桜舞い散る銀色の夢中
銀色は学校の現代国語が好きだ。
この人になって、どういう気持ちで、なんて言いたかったか。無関係な自分自身が、どうやっても細やかな心情などわかりはしないのに、『正解』と言われると非常に嬉しかった。
その点、古典はいけない。
すぐ手紙を書きたがる。どうして逢いに来てくれないのと恨み辛みを書き綴る暇があるならお前が来いよ。そんなもの、未読スルーだ。
その銀色が大好きな現代国語のテストで、面白い文章が抜粋されていた。西洋と日本の建築についての考察だ。
『西洋の建築物に石造りが多いのは不変を美しいと思うから。
また、日本に木造が多いのは変化を美しいと思うから。』
確かに。と、銀色は思う。
変わらないものなんてない。あったとしたら、それは偽物だ。
テストの解答欄を埋め終わった銀色は終了の時間まで、しげしげと出典文を記憶に留めようと刷り込む。
遺伝子レベルで組み込まれた嗜好の存在から銀色の全てを、会ったこともない作者に見透かされた気がした。
小春日和の午後は閉めきられた教室に、聖母の後光にも似た優しい日射しを注ぐ。これで眠たくならないやつがいたら、そいつは昨日26時間寝たに違いない。
――かっかっかっかっ――
と、鉛筆で答案用紙を汚す戦士達。
まだ終了の鐘が鳴らない。
うつらうつら。飽きるまで抜粋部分を読んだ銀色は船を漕ぎ始めた。
次のテストは、苦手な世界史だ。
世界が昔どうであったか知って、今の日本に関係あるのか……否ないだろう。どうにも身が入らない。
ずっと。
こうして微睡んでいたいのに。
『……』
はた。と、銀色は意識を覚醒させた。
正確には覚醒したというより、自我が居場所を理解したと言うべきだろうか。
銀色は龍になっていた。鱗で覆われた肢体の先端を守る鉤爪、感覚は無いが自分の意志で右往左往する尾が視界に入ってくる。
己が銀色だと理解した銀色は、同時に『これは夢だな』、とも思った。
眼前に大きな桜が生えていて、周囲には何もない真っ白なだけの世界が見渡す限り続いている。
季節外れの桜が散る。
薄紅の花弁が閃く。はらり、ひらり、またはらり。
突風でも吹けば絨毯ほどに積もるだろう勢いで散っていく。桜の五月雨が龍になった銀色を覆いつくしてしまいそうだ。散ってもちっとも花弁は止まない。
龍と桜なんて、日本人じゃなくても浮世絵にしたくなる。銀色はふるっと身体を揺すり、落とした花びらに顔を埋めた。衝撃の風でまた舞い散り、降り注ぐ。瞼を閉じると明暗で、暖かい雪が積もっていくのがわかる。
なんて風流で趣がある夢幻だろう。
いと おかし。
『あぁ、美しきかな』
あちらが、夢で良かったのに。
――きーんこーんかーんこぉおおん――
『はい、うしろ から まえ に まわしてー』
一抹の願を両断する鐘の音が響いた。
おや?こっちも夢だぞ。




