿って歩き続けた。
気づけば周りに木々はなく、見渡しのよい平原にきていた。
オメーはここ数時間ほど呼びかけているものの、なんの返答もない。
やはりただの幻聴だったのだろうか。
冷静に考えれば、あんな横暴な人間など私は見たことがない。
私はまだ大陸内の町をいくつか周っただけの弱小者だ。
だから不安なのだ。これから新大陸へ赴くことが。
私は新たなる地へ足を踏み入れることを、初めてこの地を離れることを、……恐れている。
だからあのような人間像を作り出してしまったのかも
「んなわけねえだろ! っつーか、てめえなにが故郷帰りだ! まだまだ序盤も序盤じゃねえか! さっさとラスボス戦まで飛ばさねえとマジで機械ごと全部ぶっ壊すぞっ!」
どうやら気のせいではなかったようだ。
ああ、なんて非情な世の中なのだ。
私はただただ長い別れとなる故郷をこの胸に刻んでおきたかっただけなのに。
なぜこのような者に絡まれなければならないのか。
気が重い。
しかし私は故郷を人質にとられてしまっている。
さらにオメーは『キカイ』を壊すとも言っていた。
『キカイ』というのはよくわからないが、きっとこの世界に関する重要なものだろう。
どちらもオメーなどに壊させはしない。
私が勇者として全てを救い出してみせる!
私は足早に、新大陸への船がでている港町へと向かうのだった。
「おらおら! さっさと魔王と決戦しやがれ! スキップ! スキーップ!」
私は魔王を倒した。
しかし私には何も残っていない。
冒険の目的も、勇者としても使命も、なにもかもが今の私にはない。
そんなものは私の復讐心によって焼き尽くされてしまったのだ。
あの魔王でさえも。
そんな復讐の旅であったが間もなく終わりを迎える。
私の復讐心の行きつく先は一つ。
魔王の言っていた、邪神である。
私は邪神への復讐のためにこの旅を続けてきたのだ。
姿を現さずに、人々を蹂躙するという邪神。
謎に包まれていた、全ての元凶。
しかし、私には邪神の見当はついている。
「ちっ。なんだよ魔王戦終わっちまったのか。まあ邪神がいるみたいだからいいや。あとなんか闇落ちしてね?」
私の耳に声が届く。
忘れもしない、二年前のあのときとまったく同じ声。
奴が再び私の前に現れたのだ!
「ついに現れたか」
私はどこにいるかもわからない声の主を睨みつける。
「おひさー。つっても、いち、にぃ、……数十数行ぶりだけどなぁ! それよりさっさと邪神倒さねーと村を」
こいつこそが、私の復讐劇の元凶!
私の故郷帰りを邪魔した張本人。
故郷を襲った魔物から、故郷を守る機会を奪った張本人。
私の家族や友人の、仇っ!
「あれ、おめーの故郷滅んだの? かわいそ」
オメー。そうだオメー。
思い出した、オメーだ!
軽口を叩くオメーだが、私にはなにも聞こえはしない。
私の心は、こいつの声を受け付けない。
こんな奴に惑わされたばかりに私は全てを失ったのだ。
今ならば、魔王の言っていたことが理解できる。
『邪神様は体を待たぬ身。勇者よ、邪神様はお前の強靭な体を気に入っているのだ。きっとお前の精神を侵し、貴様を乗っ取るだろう』
魔王は言っていた。
邪神は私の体を気に入っていると。
私の精神を侵して乗っ取るつもりだと。
故郷を滅ぼされ、今の私は復讐のために生きている。
邪神の、邪神オメーの策略だったのだ!
「なにが邪神オメーだよ笑わせんな(笑)! おいちょっと待て怒ってるんだよ(怒)! なに勝手に括弧つけて感情表現してやがる! 無駄機能消せよポンコツ機械がぁっ!」
真実を突かれたからか邪神オメーは声を荒げる。
しかし……。
オメーの真意を今暴こうとも、もうなにが変わるわけでもない。
村はすでに滅ぼされ、復讐心に囚われた私の心はもう元に戻りなど
「てめーのくだらねえ妄想はもう十分なんだよ! さっさと邪神を倒しに行きなっ!」
私の心はもう戻らない。
いずれ私の心は邪神に支配されてしまうだろう。
そしてこの体は邪神のものとなってしまう。
この、憎き相手の思いのままにっ!
「貴様の言葉など耳に届かぬ! よく見ておけ邪神よ! これが二年前、私が味わった絶望というものだ! 次は貴様が味わうがいいっ!」
私には、こうするしかないのだ!
私は剣を抜き、自らの胸に向かって刃を深々と突きたてる。
剣を受け入れた私の胸部からは、代々受け継がれてきた勇者の血が流れ落ちていく。
「なっ、なにやってんのこいつはあああああぁーっ! またストーリー最初からやり直せってのかよおおぉっ! あああぅ!」
邪神オメーの悲鳴とも思える怒号があたりに響く。
当然だ。乗っ取るつもりの肉体が今まさに失われようとしているのだ。
勇者の血を受け継ぐ体だからこそ、邪神の憑依でも壊れることがない。
魔王に勝てるほどの体だからこそ、邪神が欲しがる。
だが、邪神にくれてやるくらいなら、喜んで肉体を天に捧げよう!
私は最後の一押しに、ゆっくりと剣を体の奥まで突き入れていく。
もう剣を押す力もなくなってきている。
私は足から地面へと崩れる。
私は地面に倒れ伏し、私自身の重みで剣は内部を突き進む。
やがて剣は背中に達した。
剣は私を貫いた。
薄れゆく意識の中、私は邪神に一言だけ語りかける。
「思い通りに、なったか、な?」
………
………
………
邪神からの返事はなかった。
GAME_OVER
ゲームを終了するときは終了宣言をしてください。
ゲームをやり直すときは開始宣言をしてください。
反省会へ移動しますか?
(あなたと出会った状態のキャラと、一緒に反省会が出来ます)
「勝手に無視して進めてんじゃねーぞあああっ! ざけんな時間返せおらあああ
Error!
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